ここが『地獄』だと気付いたのは何度『転生』を繰り返したあたりでだったでしょうか?
 
 
 
2度目の『転生』でのわたくしは公爵家の娘へとなりましたの。
前の世と同じく、見覚えのない知らない顔をした両親。
婚約破棄されたわたくしを叱責し叩き倒した前世のお父様と違い、背の低くく痩せ型のお父様と夜の空に浮かぶ2つの双子月が、また違う世界へと『転生』したのだと突き付けるようでしたわ。
そして、前世をなぞるようにある日、両親の命によってわたくしは婚約者となる方と引き合わされましたの。
『転生』を果たし違う世界へと新たに生まれ落ちた弾むのわたくしの婚約者は…………
敦賀さんでしたの。
 
 
 
 
わたくしはこれまで、伯爵家から辺境伯も含めて公爵家などの娘として。時折り、金で爵位を買える程の大商家の娘、変わり種では元名高い旅の一座の踊り子(婚約に際し貴族への養子入り済み)までと、さまざまな世界と身分のキョーコとして幾度と無く『転生』を繰り返してまいりましたわ。
その全てに共通していたのが、わたくしが敦賀さんの婚約者になる事とその後婚約破棄され、わたくしがおそらく死亡する事。
そして、何度目の『転生』からだったでしょうか……追加されたのが彼女の存在。
そもそも初期がおかしかったのかもしれませんわね?だってそうでしょう?悪役令嬢が婚約破棄されて終わりだなんて物語りつまりませんもの。
わたくしと敦賀さんと彼女、この3人はどれだけ他のキャストが変化しようと細々としたシチュエーションが変わろうとも固定されたかのように変わる事はなく……
えぇ、それはもう。正しい物語りのストーリーを紡ぐ為に必要不可欠な主要キャストへと役が割り振られ、お決まりで正しい正当展開へと物語りの強制力が働くかのように、いつもいつまでもそれは変わらなかったのですわ。
 
 
 
 
わたくしキョーコが悪役令嬢。
敦賀さんと森住さんがヒーローとヒロイン。
悪役令嬢に虐げられる健気なヒロインがヒーローに恋し、憎き悪役令嬢はヒーローの手により断罪され、そしてふたりは結ばれめでたしめでたし大団円のハッピーエンド。
その結末が世界の絶対たる不変。
わたくしが渦中へと突き落とされ続けておりますのは、そんなありふれた恋物語のようですの。
 
 
 
 
これでも踏まれてもめげぬ雑草魂とド根性を誇りにしておりましたもの。
足掻きましたのよ?さんっざんに。
まずは、敦賀さんに婚約破棄されないように。淑女たる魅力を磨こうと、マナーに教養。社交ダンスやお茶。声楽や楽器からポエムや刺繍まで。
両家の淑女の嗜みと言われるありとあらゆるものはやり尽くしましたのよ?
美容にだってそれなりに努力致しましたわ。
肋骨にちっとも優しくないコルセットにも耐えましたし、コスメストアやドラッグストアなんてありませんもの。化粧水から、日に焼けぬ白い肌が良いと聞けば日焼け止めまで芸能界で耳にしていた情報を元に改良開発してみせました。
『転生』しても身に付いた技術と記憶はそのまま引き継がれる仕様ですもの。我ながらわたくし完璧淑女ですわ。
敦賀さんを少しでも繋ぎ止めようと、茶会に手紙季節ごとに手作りの贈り物などから、ヒロインを真似てお慕いしておりますと気持ちを素直に告げ続けた事だってありますわ。
……けれど、全てが無駄でした。わたくしが何をしようと、敦賀さんは森住さんと一目あったその時から恋に落ちてしまうのですわ。
そして、わたくしを待ち受けるいつも婚約破棄。それも、2人きりで気遣うように告げられていたのが、ヒロインをその腕に護るように抱き締め夜会などで大々的に婚約破棄されるわたくしをひとめに晒し、ヒロインへ嫉妬し悪辣ないじめをしたと断罪し、悪役令嬢な悪女なのだと貶め辱め罵りながらと酷くゆく一方。
 
 
 
 
わたくし……いつもその前に意識が暗転してしまいますので死ぬ瞬間そのものな記憶はないのですが死ぬ事が、いえ『転生』する事が恐ろしくて堪らないのですわ。
『転生』したわたくしを待ち受けておりますのは、前の世界より確実にわたくしに悪意を持った方向で悪化した世界なのですもの。
 
 
 
 
 
 
きっと、ここ『地獄』で見苦しくもがくわたくしを神さまは嘲笑っておいでなのですわ。
 
 
 
 
何度も何度も繰り返し思い知らされて、わたくしの心は……ポキリと折れてしまいましたの。
 
 
 
 
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 薄々とわかってはいた事ですが、転生やら悪役令嬢やら設定むりくりもりもりでくど濃ゆいこの話……読んでる方は楽しいのだろうか?
((((;゚Д゚)))))))
次あまりからちょっとは話が動くかと……たぶんですが。

 
 
 次回→あら、婚約者の様子が……?ですの。
 

 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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