癌サバイバーの不妊治療 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、癌サバイバーの不妊治療に関する報告です。

 

Fertil Steril 2024; 121: 578(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.012

要約:20〜35歳で癌の診断後少なくとも2年が経過した22〜45歳の女性1,036名と、癌でない同年齢でマッチングした対照群女性1,026名の不妊治療に関する比較を行いました。癌の診断から面談までの中央値は7年、面談時にお子さんがいない方は癌でない女性(19.5%)より癌の女性(32.6%)で高くなっていました。医師の診察を受けたものの不妊治療を行わなかった女性の1/4は費用を理由としました。結果は下記の通り(全ての項目で有意差を認めませんでした)。

            

対照群と比較した全ての癌サバイバーのオッズ比(95%信頼区間)

不妊クリニック通院   1.16(0.78~1.74)

不妊治療実施      0.88(0.46~1.56)

ホルモン剤使用     0.86(0.46~1.63)

人工授精実施      1.26(0.40~5.88)

 

対照群と比較した抗癌剤使用歴のある癌サバイバーのオッズ比(95%信頼区間)

不妊クリニック通院   1.40(0.72~2.92)

不妊治療実施      0.88(0.23~2.96)

ホルモン剤使用     0.81(0.14~3.01)

 

対照群と比較した抗癌剤使用歴のない癌サバイバーのオッズ比(95%信頼区間)

不妊クリニック通院   1.13(0.66~2.03)

不妊治療実施      0.88(0.35~2.09)

ホルモン剤使用     0.90(0.32~2.25)

 

解説:抗癌化学療法や放射線などの癌治療は、女性の生殖能力に悪影響を与えることが示されています。しかし、癌サバイバー女性の不妊治療について調査した研究はありません。癌の女性を対象とした横断研究では、15%が癌治療後に不妊治療を受けていることが報告されました。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、癌と診断された生殖年齢の女性も、癌でない女性と同じ程度の不妊治療を受けているに過ぎないことを示しています。