い……息って……どうするんだった?




ドキドキと煩いくらいに速いビートを刻む鼓動。焼けたように熱くなる頬に訳もないのに滲む涙。
数度程訪れて慣れた筈なこの最上階独占ワンフロアなお部屋。
なのに……
ふかふかで腰を下すのさえ躊躇うみたいな超高級ソファーに座った自分の身体の左側だけ体温が高いみたいに感じてしまって、肺呼吸なんてそんな当たり前で日常的な呼吸の仕方さえ息苦しいくらいにあやふやで……




だって、だって仕方がないじゃないっ!!
飲料ドリンクのCMからカリスマロックミュージシャンのMVやらから話題を掻っ攫って一大ブームを巻き起こしたリメイクものなドラマ出演などなど、とそこそこに名前の売れ出したタレント兼女優なキョーコは心の中で叫んでいたとかいないとか。
ホモサピエンス属ヒト科どころか哺乳類にとって当たり前であろう肺呼吸の仕方さえ危うくなる程な絶賛混乱状態真っ最中。
ふっかふかなソファーの上なのに身体だってガッチカチなMAX緊張状態。サーモグラフィーで撮影したならば左側半身だけ真っ赤に染まってしまっていそうだ。
きょときょとと意味も無く忙しなくも空中を泳ぎまくっていたキョーコの紅茶色の大きな瞳が、チラッとそんな自分の左側へと盗み見のように投げられる。
その途端だ。ばちっ!!と、音さえしそうな程に目と目が合う。合ってしまうのだ。
キョーコの左隣に座るゴージャスターなんて謳われてしまっている抱かれたい男NO.1なるお方と、である。
「なっ……な、なななな」
ぶわりっ!と頬から耳まで見事に真っ赤に茹で上がるキョーコ。
因みにではあるが、このふたり。先程から見つめ続ける蓮と目が合った瞬間にキョーコが真っ赤に茹で上がってはきょもきょとと目を逸らしもじもじ……なる同様のやりとりをもう数度繰り返している。
ソファーの背もたれに肘をつき、上半身を捻るようにキョーコを見つめていた蓮はと言うとだ。
キョーコの目からはしれっとしたいつも通りの神の創りたもうた麗しの美貌でもって、言葉にならないキョーコからの「なんでそんなずっと見てるんですかぁー!?」と言いたいのだろう抗議に当然とばかりに堂々と答えて曰うのだ。
「ん?最上さんがかわいいから。」
さらっとしれっと、べったべたに甘ったるいがまでの笑みと低い声でもって。




そう。焦ったくもすれ違いやら曲解な思い込みやらを積み重ね、進展するかと思えば明後日な方向へとななめひねって拗れた長きに渡る両片想いをしていやがった蓮とキョーコ。
なんと、めでたくもその想いを実らせ『お付き合い』をはじめたばかり。出来たて熱々なカップルだったりするのだ。
人気NO.1な売れっ子実力派俳優と名前と顔が売れ出したとこらな新人タレント兼女優。事務所のトップが乱痴気騒ぎなお祭りパレードでもって祝福しようが、マネージャーが号泣な勢いでもって祝っていようが…………そのネームバリューな差もあって、今すぐに世間へと知られる訳にはいかない交際である。
となれば、どうあっても、恋人としての逢瀬は人の目のない場所に限定されてしまう。
そんなこんなで現在地は蓮の自宅マンションなリビングルームのソファーなのである。
薄っぺらいお付き合いとは言え、見るからに過去にそれなりそこそこ随分と恋人がいたであろうモテ男。やっとこさ捕まえた愛しい愛しい獲物。プライベート空間まで連れ込んだのだから……悪い大人の男としてな欲望はあれども、あれとも、だ。
はじめてな『お付き合い』に、真っ赤な顔でおどおどビクビクな傍目にもありありとテンパっていっぱいいっぱいな初初しいキョーコの様子があまりにも可愛くって。それに加えて、歩く天然記念物な純情乙女なキョーコでなのある。
下手に強引に手を出そうものなら「そんな人だと思ってなかったです。」なんて引かれたり泣かれたり……最悪、別れたいだなんて言われたりなんてしようものなら目もあてられやしない!!と、あくまでも紳士的に、と挙動不審全開なまま食事作りをしてくれるキョーコを見守り、食欲中枢の崩壊した蓮でも美味いと感じるごはんをふたりで食べて、並んでお皿洗いからの食後のコーヒーをソファーでまったりと。
な、おうちデート真っ最中なのである。




