壁|д')へい。夜更けな時間にどうもこんばんは。
今宵のこちらなお話。
猫木め毎度なおばか話で、それでもって「夜」なものとなっております。
なので、後編は限定行きになるやもと。
そのあたり苦手なお方はバックぷりーずですぞ!



因みにですが、タイトルは誤記にあらずですのよ?



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何か……変だ。
どうにもおかしい。
神が丁寧に愛し創り賜うただろう麗しく整ったかんばせの下、男は訝しむ。
何をって?




愛車のハンドルを握る男、蓮は隣の助手席へとチラリと視線を向ける。
そこに座っているのは彼の最愛たる恋人な彼女。
肩下まで伸びた黒髪に綺麗な横顔のフェイスライン。素うどんだとか地味だとかなんて言われていた少女は芸能界で磨かれ、蓮というお互いに想い合う恋人を得て、蛹が蝶へとかえるように花開くように鮮やかに美しくなった彼女。
マルチなスキルを持つタレントとして、または難しい役所を自分のものにして魅せる演技派女優として、順調に人気と芸歴を重ね、そしてつい数日前に華々しく大きな国際映画祭デビューを果たし仏国より凱旋帰国して来たばかり。
キョーコのCM撮りやら蓮の専属ブランドのショーやらお互いの出演ドラマやレギュラー番組の撮影と……ぎゅうぎゅうなスケジュールがすれ違いにすれ違って、ここ数ヶ月のところゆっくりと顔を合わせる事さえ出来なかった有り様。自称お兄ちゃんな有能マネージャーにお願い(脅し)してやっとのことオフを貰えて、明日明後日は久しぶりに2人っきりでの逢瀬……ゆっくりまったりイチャっとしようって予定だった筈。
なのだけれど…………
車の移動に合わせて背後の夜の暗がりへと流れてゆく道路照明灯のオレンジ色をじっと眺めるように、少しだけ窓へと顔を向けている蓮の恋人。
そんなキョーコの顔にうっすらと浮かぶ微笑み。
それが、その……かわいいかわいい愛しい恋人のその笑みが、見事なまでに中居スマイル。
…………やっぱり、おかしい。
安全運転に気を配りながら、再度、悪あがきな確認のようにチラッと横目でキョーコを見やる。
細い首にかかるプリンセスローザのネックレスが白いデコルテで煌めいているのに、ほわりと胸が熱くなるような思わず唇が綻んでしまいそうな気持ちにもなるけれど、キョーコを包む見えない壁一枚隔てたような気配のキュラめいた笑顔。
張り詰めたようなヒリついた空気。
確かに、ふたりの間に感じる違和感。
……なにか、あった?
電話でもメールでも変わった様子はなかった筈。空港まで迎えに行ったのが不味かった?いや、でも、もう半年も前に交際は公表してるんだから今更スキャンダルだなんて事もないし、迎えに行きたいって強請って約束を取り付けた時もそんなに強く拒絶はされてなかった。フライトと時差で疲れてるとか……それとも久しぶりに逢えたキョーコがかわいすぎて空港で抱き締めてキスしたのがいけなかった?ふんわりギュッとな軽いハグに物足りない数秒な触れるだけなキスで我慢したのに……いや、でも恥ずかしがっているっていうよりも、今のキョーコは…………
イラついてる?
誰に?何に?……俺に?
恋人が滲ませる不穏な空気感にもやもやしつつも、オフはホテルなどよりも寛げる自宅へ帰りたいとそう望んでくれていたキョーコの願いを叶えるべく、家に帰り着いてから落ち着いて聞き出そうとそう心に決めながら蓮は車を走らせるのだった。






