これは予定調和でなるべくしたなった事だから、わざわざしてほしくないと思いつつも、この立場になったのだからやらない訳にもいかないという事で・・・本日は自分の教授就任パーティーだ。
昨年末から俺のスーツと琴子の服装をどうするか、琴美の衣装はと大騒ぎし、裕樹と婚約者の好美ちゃんも巻き込んで、あーだこーだと協議を重ねた。
最終的には結婚式の様相になってきたので、おふくろの暴走防止に裕樹を呼んで本当に良かったと思う。
ゴンドラやレーザービームは結婚式でこりごりだ。
もう二度とやらんと誓っている。
そして、琴子の服装は俺とお揃いで何か・・・という事は止めて、和服にした。
何故ならいつ妊娠するか分からず、いつ体形が変わっても大丈夫にした為だ。
そもそも琴美をこの年まで一人っ子にするつもりはなく、何度もチャレンジしているが一向に出来ない。
あまりにも出来ないので、琴子は二人目不妊を疑い出す始末。
二人で病院に・・・なんて話もあったが、そもそも勤務先が病院だ。
変な噂も困ると琴子を説得して今に至る。
俺らはまだ若いからそこまで焦る事もないだろう。
それに学生の内は子供を作らないと、結婚したにも関わらずしばらく子供を持たなかったくらいだ。
子無しの生活から4年でようやく琴美が生まれ、今さらに4年が経った。
そろそろ二人目が出来る頃だろう・・・という理由から、琴子は和服。
琴子に相応しい着物を仕立てると鼻息荒くするおふくろを説得して、おふくろの着物を借りるのに骨を折った。
もうおふくろが着ない年若い女性が着る柄があって、本当に良かった。
因みに好美ちゃんも巻き添えになり、彼女は振袖を着る羽目になった。
おふくろも留袖を着るので、女性3人が着物で・・・娘の琴美はドレス。
娘の結婚式かと錯覚するドレスを選ばれ、修正するのにも骨が折れた。
だから俺のスーツが演歌歌手か!?といいたくなる光沢のあるグレーになったが、主役だという事で諦めた。
琴子の着物に負けない(?)スーツはこれしかなかった・・・という事にしておく。
流石に裕樹は合わせず、こっちは普通のスーツで親父と親子で無難な色にまとめた。
おふくろが俺と琴子に構い過ぎるから、早く裕樹にも結婚してほしいが、俺達の怒涛だった結婚式を体験させたくもない。
本当、悩ましいな。
・・・と、現実逃避している俺の目に飛びこんでくるのは琴子の周りをチョロチョロしている西垣(呼び捨て)
西垣が琴子に渡す予定だったらしいシャンパングラスを奪い、俺が口をつける。
「西垣先生、俺の妻を酔わせてどうしようと言うんです!?」
こっちは主役という苦痛な時間を過ごしているというのに、脇役で端役な西垣先生は主役の妻に絡むというドラマじみた行動をとりやがる。
「いやー、後輩の入江がこうして最年少で教授になったお祝いをさ、糟糠の妻の琴子ちゃんと祝おうと思ってね」
誰が糟糠の妻だ!!
琴子にそんな苦労をさせた事などないっ
だいたい、我が家は元々有名玩具メーカーだ。
将来継ぐべきだった社長の椅子を蹴った事に関しては、確かにそうかもしれないが・・・琴子に社長夫人が務まるとは思えない。
まあ、教授夫人も務まる訳ではないが、俺の妻としては務まるのだから無問題だ。
「コウソウ・・・構想? もしや、抗争!?」
「何、勝手に争ってるんだよ」
琴子の相変わらずの勘違いに、西垣先生は「お前らの夫婦漫才は電波でやってるのか!?」とツッコんだ。
そういうあんたもパソコン並みの変換能力を持ってる様だけどな。
まあ、お互い医師だしな・・・。
「西垣先生、琴子の和服にまとわりつく羽虫でいるより、あっちのきらびやかな花々に止まる蝶やってる方がらしいですよ」と俺が言うと、西垣先生は眼鏡を光らせて「まあ、和服の中を想像するより、身体の線がはっきりと見える花々の方が好みだしな」と言いながら、文字通り人の間を舞って行った。
あの人、女性とみると口説く癖さえなければ、俺より先に教授になる未来もあったろうに・・・。
「そんな事ないわよっ」
何も言ってないのに、琴子が俺の思考を読んで憤慨する。
「入江くんが絶対に一番に教授になるんだから!! ほら、あたしの読みは正確でしょ」と無い胸を誇らし気に張る琴子に、「バーカ」と小さく返した。
「斗南の最年少教授になっただけで、教授は俺以外にもたくさん居るだろ」
俺がそう言うと、琴子は学生時代から変わらない失敗したという顔をしながらも「でも、入江くんが絶対一番だもん」と誇らしげな声で言う。
「お前にとっては、な」とその耳に囁いてしまうくらいには、嬉しい言葉で、琴子から一番聞きたい言葉をもらった俺だった。
* * *
リクエストは、みんなドレスの中に一人和服の琴子に絡む西垣先生と、それをけん制する直樹でした。
・・・が、直樹さんってば実は他の女性を目に映してなくて、周りが居なくなった
うっかり3人だけの世界を作り上げてしまいました(笑)
※会場には入江一家に好美ちゃん(振袖)も居ます。
一人というワードが守れなかったですが、まあご愛敬でお願いします。