「かっ……かわ!?」
赤らんでいたキョーコの頬が更に真っ赤に染まる。その愛らしさと想い人が自分を男として意識してくれている実感が嬉しくて目を眇めさせた男は少々調子に乗る。
「うん。キョーコちゃんは誰よりもかわいい。」
せっかくの『お付き合い』なのだ、最上さんなんて他人行儀な呼び方から少しばかり踏み込んでもいいじゃないか、と。
本当の本心では呼びたいキョーコ呼びは、有耶無耶にでなくキョーコの許しがあってから……なんて密かに企むあたりが執念深い男。
だが、そんな蓮の心中など、突然のキョーコちゃん呼びに、そうグアムで必死で妄想をかき消したあのお仕置きかと思えるがばかりなまでだった蓮からのキョーコちゃん呼びに、テンパりMAX状態に拍車がかかってもういっぱいいっぱいなのである。
茹で上がったタコなまでの真っ赤な顔とうっすらと涙で潤んだ大きな紅茶色の瞳。ぶわりと逆毛を立てた子猫みたいな小動物じみた仕草。
そのどれもが蓮のツボを貫いてみせるがまでに凶悪なまでの愛らしさで……。
今すぐに紙縒りやら枯れたゴム紐やらなんて言われてしまっている理性を手離す気はないけれど、でも、少し……そう撫でるレベルのその少し先までくらいなら許されるんじゃないかと、恋人を愛でていた男はゆったりと行動を起こす。
が、なにせお相手は純情乙女なキョーコである。
じわりと距離を詰め近づく、世の数多の女性たちが飛び込みたいと願う敦賀蓮の胸から後退るように逃げる。
けれど、悲しいかなそこはソファーの上。すぐに隅っこな手摺りまで追い詰められてしまう。
弱々しく胸を押す小さな手も、上目遣いな涙目も、良くない欲と嗜虐心を煽るがまでにかわいくって……蓮の目からすればもう、食べてくださいと訴えてるとしか思えやしない。
「しっ……心臓が、もちませんっ!!」
はくはくと唇を動かし、陸上で溺れているみたいなキョーコは、それでも縋るように必死で訴えたのだった。
経験豊富な隠れ遊び人と卵のカラも取れてないひよっこぺーぺー初心者はスピードが違い過ぎます!ゆっくり、もう少しゆっくりでお願いしますっ!!なんて、めぇめぇぺしょぺしょと半泣きなまでに泣き言みたいに溢す恋人。
誰が遊び人だ?とかどうしてくれよう?とは、思えども……そこは惚れた弱み。
持たないと言う心臓がある柔らかそうなふくらみや甘やかで美味しそうな唇に触れたかったな……なんて思いはあれど、心の中は両手を上げて白旗を振る降伏状態。
ふぅと小さく息を吐くと、キョーコの髪を優しく撫でてから身をひいて、元の距離へと戻る。
もじもじとした空気を誤魔化すように少し冷えたコーヒーを啜り……ちらりとチェストの上の時計へと目をやればもう少ししたらキョーコを送っていかなくてはいけないような時間で。
本当なら帰らせたくなどない蓮は残された僅かな恋人との逢瀬の時間を惜しむ。恋人同士となかった今だからこそ、例えゲストルームな宿泊だったとしてもキョーコと同じ屋根の下で夜を越すなんて生殺しの拷問以上だろうと分かっては居ても、それでも、そろそろ送るよなんて言い出すタイミングを考えるのさえ嫌々渋々な男。
せめて……せめてと、そう願う男は、さも良い事を思い付いたとばかりに隣に座る恋人へと問う。
「ぎゅとするくらいはしたいんだけど……キョーコちゃんの心臓に負担にならないように先に宣言してからなら、いい?」
こてんと小首を傾げ、あざとくも背中にあのキョーコの弱い捨てわんこを背負ってみせながら願うように。
蓮からのおねだりに、ぴっ!と肩を竦めさせたキョーコ。きょときょともぞもじと視線を彷徨わせた後、ぎゅと目を閉じてしまう。
沈黙は、肯定。と、心の中でしめしめとそう都合よくも宣った男。
愛しい愛しい恋人をそっと胸の中へと抱き寄せる。
腕の中におさまる細い身体。さらさらの栗色の髪から香る甘い香り。
抱き締めた最初こそ緊張に硬直していたキョーコの身体も、互いの体温に溶けるようにゆるゆるとやわらかく解けてゆく。
「…………つるがせらぴぃ」
ぽそりとそう呟かれたキョーコの謎ワードに、なんだそれ?と疑問は浮かべども……





おずおずキュッと蓮の背中へとまわされたキョーコの腕。
その愛らしさと胸の中をあたたかく満たすような幸せに、蓮は無言のまま浸るように唇をゆるませながら瞼をそっと閉ざすのだった。





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んー、なんだかよくわからないことに。
甘さはどこいった?
_:(´ཀ`」 ∠):



いや、これ最初はあれなんですよ。お付き合いはじめたばっかりな初々キョコさんとせっかくおうちデートまで連れ込んだからにはキスくらいしたいな蓮くんで……
「なっ……なにを?」「いや、キスしたいなと思って……」「キッ……キス!?」「うん。だめ?」な感じのやりとりからーの
テンパりMAXキョコちゃんが肺呼吸の仕方がわかんないっ!!ってなってな
「い……い、息が出来ません〜」
を、調子付いた浮か蓮くんが人工呼吸して欲しいの?なんて都合よく解釈しやがる……な感じの妄想を…………なんとか甘くしようとこねくりまわした成れの果てにございますよ。



結局、猫木がなにを言いたかったのかというとですね!
お付き合い初心者おどびくテンパりMAXなキョコちゃんは堪らなくかわいいに違いないと!!それはもう、いじめっ子なあの男のツボを突き回すくらいにっ!!ってコトですよ。
そうは思いませんか!?



いまいちつまらぬものにてごめんなされぃ!
_(:3 」∠)_



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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