「野生には赤い花」
荷をトランクに詰め込んで、
青空の下、錆びたオレンジ、
土にまみれたタイヤはヒビ割れ、
埃が下がるミラーに映る、
いまはもう過去、過ぎた日々に口笛を吹く、
もう誰もいなくなった、
枯れ地に潤いだけを求めた、
雨季は何度も通り過ぎ、
続く灼熱、過酷な熱に背を撃たれ、
痩衰えた芽を抜いた、
かつてこの地に咲き誇りし赤い花、
ここに生きるがいる限り、続く命に限りはないんだ、
話す相手がいなくても、
手に地を握り、寝そべっては行く雲を見た、
“この地に花が咲くことはない、
土はもう死んでいるんだ”
嘆きと怒り、残されたいくつの言葉もいまなら笑える、
俯き加減に唇を噛む、
笑えるような気がしただけだった、
青年はいま、この不毛の地を後にする、
苦渋の決意をかためたばかり、
いつかまた来る、
強くしなやかなる手をもって、
歓喜の種を携えて、
途切れた時間を繋ぎにくるから、
大地を抱きしめるくらいの慈愛、
僕にはそれが足りなかった、
18回目の夏が来て、
坂の向こうには海が、軋みながら走らせる、
ひび割れたサイドミラー、そこにゆらめく白い花、
別れを知って笑ってた、
気づくことなく旅人はゆく、
気づかぬまま青年はゆく、
死にゆく大地はどこにもない、
やがては命が芽吹き出す、
ほら今日もまた、誰かが新たに生まれては、
連綿たる命が続く、
⇒風は悲鳴みたいに聞こえる
⇒蒼白の風のなか
⇒夜と朝の虚空に流るる
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた