本論文は、卵巣反応が低下した方に成長ホルモン(GH)が有効か否か検討したものです。
Fertil Steril 2016; 105:697(エジプト)
要約:2014~2015年にアンタゴニス法で顕微授精を行った卵巣反応不良の方141名をランダムに2群(GH投与群、GH非投与群)に分け、前方視的に検討しました。なお、卵巣反応不良の定義は、2011年ESHREの定義を用いました。
卵巣反応不良は、①~③のうち2つを満たす場合とする
①40歳以上か卵巣のオペなど卵巣反応不良のリスク因子
②採卵数3個以下
③AFC 5~7未満かAMH 0.5~1.1 ng/mL未満
なお、本論文では、FSH>20 IU/L、卵巣手術既往、卵巣反応不良以外に明らかな不妊原因のある方は除外しました。HMGは300~450単位を使用し、GHは2.5 mg(7.5 IU)をCD7から採卵前日まで用いました。また、新鮮胚移植は最大3個まで移植しました。結果は下記の通り。
GH (+) GH (-) 有意差
HMG投与日数 10.8日 12.0日 あり
アンタゴ日数 6.9日 8.0日 あり
HMG投与総数 3900 IU 4900 IU あり
最大E2値 1862 pg/mL 854 pg/mL あり
採卵数 7.6個 4.9個 あり
成熟卵数 4.5個 2.5個 あり
受精卵数 4.0個 2.4個 あり
移植胚数 2.9個 2.0個 あり
臨床妊娠率 22.1% 15.1% ー
着床率 11.9% 9.9% ー
生産率 14.7% 10.9% ー
解説:卵巣反応不良の定義は長らく曖昧でしたが、2011年にESHREの定義ができてから一定になりました。卵巣反応不良の方に、これまでに様々な方法が試されてきましたが、全ての方に有効な方法はみつかっていません。GHは、HMG/FSHに対する顆粒膜細胞の反応を改善すること、IGF1産生の増加、卵巣内の女性ホルモン産生の増加が実験で示されています。しかし、臨床的にはGHの効果には賛否両論があり、一致した見解は得られていません。本論文の研究は、このような背景のもとに行われました。本論文は、卵巣反応不良の方にGHを用いると、採卵数、成熟卵数、受精卵数、移植胚数は有意に増加しますが、臨床妊娠率、着床率、生産率には有意差を認めないことを示しています。
2010年に発表されたCochraneレビューでは、GHの有効性を示す記述がありますが、小さな研究からの結論です。また、ESHREの定義がその後であることや本論文の結論から、大規模な臨床研究が行われるまで、GHの有効性の判断には慎重であるべきと本論文の著者らは述べています。