☆不育症の免疫:賛成派 vs. 反対派 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

米国生殖医学会(ASRM)の機関誌であるFertil Steril誌における今回の「紙面上バトル」は、不育症の免疫についてです。

 

Fertil Steril 2019; 112: 1002(英国、米国、デンマーク)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.002

Fertil Steril 2019; 112: 1000(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.001

要約:不育症の免疫について、賛成派と反対派の意見を伺いました。

 

賛成派:不育症の免疫については様々な意見があり、見解が異なります。抗リン脂質抗体、NK細胞、慢性子宮内膜炎(CD138細胞)、HLA class IIのDRB1*15:01、抗核抗体の他に、精神的な要因としての抑うつ状態も考えられますが、どのような場合に治療すべきかは明らかになっていません。治療としては、ヘパリン、アスピリン、プレドニン、ヒドロキシクロロキンなどの薬剤と心理カウンセリングがあります。不育症の方全体としての有効性は証明されていませんが、個別に治療が必要な方がおられるのも事実です。ちょうど癌治療と同様で、個別対応が望まれるものと考えます。

 

反対派:不育症の治療指針は非常に難しいと思います。臨床的なエビデンスが不足しており、ESHREガイドラインでもCochrane reviewでも「全ての治療はチャレンジである」と治療にはある意味否定的な見解がなされています。「免疫学的拒絶による流産」という表現は患者さんに受け容れられやすい表現ですが、現在の検査では不十分であり、エビデンス確立のためにはさらなる研究が必要です。

 

解説:このバトルは毎回そうなのですが、全く議論がかみ合っていません。まさに平行線です。その最大の理由は、両者のスタンス(立ち位置)にあると思います。皆さん同じ論文を読んでいるのですから、それをどう解釈して実際の臨床に役立てるかが重要です。賛成派は個別対応、反対派は全体的な対応をしています。どちらが正しいとか間違いというのではなく、ケースバイケースの対応が必要だと思います。不育症の30〜50%は原因不明であり、この領域は現在もなおチャレンジの状態にあります。エビデンスを重視してチャレンジしないのも一法ですが、患者さんにとっては「何もしてくれなかった」となります。チャレンジする場合には「やり過ぎ(過剰診療)では?」と揶揄される可能性もありますが、上手くいった場合には「やって良かった」となります。いずれにしても、患者さんの納得のいく治療をすることが最重要と考えます。実際に不育症専門医の中でも様々な医師がおられます。エビデンス重視型、個別対応重視型、臨機応変型など様々です。この分野に正解はありませんので、しっくりいく(=納得できる)医師が良いと思います。

 

コメントでは、精神的なサポート体制の重要性を指摘しており、いわゆる「心のケア」をしっかりすべきであるとしています。

 

2019.10.19「不育症ガイドライン(ESHRE)