熱を出してしまった。
根性と身体の丈夫さになら少し自信があったのに……
身体が重たいなんて思いながらも、なんとベッドへと歩く。
自己管理の出来ないダメダメタレントなのに、優しいマネージャーは病院への付き添いに氷枕とかスポーツドリンクに軽く食べれるようないろんな食べ物や果物とか、いろいろたくさん用意してくれ……その上に明日のお仕事のスケジュール調整までしてくださったのだ。
ちゃんと治さないと。
お布団に毛布を重ねて肩まで潜り込む。
ちょっと肌寒くなってた夕方の時間に冷たい人工雨。
共演者のNGやら絵が気に入らないって監督の言葉で積み重ねられてくリテイク。
靴の中きら下着までぐっしょりと濡れきってしまう頃にやっと終わった撮影。
……熱が出た原因がどこかの誰かさんとお揃いだ、なんてそんな事を考えてしまって、唇がふにふにと緩むのが自分でも解るくらい。ほんっと……愚か者まっしぐらだ。
眼球が熱くって生理的な涙で滲む視界に寝室の天井がただ映る。
頭が重くてぼうっと思考が彷徨う。
はやく治さないと。その為にも、眠らなきゃ…………
 
 
 
 
 
 
 
 
どれくらい眠っていただろう。
どよりと重たい眠りから目が覚めると、部屋の中は真っ暗だった。
夢を見ていた……ずっと昔、私が子どもだった頃の夢。
小さな私も風邪をひいて熱を出していた。
長居のお手伝いが出来なくてごめんなさいと謝る私ん見る女将さんの下がった眉。天井に吊るされた電灯のカバーの柄とお布団の模様。めんどくさそうな顔をした幼なじみが持って来てくれたたまご粥の白い湯気。遠く微かに聞こえる廊下を歩く足音。
呼んでもそばに来てくれないって解ってる癖に、お母さんと小さく呼んだ私の声と溢れた涙。
目が覚めたのにまとわりつく暗い夢の名残りを振り切りたくて、左右へ頭を振ると視界もぐらりと傾く。
喉がカラカラに乾いてて、寝る前に枕元に置いたペットボトルに手を伸ばした手がまるで自分のじゃないみたいに重かった。
緩くなったスポーツドリンク。
口の中がイガイガしてるみたいな不快感。
 
 
 
 
何の音もない、しんと、静かな部屋。誰もいない…………私だけの真っ暗な寝室。
旅館の従業員の足音も、だるま屋のお客さんの賑やかな声も、何も聞こえない。
お母さんも、ショーちゃんも、女将さんと大将も、誰も……いない。
この部屋を出れば……そう、このマンションをちょっと出れば車が走っててたり誰かが歩いていたり、コンビニだって開いていてる筈なのに、その筈なのに。
 
 
 
 
まるで……世界に私だけ、たったひとりで取り残されてしまったみたいな気がするの。
 
 
 
 
ぺたりと枕に頬をつける。
久しぶりに出した熱の所為で、気が弱くなってしまってるだけ。大丈夫。私は大丈夫。
お布団の中、小さく身体をまるめて言い聞かせるのに……それなのに
ぞわぞわと背中を這い回る悪寒が止まってくれなくて……
こんな時に一緒にいて欲しいと縋ってしまうみたいな、脳裏に浮かんでしまう妄想から意識を逸らしたくってギュッと目蓋を閉ざした、その時だった。
電子的な音のメロディとバイブレーションの振動音。
光る液晶画面に浮かび上がっていたのは、今、まさに頭に浮かべてしまっていたひとの名前。
 
 
 
『…………俺だけど、ごめん、起こしたかな?』
 
 
 
鼓膜を震わせる優しい低い声。
肺へと吸い込んだ空気は冷たいのに、頭は茹だったみたいに熱いままで。
ひやりと冷えたスマートホォンを片手に目蓋を閉じたまま、私の喉が掠れたつぶやくみたいな声を紡ぐ。
 
 
 
 
「敦賀さん、私……夢を見てるんですよね?」
 
 
 
 
 
寂しい今このひとりの夜に
 
 
 
 
 
 
 
せめて、優しい夢を
 
 
 
 
 
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熱出した時とかって酷く弱気になることってありませんか?そんなお話なつもり……
蓮さんからのお電話は発熱キョコちゃんの夢なのか現実なのか?
 
 
 
たぶん、ちょっとだけ続いたりするやも?
(;´Д`A
→どうか
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 
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