腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復についての報告です。

 
Fertil Steril 2017; 107: 289(ベルギー)
要約:残存筋層3.0mm未満の帝王切開瘢痕欠損部があり、不正出血、月経困難症、性交痛、慢性骨盤痛の症状を有する38名の方を対象に、腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復術を行い、前方視的に経過観察しました。手術方法は、まずCO2レーザーにより帝王切開瘢痕欠損部を横に開き、正常筋層が見られるまで線維性組織を除去します。子宮頸部から子宮体部にへガールを挿入しながら筋層を2層で縫合します。1層目はバイクリル2-0の単結節縫合、1層目は2重縫合、腹膜はモノクリル0の連続縫合としました。また、後屈子宮では帝王切開瘢痕欠損部の頻度が増加するとの報告があるため、後屈子宮の方には両側円靱帯の短縮を行いました(前屈子宮にする処置)。最後にへガールを除去し、子宮鏡で修復部位の確認を行いました。残存筋層の厚さをMRIで評価したところ、術前1.4mm、術後9.6mmと有意に改善しました。術後35名の症状は消失しました。不妊症18名のうち8名が妊娠し、健常な赤ちゃんを帝王切開により出産しました。帝王切開瘢痕欠損部の病理検査により、子宮内膜症病巣(8名)が認められ、筋層のファイバー組織密度の減少が認められました。
 
解説:帝王切開率は、米国で30%、中国で35〜58%、ブラジルで80%と各国で事情は異なりますが、年々増加傾向にあるのは間違いありません。帝王切開瘢痕部の欠損は、1回の帝王切開で61%、3回の帝王切開で100%に認められるとの報告があります。また、帝王切開瘢痕欠損部の離開や破裂のリスクは11〜26倍であるとされています。帝王切開瘢痕欠損部の残存筋層の厚さについては、2.5mm、2.8mm、3.0mmを基準にするのが良いとの報告がありますが定まっていません。また、帝王切開瘢痕欠損部による症状として、不正出血、月経困難症、性交痛、慢性骨盤痛があります。不妊症のリスクは4〜19%になるとの報告がありますが、これは帝王切開瘢痕欠損部からの液体が子宮内に貯留し、精子の輸送障害や胚の着床障害をもたらすのではないかと推測されています。これまでに、腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復法についての報告が、2003、2008、2013年にありましたが、いずれも小規模なものでした。本論文は、これまでで最大の症例数であり、なおかつ帝王切開瘢痕欠損部の病理学的データを初めて報告したもので、症状があり残存筋層3.0mm未満の帝王切開瘢痕欠損部の方には、腹腔鏡による帝王切開瘢痕欠損部修復術が有効であることを示しています。ただし、症状のない方はその限りではありません。また、将来妊娠を目指す方には手術の選択があるとしています。