☆喫煙による生殖への悪影響:ASRMの見解 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、喫煙による生殖への悪影響に関するASRMの見解です(2018年の続報)。

 

Fertil Steril 2024; 121: 589(ASRM)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.029

要約:米国では、成人の約21%が喫煙しており、18%がマリファナを使用しています。妊娠中の喫煙による悪影響は十分周知されていますが、妊孕性(生殖能力)への悪影響はあまり知られていません。

 

一般人の喫煙リスクの認知度

肺癌     99%

呼吸器疾患  99%

心臓病    96%

流産     39%

骨粗鬆症   30%

子宮外妊娠  27%

不妊症    22%

早期閉経   17%

上記のものは全て、喫煙によりリスクが増加します。

 

喫煙による生殖への悪影響  非喫煙者と比べたオッズ比

不妊症              1.4~2.3倍

閉経時期短縮           1~4年短縮

AMH低下             44%低下

精子所見低下         タバコの本数に反比例

流産               1.8~2.2倍

子宮外妊娠            1.7~3.5倍

出生率低下(排卵誘発)       0.2倍

出生率低下(ART治療)      0.59~0.66倍

 

ASRMのオフィシャルコメント

1 喫煙は、不妊症、流産、子宮外妊娠を増加させます。

2 喫煙は生殖機能を低下させ、1~4年閉経が早くなります。

3 喫煙者が体外受精で妊娠するには、非喫煙者の2倍の回数を要します。

4 喫煙者の精液所見は低下し、タバコの本数に反比例します。流産リスクが増加します。

5 受動喫煙者も喫煙者と同等のリスクがあります。

6 バレニクリン、ブプロピオン、ニコチン製剤が禁煙治療に有効です(ランダム化試験で2倍有効)。

7 電子タバコ(ENDS)も生殖に有害であり、胎児にも安全ではありません。

8 現在のところ、マリファナが生殖能力低下に関連しているとの根拠はありません。

 

解説:妊娠を目指す夫婦にとって、男女とも禁煙が重要です。タバコを吸っていても妊娠する方は大勢います。しかし、妊娠しにくい方にとっては致命傷になりかねません。少しでも妊娠率をよくするために、禁煙をお勧めします。禁煙は治療の一環であるという認識を持つことが大切です。

 

補足:禁煙補助剤として、バレニクライン(チャンピックス)はニコチン受容体へ弱い刺激作用を持ち、ブプロピオン(日本では未発売)は抗うつ薬として開発されたニコチン拮抗薬で、ニコチンガム(ニコレット)は口腔粘膜から、ニコチンパッチ(ニコチネルTTS)は皮膚からニコチンを摂取させるニコチン置換療法です。

 

下記の記事を参照してください。

2018.10.14「☆タバコの影響:学会のオフィシャルコメント New

2013.1.5「☆タバコの影響:学会のオフィシャルコメント