この前に終わらせました、仔犬陛下と年上王妃なお話のおまけ的な?そんな蛇足にてございますよ。
 
 
 
 
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豊かなるヒズリの大国。
文化と流行の最先端にして、絢爛たる貴族たちの社交の中心地である王都を遠く離れたここは海岸にほど違い北方の地方都市。
とは言え、街を活気付かせていた鉱山も数年前に枯渇し閉山されてしまい、じりじりと街からは人と賑わいは減り寂れてゆくばかり。
そんな寂しい街にぽつんと取り残された一軒の酒場。ぬるい気の抜けたエールに味の薄いワイン、それに塩気のきついつまみが出るだけ。
そんな飲み屋の一席に、彼は居た。
 
 
 
 
煽るように喉へワインを流し込んでいる男。
派手派手しいがまでの刺繍の入ったコートにウエストコート、ブリーチズとその姿はぱっと見でも貴族の者と思わせるのだが……
よくよく観察してみれば、流行遅れなデザインに足りないボタンと擦り切れた袖。くすんだ金の髪や爪などの手入れも行き届いてはおらず、どうにも没落貴族なのだろうかと伺える。
「なんでこの俺がっ!……こんな辺境地に……間違ってるだろ!?」
愚痴愚痴とくだを巻くように悪態を吐いている事も相まって、誰も寄り付こうとせずにぽつんと遠巻きにされている様子だ。
こんな彼だが、実は隣国との貿易路の途中にある旅籠町を領地とするフワ伯爵家の次男。
後を継ぐ長男のスペア扱いをされてしまう次男とは言え、フワ家と繋がりを持ちたい貴族の家へ婿へ迎えられるが自領で次官の位を貰うかをする筈が……
そんな彼、フワ・ショータローが、何故こんな寂れた地にて酒に溺れているのかと言えば、この一言に尽きよう。
 
 
 
自意識過剰な勘違いが原因だと。
 
 
 
はじまりは、遡ること9年も前の事だった。
タカラダ侯爵の名で開かれた狐狩り。
その狐狩りに付属する茶会にて、こっそりと引き合わされたのが……王の妃となったタカラダ家の長姫であったキョーコであった。
幼き王子を王の座へと座らせる為の政略婚を結んではいたが、子はおらず。年上の妃ということも相まって、王に愛されずかえりみられない不遇の妃、離縁されるのも間もなくではないかなどと、密やかれている王妃だった。
そんなキョーコとおしのびな秘密裏に引き合わされた彼はとある勘違いを持った。
王家から離縁された後にタカラダ家へとかえされるだろうキョーコ。女の身で侯爵家当主となるには世情がうるさく、彼女の代わりに当主となるキョーコの後夫候補として顔合わせされているのだと。
自分のことを見目麗しく頭脳明晰で優れた傑物だと信じているショータローである。
年上の、それもあの気に入らぬクオン王のおさがりな妻などごめんこうむりたいところではあれど……ヒズリの国でも指折りの力を持つタカラダの当主の座がついてくるとあれば、やぶさかでもない。と、そうショーは考えたのだった。
ゆえに、実際のところはキョーコの養子候補として分家内でも有能だと噂された令息との面接だったのだが、彼は人の目がないのを良い事に、まるで事慣れない箱入り令嬢でも口説くかのように許しもなく淑女の手をとり手袋越しな手の甲へとくちづけを送り夜を匂わせてさえみせたのだった。
整った顔立ちをしているショー。ただのご令嬢であれば彼を理想の王子さまだと夢を見るやもしれないけれど、なにせキョーコの夫は美の集大成かのようなとびきりの美丈夫。
そんなクオンを幼馴染みに持ち見慣れ親しんだキョーコが、並大抵の美形で揺らごうものか。
当然、キョーコの養子候補リストには×が3つも書き込まれる結果となるのだけれど……
そんな事は知らず、貴族特有の遠回りなもう顔も見たくないな断り文句さえ理解出来ずにいた彼は、自分がキョーコの夫となりタカラダ侯爵の権力と力も金も全て自分のものとなると、そう信じ込んだ。
だが……待てど暮らせど王と王妃の離縁の知らせは聞こえて来ず。
それどころか、相変わらず王は愛妾のひとりも召さないまま。夜会でお互いの瞳の色の衣装で揃えただとか、エスコートからダンスまで片時も王は王妃を離すことなくべったりだっただとか……そう。まるでキョーコを酷く寵愛しているかのように。
離縁されたキョーコの後夫となって当主となると、勝手に思い込んでいたショー。
どうせタカラダの莫大なる富が手に入るのだからと、自分を飾り立てる衣装や娯楽にと散財を繰り返していた。
そして、彼は致命的な失態を犯してしまうのだった。
 
