☆トキソプラズマ感染症と自閉症の関連 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

男性ホルモンと自閉症についての質問があり、2015.3.25「Q&A642 テストステロンと自閉症の関連」の記事で回答致しました。この論文を探していた時に見つけた新たな視点に立った論文をご紹介します。本論文は、妊娠中のトキソプラズマ感染症と妊娠中の男性ホルモン増加と自閉症の関連を示したものです。あくまで関連ですので、因果関係はわかりませんが、極めて興味深い内容です。

Front Behav Neurosci 2014; 8: 339(イラン)Review
要約:自閉症は約1%の方に見られる疾患であり、最近、胎児期(妊娠中)の男性ホルモン(テストステロン)との関連が示唆されています。もともと自閉症は男性に多く認められ、男女比は4:1です。またアスペルガー症候群も同様で、男女比は11:1です。この事実から「自閉症男性脳説」が登場しました。一方、トキソプラズマ感染症は世界の人口の約1/3にみられることが知られていますが、実際に報告される罹患率は25~30%程度です。つまり不顕性感染(無症状で感染している状態)が存在することになります。ヒトおよび動物では、トキソプラズマ感染症は、行動異常や精神疾患の罹患率が増加するという報告があり、また男性ホルモンが増加しているという報告もあります。そこで、トキソプラズマ感染症、男性ホルモン、自閉症に関する論文を調査した結果をまとめました。

男性ホルモン
2009、2010年:自閉症傾向の方では、妊娠中の羊水の男性ホルモン濃度が有意に高い(特に男児)
2013年:自閉症の方では、妊娠中の血中の男性ホルモン濃度が有意に高い
2014年:自閉症の方では、妊娠中の羊水の男性ホルモン濃度が有意に高い

第2指/第4指の長さの比率(男性ホルモンの間接的証拠)
第2指/第4指比が低いと胎児期(妊娠中)の男性ホルモンが高く、高いと胎児期(妊娠中)の男性ホルモンが低いことが知られています。つまり、男性は第2指<第4指女性は第2指>第4指の傾向があります。
2004~2010年:自閉症、統合失調症(精神分裂病)、不安、抑うつ、行動異常では、第2指/第4指比低下
2014年:自閉症、ADHDでは、第2指/第4指比低下

トキソプラズマ感染症
2005年:トキソプラズマ感染症では、第2指/第4指比が有意に低い
2005年:トキソプラズマ感染症の男性は身長が有意に高い
2007年:トキソプラズマ感染症(IgG抗体陽性)の母体から出産した児の男女比は男児が有意に多い(男児:0.608)、同様の現象がマウスでも認められる
2008~2010年:トキソプラズマ感染症では、胎児期(妊娠中)の男性ホルモンが有意に高い
2006~2014年:トキソプラズマ感染症では、ドパミン増加、セロトニン減少、トリプトファン減少、キヌレン酸増加

男性ホルモン(テストステロン)関連疾患
2007~2014年:多毛、バイセクシャル、アセクシャル=無性愛、生理不順、月経困難症、PCOS、ニキビ、てんかん、おてんば、子宮癌家族歴、卵巣癌家族歴、自閉症、ADHD、行動異常、自傷行為、自殺企図

解説:近年、感染症が各種疾患の原因や発症のトリガーであることが明らかにされるケースが増えています。たとえば、ピロリ菌感染症は、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などの胃疾患のみならず、リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹、重症妊娠悪粗(ひどいつわり)などの疾患の原因となることが明らかとなっています(2013.1.6「ピロリ菌でノーベル賞」)。抗リン脂質抗体症候群(APS)は、遺伝的素因に加えてごくありふれたウイルス感染(カゼウイルスなど)がトリガーとなって血栓症を引き起こすと考えられています。歯周病(歯肉への細菌感染)は、心血管疾患、2型糖尿病、呼吸器疾患、腎疾患、妊娠中のトラブル(早産)と関連があることが知られています。また、歯周病がある女性は妊娠しにくいことも報告されています(2012.12.12「☆歯周病と妊娠」)。本論文は、トキソプラズマ感染症と自閉症の関連について示した極めて興味深いレビューです。

また、羊水中の男性ホルモン(テストステロン)測定は、全員には難しいですが、第2指/第4指比で胎児期(妊娠中)の男性ホルモンを間接的に判断できるという情報も重要です。トキソプラズマ感染症は最近増えていますので、先天性トキソプラズマ症の観点だけでなく、自閉症の観点から見直す必要がありそうです。