Q&A1200 海外から相談 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 妻41歳、夫35歳 妊娠歴なし、妊活約4年
・2005年に卵巣腫瘍で腹腔鏡手術にて腫瘍を摘出 
・左右卵巣は多嚢胞性卵巣どちらかというと痩せ形 
・母、妹は甲状腺機能亢進症 
・AMH 2014年:22、2016年:32.8(PCOSのため高めと思われます) 
・2016年4月からDHEA3ヶ月程摂取中 
・NK細胞、鉄亜鉛、ビタミンDチェック済み:異常なし 
・精子検査、2014年奇形あり、その後改善し現在は問題ない

【治療歴】
★2014年9月、一度目の採卵(IVF・16個採卵中5個胚盤胞に成長)し、新鮮胚移植及び凍結胚移植、5つの胚盤胞いずれも全く着床せず
★2015年に引っ越しに伴う転院で再度採卵(ICSI・5個採卵中1個のみ胚盤胞に成長)し、PGS検査→染色体異常だったため移植せず破棄。PGSを行った事情は、前回の採卵で一度も着床しなかったことと、凍結胚移植にかかる費用と精神的負担を考慮して初めから異常のある胚を移植しない方向で検討したため)
★2016年6月子宮鏡検査及びスクラッチ手術(子宮内に大きな問題は見受けられない)
DHEAの効果が現れるのを待つ間、妊娠希望の場合はTSH:2.5ぐらいまでが望ましいと拝見したため、(2016年4月TSH:4.0 FT4:13 FT3:4.4 機能低下状態?)主治医に相談したところ、Thyroxine(Eutroxsig・50microgram)を処方されました。
摂取を続けた後、体重が急激に減少したのが気になり、2016年6月血液検査をしたところ、TSH:0.05 FT4:28 FT3:9.0と急激に亢進症状態(?)となってしまいました。摂取量は主治医の指示通りでしたがそもそも微調整でよかった数値に対して摂取量が多すぎたのだと思います。Thyroxineを中止後2週間ほど経過しましたが、TSH:0.05 FT4:31 FT3:11.2と状況は改善しておらず、本日甲状腺の専門医を紹介されました。私からの提案ではありましたが、投薬量について適切な処方ではなかったように感じ、今後の治療にも影響するのではと残念に思っています。主治医曰く採卵は問題ないが胚移植には影響するとの事。年齢の事も考慮して採卵だけでもできるだけ早く行っておきたいとの事で、今月生理が来た段階でホルモン補充による採卵(授精及び凍結)を検討されています。(移植は数値が安定してから)

Q1 甲状腺の数値があまりよくない状況(亢進症・低下症)での採卵は問題ないのでしょうか(卵子・採卵数への影響)。甲状腺機能亢進症の治療になった場合、投薬などにより採卵するのは難しくなりますでしょうか。
Q2 1度目IVFの採卵数が多かったため、2度目はホルモン注射の内容など踏襲しましたが、結果的には採卵数も少なく胚盤胞にまで成長したものも1つのみとなりました。2度目はPGS前提のICSIであったので1度目とは大きく異なりますが、今回は精子に問題なければIVFにするといわれています。IVFでいくつか凍結できたとしても遺伝子異常があれば着床しづらいのではないかと懸念があります。もしそうであれば何度も凍結胚移植をして費用がかさむだけになってしまわないか心配です。
Q3 精子に問題がなければICSIを行う必要はないでしょうか。1度目からは2年経過しているものの、その際の方法(IVF)を踏襲するほうがよいのでしょうか。

日本での治療歴はないので予想ではありますが、海外の場合、血液検査一つとってもこちらからリクエストしないと行っていただけないこともあり、今後何をすべきか、悔いのないようにと思うと悩むことが多々あります。年齢や金銭的なことからもこの先何度もトライできないと思うと焦ります。
他に何かできることがあればアドバイスいただけると幸いです。…とあまりにも考えすぎると、ニュートラルな気持ちから遠ざかりそうでいけませんね。。よろしくお願いします。

A 海外での治療は、言葉や人種や生活習慣の壁など様々なストレスが生じると思います。
A1 甲状腺機能異常(亢進症、低下症)は、胚移植や妊娠に影響すると考えられていますが、採卵に影響するかどうかは明らかではありません。私の経験上は、問題ないように思いますが、機能正常でトライするのが望ましいと思います。なお、採卵周期のTSHは増加することが知られています。
A2 1回目と全く同じ方法で採卵するのが良いと思います。異常胚の移植を回避し、凍結胚移植にかかる費用と精神的負担の軽減を狙う作戦として、PGSは極めて有効な方法です。
A3 PGSを実施する場合には、原則としてICSIが望ましいとされています。

PCOSの方にDHEAを使用するのは好ましくないかもしれません(テストステロン増加をきたすため)。DHEASとテストステロンを採血で調べてみることをお勧めいたします。検査センターの示す基準値は、いわゆる一般の基準値であり、妊娠を目指す場合の基準値とは異なります。妊娠を目指す場合に、テストステロンは、0.2~1.0 ng/mL(20~100 ng/dL)を目標にしてください。また、DHEASは200 μg/dL以上を目標にしていますが、DHEAを増やしすぎると、テストステロンも増加しますのでご注意ください。

体格が違うため、薬剤の量は白人と日本人では異なります。日本では、Thyroxine(チラージンS)は25microgramから開始するのが一般的です。潜在性甲状腺機能低下症(TSH増加)は、海藻摂取増加で生じることがあります。該当する場合には、Thyroxine(チラージンS)投薬ではなく海藻摂取を減らすことで改善される場合があります。

下記の記事を参照してください。
2015.9.18「Q&A823 ☆TSHの変動について」
2015.9.21「☆潜在性甲状腺機能低下症の取り扱い」
2014.3.26「☆男性ホルモン関連のまとめ」