キャンディマシュマロクッキーヌガーチョコレート


同じ事務所の尊敬する先輩が私の手に落としたもの。
事務所の休憩スペースでスタジオの片隅でテレビ局の廊下でラブミー部の部室で。
分刻みなスケジュールをこなしているはずの看板俳優は
「最上さん、手出して?」
と、なぜかいろいろな場所で遭遇する度ににっこりとおっしゃる。
キラキラしたその顔に条件反射のように手のひらを差し出せば、敦賀さんの手から落とされる甘くてかわいいお菓子。
「最上さんにあげるよ。」



そんな事が最近会う度に繰り返されるのだ。
おかしい。
食欲の崩壊したような彼が。しかも、苦手なはずの甘い物だ。


量こそ片手に乗ってしまうものだが、ゴージャスター敦賀蓮な彼の所持していたものたちである。極一般的な金銭感覚を持つキョーコに馴染みのある一般流通された品ではなく、ブランド名が入ったパッケージで綺麗に個装された高級な気配の漂う品である。
約束事のように毎回毎回落とされるので、それらの出どころを問えば、曖昧に笑顔で誤魔化される。


「敦賀さん、どうしたのかしら?スィーツブーム?でも食べていらっしゃるようではなさそうだったし………スィーツプレゼントブーム??………いや、あの人がそんな事はじめたら凄まじい争奪戦が起こるわよね?他の人からそんな話聞いたことないし、私にだけ?…………はっ!!お菓子を与え続けて太らせて自己管理不足を指摘する新手のイジメ?!」
ぶつぶつと考え込んでいたら背後からうっそりと不穏な気配。
「………ひどいな、俺そんな陰険なイメージなんだ?」
耳元でテノールな声がした。
恐る恐る振り向けば、至近距離にまぶしい似非紳士な笑顔。


「最上さん、手出して?」
いつもの台詞にいつも通りに手を差し出せば落とされたのは、可愛らしいピンクのこんぺいとう。 
「それ、こんぺいとう専門店ので苺味なんだって。最上さんにあげる。あと、最上さん細いからもうちょっと肉付き良くなっても全然大丈夫でしょ?」



そんなやりとりがあってから敦賀さんがくださるものがちょっと変わった。




マーガレットフリージア、合間にガレットキャラメル、ライラックリナリア


可愛らしいミニブーケ。
大凡大スターな彼に贈るには似つかわしくないかわいいかわいい花々。
贈られ続けるお菓子と花。
「受け取って。最上さんにいらないって言われてしまったら困るんだ。ゴミ箱に捨てるしかなくなっちゃうし。」
そんな風に言われたら、受け取らざるを得ない。


だって、ほんとは嬉しいんだもの。もらったお菓子はニコニコしながら大事に食べたし綺麗なラッピングはそっと解いて取ってあるし、ブーケの花だって押し花やドライフラワーにしてある。


だって、敦賀さんがくれたものだもの。
隠し通すと決めた恋心。
あんまり振り回さないでほしいわ。



そんな事を考えていた時に受けたラブミー部への依頼。TV局への書類のお届け。
そこでその考え事の相手にばったりと出会った。
「おはようございます、敦賀さん社さん。」
「おはよう、最上さん。」
「おはよう、キョーコちゃん。あれ?どうしたの?今日、ここで仕事?」
「いえ、ラブミー部の依頼で書類のお届けに。」
と、ピンクのユニホームをちょんと摘みながら答える。その時、敦賀さんがちょっと困ったような表情を浮かべているのに気付いた。
「敦賀さん?」
「………あー、ごめん。今、お菓子も花も持ってなくてね。」
「いえ!お気になさらないでください!!寧ろ、最近なにかといただき過ぎていた気がしますし………。」
「いや、そんなことはないから。俺が最上さんに贈りたいだけなんだしね。…………ねぇ?最上さん、耳貸して?」
「はい??」
唐突に何を言ってらっしゃるのかしらと見上げれば、敦賀さんの精悍な顔が近づいてくる。
「最上さん、今日もかわいいね。ずっと君だけ見ていられたらいいのに………」
耳元で囁かれる低い声。思わず一歩後ずさりして耳元を手で押さえる。
「なっ!?な、ななな何をなさるんですか!?」
「何って、最上さんに贈る甘い言葉?」
敦賀さんがにやりと笑う。

「蓮、そろそろ時間だ。」
社さんがなぜかキャピキャピした気配で敦賀さんに言う。
「はい。………じゃ、最上さん。またね?」



遠ざかる敦賀さんたちが見えなくなっても耳元と顔を押さえたまま動けないでいる。両手が熱い。きっと、私、顔も耳も真っ赤だわ。


「またね?…………やだ、次逢うの……………こわい。」



贈られるのが甘いお菓子だろうとかわいい花であろうと甘い言葉であろうと……………なんにもなくったって、きっと逢うだけでこの胸を甘く甘くしてしまう甘いひと。









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