帰り着いた蓮の自宅。
以前のまるでモデルルームみたいな生活感のなさも、拝み倒す勢いでもって同棲へと持ち込んだおかげで柔らかな彼女の気配に満ちたものへとすっかりと変貌を遂げた。
あたたかなふたりの家……だった筈なのに。
スーツケースの中に詰まった荷物の整理だなんて言い訳を口に蓮に背中を向けるキョーコ。
蓮がそんなキョーコから感じとるのは、ちぐはぐでぎこちなく硬い拒絶。まるで別れの予感のような嫌なそれに、蓮の不安はますます強く深く積もるばかりで。堪らずに離れようとする恋人の肩を捕まえ、振り向かせる。
何かあった?と、そう尋ねる蓮の問いにキョーコは「何もありませんよ」なんて答えてみせた。にっこりと張り付いた中居スマイルでもって。
「……嘘。」
ぼそりと、こぼれ落ちた声はぞっとするような低さを孕んでいて。ゆるりと、ゆっくりゆっくりとキョーコの顔へと伸ばされる大きな手。
蓮の指さきがキョーコの頬に触れる、その直前に弾かれたようにキョーコが身を引いた。
「俺が触れるのも……拒むくせに?」
詰るような言葉にびくりとキョーコの肩が跳ねる。
「俺、何かした?」
張り付いていた中居スマイルが強張ったままなキョーコを覗き込む蓮の瞳と声に縋るようは色が滲む。
暫しの沈黙のあと、ふるふると小さく左右に振られるキョーコの首。蓮が何をした訳ではないとのキョーコからのいらえ。
「それなら、どうして……もしかして、また共演のあいつがまた何か?それとも監督?いや、あの映画祭には東洋人好きで手がはやいって噂の俳優やらな男どもが……」
なんとも都合悪く、キョーコが出演した映画の共演は過去に彼女を軽く口説こうとしたやらかしな過去があったり、監督は酒が入るかなりたちが悪くと絡むと有名だったりで、蓮の思考は悪い方へ悪い方へと転がり落ちるようで。
根が純粋で一途なキョーコが浮気をしたとは思わない。ないのだけれど、大々的に真剣交際を公表し、キョーコは俺の!アピールと牽制に余念のない蓮なのだけれど、彼の恋人は規格外なびっくり要素の詰まりまくった爆弾娘。抱かれたい男NO.1の恋人を公表しようが、何故か一癖も二癖もある馬の骨は履いて捨てるほどわらわらと群がりやがるのだ。
そして、こと愛しいキョーコに関しては独占欲と執着心が強過ぎるがゆえに、極端に心が狭くなるのがこの男なのだ。
ゆらりと、勝手な思い込みでもって軽く闇の国な魔王さま降臨な兆しまで蓮が漂わせだした頃
「ちがいますっ!!」
と、暴走気味な蓮の思考にストップをかけるキョーコの声。
じゃぁどうして?と、キョーコを見つめる蓮の背後にはキョーコの弱いあのダンボールに入った子犬がちらほら。
捨て犬なわんこに負けるように、はぁっとダメ息感のある小さなため息を吐き出すと中居スマイルを消したキョーコはしぶしぶのように告げるのだった。
「………………オリビアさんに会いました。」
キョーコが口にしたのは女性の名前。
その名前にいまひとつ心当たりのない蓮のどこの誰だ?な感情を読み取ったのだろう
「久遠さんの恋人だったオリビアさんです。」
と、そう硬い声で教えた。
聞けば、だ。蓮と揃えたオフを過ごす為に、映画祭に招かれた共演者や監督たちと違う便の飛行機に乗る為に空港でひとり待っていたキョーコのもとへ、わざわざ彼女はやって来たらしい。
自分は過去にクオン・ヒズリの恋人だったとそう言いに。
ハリウッドスターと世界的モデルを親に持ち、本人も麗しい美貌の持ち主であったクオン。そんなクオンの恋人になっていたのは、やはり華やかな容姿の自分に自信のあるタイプが多く。
ファッションモデルとしてそこそこに名を売ったとはいえ、現状に伸び悩みブランドからの専属ライセンスが途切れそうな自分と、敦賀蓮=クオン・ヒズリの素性を明かし、華々しくハリウッドへの逆輸入な凱旋を果たした過去の恋人。
世界的に有名で秀麗な美味しい男となった過去の恋人が惜しくなったのか……自分が得られなかったクオンの愛を一身に受けるキョーコが気に食わなかったのか……
自分はキョーコの知らないクオンを知っているのだと匂わせまくった挙句、身長差からだけではない見下ろすような目線でもってキョーコの顔からスレンダーな身体へと視線を投げ、くすりと笑ってみせたのだという。
まるで「その貧相な身体で彼は満足してるのかしら?」とでも言わんがばかりに。
「いや、でもオリビアとは昔の事で……それに、俺が本当に好きなれたのはキョーコちゃんだけでっ」
キョーコの中居スマイルの原因に自分の過去が絡んでいただなんて思いもよらなかったらしい蓮。慌てて弁解のような事を口にするも……
「そんなこと、わかってますっ!!」
あっさりばっさりと蓮の弁明をはたき落としてみせるキョーコ。そして、彼女は続けるのだった。
「だけどっ!もしも、コーンが私の立場だったとして、平気ですか?なんとも思わずに笑ってられますか?」
むすっと、拗ねるように唇を尖らせながらキョーコが零す。
ぐっと言葉に詰まる蓮。
腐れ縁な幼馴染みを王子様だと尽くし一時は同じ家に同居までしてはいても、決して彼氏彼女な男女のお付き合いがあった訳でもないのに、恋人どころか想いを告げるずっと前からマジビビりさせるがまでの嫉妬っぷりを発揮していたが為だ。
未だにアイツな顔や名前がチラつこうものなら不機嫌を隠せやしない蓮が、どんな顔をして今のキョーコにどうこう言えようものか。
「どうしたら……許してくれる?」
どうしようもない過去の事だと分かっていながらも抱いてしまうヤキモチのようなキョーコのイラつきも不快感も理解出来る。
それに、せっかくの久しぶりな恋人との逢瀬なのだ。
無駄にギスギスした言い争いなどで時間を無駄になどしたくない!と、キョーコへと許しを乞う蓮の背後にはぎっちりぎゅうぎゅうに増員された捨て犬がくぅーんと鼻を鳴らしている。
数秒間、考え込むような様子を見せたあと、おずおずと、だが宣告かのようにキョーコは蓮へと願い出た。
それは初々しく純情な彼女のイメージからすればなんとも意外にも、シャワーを浴びて寝室で待っていろと言うもので。





そして、その寝室でキョーコは蓮へと下した要望。
それが……蓮に今宵「ツナ」になれと言うしろものだった。




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ナツな夜。なら恍惚妖艶なナッちゃんと夜の帝王さまとなぇろい夜……とか、イメージしそうなものですが。



「ツナ」にございます。
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、
ありありと滲み出て有り余るがばかりな、あほ話感。



次回→蓮くんがんばってお魚になる!の巻き。(たぶん限定。)



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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