最初の婚約破棄は、とても敦賀さんらしいものでしたわ。
 
 
 
定期的にやり取りされた手紙に、季節折々に送られるブーケなハンカチーフなどの細々としたプレゼント。もちろん、誕生日などにはドレスにアクセサリーが贈られて。
茶会はもちろん、夜会ではエスコートにダンス。
わたくし達は、不仲ではない婚約者同士だったと思いますのよ?
けれど…………
あの日、話があるのだと我が家へといらした婚約者。いつもなら庭園かサンルームでお茶をしながら……けれど、レン様がその日望んだのは応接室でした。
たぶんなのですが、出来るだけ屋敷の使用人などの第三者の耳へ入らぬようにと、そんな優しい気遣いからだったのでしょうね。
家としての貴族の格と地位はあちらの方が上。それなのに、深々とわたくしへと頭を下げてレン様は告げましたの。
わたくしを愛することが出来ないから、婚約を破棄させてほしい。と。
…………やがて妻となる婚約者。なのに、きっとわたくしを妹のようなものとしか見れなかったのでしょうね。
わたくしはどうすれば良かったのでしょう?
考えなおしてと強く訴える?捨てないでと泣いて縋る?
わたくしには……出来ませんでした。
だって、本当に本当に、心からすまないと、そうお思いの真剣な顔でわたくしに何度も謝るレン様を見ていると、もぅ……婚約破棄を受け入れるしかないのだと。 
せめて、せめて笑顔で。
泣いて困らせる事なく、淑女たる柔らかな笑みで。そう足掻きましたが……上手く微笑めていたのか、自分ではわかりませんけど
「今まで……ありがとうございましたわ。」
震える唇で、どうにかそう告げましたの。
 
 
 
 
その夜に……おそらく、その世界でのわたくしは亡くなったのでしょう。
夜に帰宅なさったお父様から執務室へ来いと呼び出されました。
久しぶりに顔を合わせたお父様。やはり何処か他人のようにお前ましたわ。
それも仕方がなかったかもしれません。
政略結婚の冷え切った夫婦仲。お互い家の外に愛人を持ち、子育てなど乳母とメイドに家庭教師に任せっきり。血の繋がった親子な筈なのに、隔たりのある冷えた関係。
跡取りにもなれぬ娘のわたくしなど、目もかけぬ所有物に等しかったのでしょうね。
まるまると肥え太った体格のお父様は、感情の抑えが効かない癇癪持ち。
「ツルガ家との縁付きが無くなってしまったではないかっ!」
レン様は婚約が破棄になった違約金を我が家へ支払うと申し出てくださいましたが、ツルガ家との縁によって得られたであろう利益と権利が無くなったと父は激怒なさいました。
「どれだけお前に金をかけたと思っている」「男も繋ぎ止められぬ魅力のないお前が悪い」
そう詰りながらお父様はわたくしの頬を殴るように何度も叩きました。
わたくしはただ、涙を流さぬよう唇を噛み身を縮めお父様の気が済むのを嵐が過ぎるのを待つように耐えましたの。
どれほどそうしていたでしょうか……やがて視界に入れていることさえ嫌になったのか、執事を呼びわたくしを部屋へと閉じ込めておけと命じられました。
婚約破棄された役立たずで傷ものだと嘆いてらしたお父様。どうにか、わたくしの嫁ぎ先を……例えそれがどれほど悪評にまみれた親子程の歳が離れた者への後妻だろうが、少しでも爵位の高い家へ結び付けようとなさるのでしょう。
そう思いながら部屋へと辿り着きました。
ふらふらと痛む身体で長椅子へとなんとか足を進めていた……その途中で、お父様に叩き倒された折りに何処かにぶつけたのでしょうか、ズキリと側頭部に鈍い痛みが走って。
立ちくらみのようにふらりと、目の前が暗く暗く、何も見えない冷たく真っ暗な中へと暗転して…………
 
 
 
 
そして、気が付くとわたくしは別の世界でまた16歳のキョーコとして『転生』しておりましたの。
 
 
 
 
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異世界転生ぐるぐるたらい回し?だったらしきキョコさん。
こっから先もキョコちゃんにつらい展開&ダメダメ嫌男なレンくんが続きやす……
 
 
 
次回→ヒロイン、ですの?
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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