☆ビタミンDによる子宮筋腫の治療効果 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ビタミンDによる子宮筋腫の治療効果を示したものです。

 

Fertil Steril 2019; 111: 397(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.10.008

Fertil Steril 2019; 111: 268(エジプト)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.11.004

要約:35〜52歳の子宮筋腫を有する女性22名を対象に手術による摘出標本を培養し、細胞増殖能、Wnt/βカテニン経路、アポトーシス経路をビタミンD添加(10〜1000nM、1〜6日間)の有無により評価しました。正常子宮筋層と比べ子宮筋腫は、細胞増殖能が8.2倍に有意に増加し、Wnt/βカテニン経路が5.5倍有意に増強しましたが、アポトーシス経路の有意な変化は認めませんでした。ビタミンD添加により、細胞増殖能が0.74倍に有意に抑制され、Wnt/βカテニン経路が-0.78倍有意に減弱しましたが、アポトーシス経路の有意な変化は認めませんでした。

 

解説:子宮筋腫は、生殖年齢の女性の70%が罹患する極めてポピュラーな疾患です。従来の手術療法や女性ホルモン抑制療法(GmRHa)とは異なる新たな治療戦略として、ユリプリスタール、スタチン製剤、ビタミンDが注目されています。本論文はビタミンDによる子宮筋腫の治療効果をヒト子宮筋腫の培養系で示したものであり、ビタミンDは細胞増殖能とWnt/βカテニン経路を抑制しますが、アポトーシスを抑制しないことを示しています。これは、ビタミンDが子宮筋腫を安定化させる作用をもつことを意味します。

 

Wnt/βカテニン経路は、多くの癌において、細胞増殖、生存、播種、分化を担っていると考えられており、この遺伝子変異が様々な種類の癌のみならず子宮筋腫で認められることが報告されています。また、ビタミンDはビタミンD受容体/βカテニンを介してWnt/βカテニン経路を抑制することが明らかとなっており、ビタミンD投与によりWnt/βカテニン経路の癌関連遺伝子であるcMYC、TCF1、LEF1、AXIN2、PPARδが抑制されることが報告されています。つまり、ビタミンD投与により、細胞増殖を引き起こす癌細胞のみならず子宮筋腫にも抑制的に働くことになります。コメントでは、従来の子宮筋腫治療とは異なり、ビタミンDは長期的に安全に使用できるものであるため期待度の大きな新しい治療であるとしています。

 

子宮筋腫の治療については、下記の記事を参照してください。

2019.2.7「☆ビタミンDと生殖

2018.12.30「☆スタチン製剤が筋腫の治療に有効!?

2018.5.9「子宮筋腫治療における子宮温存方法の比較

2016.4.20「FUSによる子宮筋腫治療の効果

2014.12.11「子宮筋腫の新たな治療戦略

2013.9.30「☆子宮筋腫と妊娠