ブリュッセル大渋滞No3 | suzyのふしぎの国

suzyのふしぎの国

「あら?ジャポネ」の著者スージーが 短編小説を連載します。

ブリュッセル大渋滞


豆腐を買いに行ったマサとコウスケは、高波の親父とおかみさんの出してくれた饅頭をほおばり、モハメッドとの待ち合わせ場所に向かった。


「あれ~ あの角に停まっているの うちのハイエースだよなあ」

マサは 石畳の路地を下った所に、運転席に誰も乗っていないハイエースを 見つけた。

そこは チンチン電車(当時は路上電車が走っていた)の通る大通りから住宅街へとの曲がり角だ。

「だよねえ。 でも、なんであんな所に停めてるんだろう。二重駐車じゃないのか?」

コウスケの言うとおり、路肩に停めた乗用車にピタ~っとつけてはいたが 本来なら走行車線だ。

マサは 周りを見渡した。

「ところでモハメッドは どこなんだ!」

コウスケも きょろきょろ あたりを見回した。



すると、すぐ脇のスタンドバーから モハメッドがひょっこり顔だけ出して手を振っている。

「オーイ! ちょっとビール飲んでいかないかあ?!」

「なんだ、アイツ 昼間っから飲んで。。。」

と言いながらも マサも嫌いじゃないから バーに入っていく。

コウスケは ズボンの後ろポケットをまさぐって

「俺 金 持ってないよ」と言いながらも スタンドに腰掛けた。



「ステラ 1つ」

マサが バーテンに注文した。

バーテンは手慣れた仕草で グラスを少し傾けて ノズルから出る琥珀色の液体の 泡の量を調整しながら注いでいく。

「それ、もう1つ」

並々と注がれたグラスを バーテンが マサの目の前のコースターに置くと すかさずコースケが注文した。

「マサさん 貸し ね」

「ああ、いいよ」

マサは 気前がいい。たいてい こういう時 後で返せとは言わない。

コウスケは 大食いで 貰ったわずかな給料のほとんどは食い物でアッと言う間に消えるから

いつも 金がない 金がない と言っている。

マサの方は 仕事もできるし給料もいいから 飲み代ぐらい 奢ってやってもいいと思っている。


「ここにも ステラね」

今度は モハメッドが 持っていたグラスを ぐいっと開け 2杯目を頼んだ。

結局 マサが3杯分払った。 

モハメッドは抜け目のない奴だから こうなる事は予想が出来た。


3人は しばらく 他愛もない話をして 午後のビールを 味わった。




「あ、いけねえ 車!」

始めに気が付いたのは マサだった。

なんだか 外が やけに騒がしいのである。



つづく