ブリュッセル | suzyのふしぎの国

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「あら?ジャポネ」の著者スージーが 短編小説を連載します。

ブリュッセルの泥棒市 No4




勇太郎とコウスケは スージーと浮かれて大笑いしているマサを尻目に 

近くにあった古着屋に入った。


10日ほど前 勇太郎が青山登龍で働いている間に 自宅に泥棒が入った。 

帰宅して驚いたことに、テレビやレコーダーといった電気製品から衣服まで

ごっそり盗まれていたのだが、

ベッドのマットレスの下に隠し持っていた札束は無事だった。


それには ちょっとした逸話がある

勇太郎は 店で儲かった金を銀行に預け入れる事を嫌っていた。

売り上げを 正直に申告していたら 税金の高いベルギーでは 金は貯まらない。

何処の店でも やっている事なのだが 現金で支払った客の伝票は 

後でこっそり捨ててしまう。

青山登龍では 時々 日本からの観光客や 出張者が来る。

彼らが日本円で払いたいと申し出れば 勇太郎は喜んで 

ホテルなどよりも良いレートで換算してやっている。

そういう客が ドイツ帰りで ドイツマルクがあまったとか 

フランスフランがこれだけあるが 明日帰国するからもう使い道がない などと言うと

それらの金も引き受けてやっていた。(1990年の話ですから ユーロ通貨ではありません)

客は大喜びするし、勇太郎にとっても 現金客は ありがたかった。

なにしろ コウスケも マサも この頃は不法滞在の 不法就労であったから

彼らの給料は こうした申告しない現金で支払われていたからだ。

そういう訳もあって 勇太郎は 常に現金をどこかに隠せば安全なのか思案していたのだ。


この日 とうざの着る服でも探そうかと 勇太郎はマサ達を従えて 蚤の市に来ていた。

「この店は なかなかの品ぞろえだ 良い物 いっぱい持ってるぞ」

手足の長いヨーロッパ人と違って 背が低く 手足の短い勇太郎は 

普通のブティックでは 自分にあったサイズがなかなかみつからない。

こういう古着屋には 中国人や 東南アジアからの移民の着ていた物もある。

中には 日本人駐在員が帰国時に タダ同然でおいて行く掘り出し物もあるのだ。



「あれええ? ゆうさん! ちょっと みてくださいよ~」

奥から コウスケの 素っ頓狂な声がする。

「なんだよ なにかあったのか」

勇太郎は コウスケの示した ジャケットを見て 驚いた。

「ええ~!! これは 俺のだ!  俺の盗まれたジャケットじぇねえか!!」


丁度 その時 マサはスージーを連れだって 古着屋に入ってきた。

「おい マサ、コウスケ ! これを見ろ!」

勇太郎は ジャケットを裏返して 胸ポケットに刺繍された ネームを まじまじと見つめた。

そこには まぎれもなく 漢字で 「青山」と書かれていた。



つづく