ブリュッセル大渋滞 | suzyのふしぎの国

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「あら?ジャポネ」の著者スージーが 短編小説を連載します。

ブリュッセル大渋滞No2




マサは 昼と夜の営業時間の合間に 豆腐を買いに行く用事ができた。



この豆腐は 高波豆腐と言って 当時ブリュッセルでは 美味しいと評判だった。



高波の親父は 若い頃から ベルギーに来て 

様々な仕事をし さんざん苦労したあげく 豆腐を作る事を 思い立ち

自宅で 試行錯誤をしながら 日本の伝統を受け継いだ 美味しいもめん豆腐を作り上げた。


最初の頃は 自転車の荷台に乗せて ブリュッセル中の 日本レストランに行商に行った。

中国人がつくる パックから出せば すぐに崩れてしまう豆腐に比べ

どっしりとした質感のある 味のよい高波豆腐は 日本人の間で評判となった。


そのまま冷奴にしても良し、堅さや食感が 揚げ出し豆腐にしても旨かった。


「お~い モハメッド、 僕は 高波に行かなくちゃあ ならないから

ハイエースで そこまで一緒に行こう」


勇太郎とモハメッドのやり取りを聞いていたマサは 気を利かせて 誘ったのだ。


「あ マサさん 俺も行きたい!」

誘いもしないのに コウスケが言った。

目当ては 高波のおかみさんが出してくれる 茶菓子だ。

苦労人のこの夫婦は 青山登龍で 安い給料で こき使われているマサを 可愛がり

営業の合間に 時々豆腐を買いに来ると 茶菓子などで労った。




ガタガタと 石畳の路地裏を 走り抜け 大通りに出る。

ハイエースは 前に3人 並んで座れる。

運転しているのは モハメッドだ。 

ブリュッセルは 一方通行も多く、道が複雑に入り組んでいる。

だから マサなんかより 道を熟知している彼に 任せた方がいいのだ。

モハメッドの運転は 荒い。 

細い路地でも スピードを落とさないで 突っ走る。


「もう 高波に着くぞ。 早いだろ!

マサ、お前らが 豆腐 買いに行ってる間に 俺の用事を済ませてきても いいか?」

モハメッドは いつもの調子で 自分のペースで事を運ぶ。


「うん、いいよ。 じゃあ どのぐらいで戻ってこれる?」

マサは 助手席から コウスケと共に ハイエースを降りた。


「20分後、 この場所で。。」



そう言うと モハメッドはすぐに 土埃をたてながら 車を走らせて去って行った。 




つづく