 
 
 
カナリヤも、囀らなければ地に堕とされやしなかったものを。
 
 
 
 
とある貴族邸にて開かれた夜会。
そこで深酒を重ねたショータローはこぼしてしまったのだ。
「俺は本当ならキョーコの夫になる筈だったのに」
などと。
やれ、王に恩のあるキョーコを妻にしてやれば王家にも顔がきくだとか。やれ、年上で地味でさえない女でも我慢してやるつもりだったのにだとか。
ぺらぺらと得意げに囀ってみせた。
ざぁっと、ショータローの周りから人が波を引くように遠巻きにされてしまう。
国の中枢に近ければ近い程、知っているからだ。
王の……クオンの病的なまでのキョーコへの執着を。
ただでさえ噂と陰謀渦巻く貴族の世界。
こんな事が王の耳に入り不興を被れば家の存続さえ危ういと、フワ家当主の父からの厳命により、ショーは王都から遠く遠いこの地へと飛ばされた。繋がりのある商家のツテをたよりに。
この地を治める子爵。騎士を務めとし、ほぼこの領地へと戻らない領主の妻の、その情夫として。
 
 
 
 
この辺境地でじりじりと不満に燻っているがままに、時間だけが経ち。
遠く聞こえ伝わる王家には、めでたくも第三子である王子が誕生し、ゆくゆくは王妃の生家へと降臣し、タカラダ侯爵から公爵へと陞爵されるのではないかなんてそんな噂もショーの耳に入るようになった。
本当なら自分が手に入れる筈だった、女と地位と権力に富。
全てが砂上の楼閣のような絵空事の癖に、そう未だに信じている哀れなる男。
「ショー、もう飲み過ぎだわ。」
酒場にて旨くもないワインを煽り続けるショータローにかけられた声。
彼の現在の飼い主とも言える女。
若い頃は美貌と豊満な肉体美で謳われていただろうが、それも歳と共に陰りを見せ始めるだろう壮年に近しい淑女。
アキ子爵である夫は愛妾に夢中で、その当て付けかのように手に入れた若く見目の良い情夫なショータローを甘やかしているショーコである。
美しいとちやほやと褒めそやしていた筈な令嬢たちから顔を背けられ、王都へと戻る許しもある筈がないまま、この地で酒に溺れるしかないショータロー。
 
 
 
 
彼は、未だにただただ囀るのだった。
 
 
 
 
「俺は、こんな筈じゃなかったんだ……」
 
 
 
 
 
 
金糸雀のように、叶わぬ夢を。
 
 
 
 
 
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キョコさんがクオンくんの目を盗んでひっそりこっそりこしらえてた養子候補リスト。
その松くんトリプル×のその理由とその後、でしたとさ。
パラレルなお話にすると、途端にひどい役どころを押し付けられることの多い松くん。
ご、ごめんね?
((((;゚Д゚)))))))
ちなみに、ヒオウくんが◎なのは長女な姉のカナエさんがいるから(間接的にモー子さんと義母な家族に!!)なる理由だったりでしたとさ。
 
 
 
誰が楽しいのかいらないオマケ。
無駄な設定がにょきにょきした所為であと2つほど書きたいものがあったりなかったり……
ぽちりぽちりと書いても、よろしおす?
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
次回→…………があるのならば、たぶん次は鮫なお話かも。

 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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