昔々、あるところにショータローとキョーコという兄妹がいました。
兄のショータローは日々の細々とした仕事をほったらかしで歌ったり女の子と遊んでばかりでした。
妹のキョーコは器用な働き者で毎日くるくると楽しそうにうちのことなどの手伝いなどをしていました。
そんなふたりの仲は最悪だったのです。
「なんであんたなんかと兄妹あつかいなのよ!!嫌だわ!」
「なんだと!?俺だってキョーコみたいな地味女が妹だなんていやんなるぜ!」
毎日が喧嘩な日々でしたが、ある年そんな兄妹の住む地方を日照りによる飢饉が襲いました。
畑の作物も実らず日々のパンさえ困るようになってきたのです。
そして、このままでは家族全員餓えかねないとふたりは森に置き去りにされてしまったのです、
「未来の大スターな俺様を捨てるとかあり得ないだろ!」
「………怒鳴ってたっておなかすくだけだわ、バカショー。家には帰れないし、生きるためになんとかしないと。」
キョーコは森の奥へと歩き出します。
「おいっ!どこ行くんだよ!」
「いつまでもここにいたってなにも変わらないわ。とりあえず、雨風をしのげる場所と食べものを探さないと。…………ちょっと、付いて来ないでよ!!」
「待てよ!!キョーコのくせに置いていくな!」
しっかり者のキョーコと違い、好きなことしかせずに遊んで暮していたショータローがひとりで生きていけるはずがありません。ショータローはキョーコの後を追いかけるしかありませんでした。
そんなふたりがしばらく森を彷徨っていると、なにやら甘くて美味しそうな香りが漂ってきました。
誘われるように向った先にあったのは、なんと、クッキーの壁にチョコレートな屋根キャンディの窓と、すべてがお菓子で出来ている家でした。
庭にプリンを見つけたショータローは空腹もあって、おもむろにその家のお菓子を食べ始めてしまいます。
キョーコはかわいらしいお菓子家のメルヘンチックな外観にうっとりとしていました。
「ん?誰かいるの?」
その時、お菓子の家からひとりの男が出てきました。
お菓子の家には似つかわしくない長身のスマートな紳士然とした華かやな美貌の男性です。
「あっ!勝手にお邪魔してしまってすいませんっ!!………あと、バカショーが、兄が無断でお宅を食べちゃってごめんなさい。」
礼儀正しいキョーコがあたふたと謝ります。
「いや、いいんだけどね。俺、甘い物得意じゃないから、これ食べないし。………彼、君のお兄さんなの?」
と、お菓子の家の家主はなぜか嫌なモノを見るような目つきでショータローを見ています。
「残念ながら………まぁ、私もらわれ子なので血のつながりはないんですけど。」
「そうなんだ、あんなのと血がつながってなくてよかったよ。」
こんなに大量の食料があるのは見ているだけでうんざりするのになぜかお菓子の家に住む魔法使いは蓮と名乗り、キョーコが飢饉の末の口減しに森に置き去りにされたと知ると、行くあてがないのならここに住めばいいとキョーコに優しく笑いかけてくれました。
因みに、ショータローはまるっと無視されており家にも入れてもらえずに外でなにやら喚いていました。
「こんなお菓子の家なんかに住んでたら、太っちゃいそう……。」
「あれ?キョーコ、知らなかったの?俺、お菓子の家に誘われた子を太らせて………喰べちゃう魔法使いなんだよ?」
ある日、そんなことをつぶやいたキョーコをなぜか夜の気配と色気をたっぷりと纏った蓮が後ろから絡め取るように抱き締めるのでした。
「え?…………た、食べ?」
「そう、喰べるの。さぁ?キョーコは美味しく太ったかな?」
脅え青ざめるキョーコの身体のラインを確かめるように蓮の手が怪しく動き出します。
「っ!………ん、やっ!へんなとこさわらないでっ………やん」
「んーーー?ちっとも太ってないけど、とっても美味しそうだから………もう、たべちゃっても………いいよね?」
蓮は、腕に捕らえたキョーコの赤く染まった耳もとでそう囁くのでした。
そうして、お菓子の家に迷い込んだ女の子は魔法使いに美味しく食べられ捕まってしまい仲良く暮らしていくのでしたとさ。
終わっとけ。