「適当に頼んじゃったんですけど。好き嫌いとかあります?」
初音が訊くと
「あー。こう見えても好き嫌いないです。なんでも大好き、」
真緒はそう言いながら茶碗蒸しを食べた。
初音はその茶わん蒸しに匙を入れながら
「ぼくは。子供の頃この三つ葉が苦手で。」
苦笑いをした。
「あー子供って苦手ですよね。香りとか。」
「・・母が作る茶碗蒸しはとても美味しかったんですけど。三つ葉が嫌でね。残したりすると『もったいない』って叱られたものです。三つ葉があって茶碗蒸しという料理が成り立っているって言って、」
ハッとした。
彼が母親の話をするのは初めてだった。
「・・どんなお母さんだったんですか、」
真緒は勇気を出してその話を深堀りしてみた。
「優しかったです。とても。どんなに疲れていてもぼくらの食事を手を抜かずに作ってくれて。なんでも好き嫌いないようにと工夫をして。まーあんまり裕福ではなかったのでごちそうはほぼなかったんですけど。野菜と米はたくさんありましたからね。それでもとても美味しかった。」
初音は穏やかな表情で語った。
「だから。初音さんも料理が上手なんですね、」
「少しずつ家事をするようになって。特に母から手取り足取り教わったわけじゃないです。自分で母の味を思い出しながら試行錯誤で。最初は米も満足に焚けなかった、」
そしてふと微笑む。
母親が心を病んでしまった
真緒は高宮から聞いた話を思い出していた。
「もともと研究したりすることが好きだったので。どうやったら美味しい料理が作れるのかを自分なりに勉強しました。農家で食物を作ってる身としても美味しいく食べて完結って思っていたし。そうしたらいつの間にか三つ葉も大好きになって。お浸しで食べられるようになりました、」
和食の御膳だったので小樽の海の幸が並んでいた。
「わーー足痛いけどもうめちゃくちゃ美味しい~~。しあわせ~」
ニコニコ顔で食べる真緒を見て初音はふふっと笑ってしまった。
「あー。何子供みたいに言ってんだって、今思ったでしょ、」
「いえいえ。」
天音が東京に行ってからはいつも無口な父と二人の食卓で。
黙々と食事を摂るだけで。
北都家で何度か食事をごちそうしてもらう時には本当に賑やかで楽しかった。
「いいご家族ですよね、」
思わずポツリと言った。
「え?ウチ?」
「はい。北都会長と社長はわりあい無口でいらっしゃいますけど。奥様たちがにぎやかで。真緒さんも。」
「うるさいだけじゃない?」
真緒はちょっと恥ずかしくなって苦笑いをした。
「いえ。いつもとても楽しいです。」
浜松に両親と3人で住んでいた頃は。
いつも笑顔に溢れていた食卓だった。
母は生来とても明るい人で無口な父が黙っていても一人でしゃべっているような人で。
丹波に移って、天音が生まれ。
慣れない農作業や子育て、舅の介護などが重なると
母の笑顔がどんどん消えて行った。
寂しい人なんですよ
真緒は天音の言葉を思い出していた。
彼がものすごく
家族
に飢えているようにも思えて。
母の思い出をしみじみと語る初音。真実を知ってしまった真緒にとっては胸が痛いもので・・
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