今回は病気について書きたいと思います。


病気の原因としては、一般的に以下のようなものがあります。カゼ

食事や飲酒、喫煙、睡眠不足、ストレスなど、生活習慣によるもの
化学物質などによるもの
細菌やウイルスなどの感染によるもの
遺伝的な原因によるもの
その他複合的な原因によるもの

これらの原因となるものに気をつけて、健康的な生活を心がければ、より長生きすることが可能になるとされています。

栄養状態や衛生環境がよくなったことや、科学・医学の発達によって、実際に寿命は延び続けてきました。

そして、1980年代や1990年代には、「いずれ、ほとんどの病気は克服できるようになるのではないか」と期待されるようになってきていました。


ところが、21世紀に入って、さらに科学・医学が進歩したことで、「どうやら病気に対する考え方を根本的に改めなければいけないかもしれない」という状況になってきました。

というのは、より生存に有利になるようにと生物の進化の過程で獲得した性質が、病気の根本的な原因となっていることが少なくないということがわかってきたのです。


たとえば、体の中に鉄がたまりすぎて、内臓が傷つき、癌になったり、死に至ることもあるヘモクロマトーシスという病気もその原因は過去の進化の過程にあります。

1300年代のヨーロッパにおいて、ペスト(黒死病)が大流行して、ヨーロッパの人口の3分の1から4分の1にあたる2500万人以上が命を落としました。

ペスト菌など細菌は、生き物の体に含まれる栄養であるミネラル、特に鉄を非常に好み、鉄を栄養源として、一気に繁殖する性質があります。

ヘモクロマトーシスの遺伝子変異を持つ人は、体の中に鉄をたくさんためこむ性質があるのですが、体内に入ってきた細菌を取り込む白血球の一種であるマクロファージ(大食細胞)には、通常の人よりも少ない鉄分しかためこまないのです。

そのため、ペスト菌に栄養となる鉄分を与えなくてすみ、うまくやっつけることができ、その性質は、生き残る上で、大変有利に働いたのでした。

その結果として、西ヨーロッパ系の人は、三人に一人か四人に一人の割合で、このヘモクロマトーシス遺伝子の少なくとも一つを保有しているという状況になっています。(実際に病気として発症する割合は、西ヨーロッパ系の人全体で二百人に一人とかです。)

また、ついに患者数が3億人に達した糖尿病という病気も、飢餓の環境を生き抜く上では有利となった遺伝的な性質が深く関係しているとされています。

特に極寒の時期にはより有利となったと考えられています。雪

寒くなると、おしっこに行きたくなると思いますが、これは、体の一部が凍ってしまうことを避けるために、余分な水分をはやく排出しようとするからです。

糖尿病のように、尿に糖分が増えると、凍りにくくなり、生存する上で有利になることが期待できます。


現在では、単なる病気とされる性質も、かつての環境においては、生存にとってより有利な性質であったというものが、少なくないということです。

このように、生物の進化の過程で、病気となる性質を獲得してきたのであり、病気の中には、逃れようのない必然的なものも少なくないのだということがはっきりとわかってきたのです。


そして、適応変化が起きる基準は、「生殖可能年齢に達するまでに死んでしまう病気は、種全体にとって大きな痛手となるので、あとになって大きな問題が生じたとしても、無理やりにでもなんとか克服しようとする」というものです。


「あとになってもっとひどいことになってもかまわないので、とりあえず当面の問題だけは乗り切りたい」こういうその場しのぎ的な対応を繰り返してきて、その結果がのちの病気の原因となってしまっているものが多いということです。


ここで、ちょっと怖いことだけれど、さまざまな事実から考えると、そうとしか思えないことがあります。

生殖可能年齢に達する前の若い個体の病気は無理やりにでも克服しようとするけれど、高齢の個体は、遺伝子のコピーのエラーの可能性も高くなるため、あまりいつまでも健康でいてもらっては困るということのようです。

食料や住む場所も、若い世代と奪い合うことになってしまうため、ある程度の年齢に達したら、病気になって去っていって欲しいということみたいです。

けっこう残酷な話ではありますが、まぎれもなく価値判断基準が、その生命の種全体の利益 > その生命の個体の利益となっているのです。

有限な個の生命が次の世代の生命へと代替わりをしていくことによって、永遠の生命として伝わっていくということです。


自分自身も含めて、身近な人が病気になったり、病気で死んでしまったりするのは、とても悲しくてつらいことですが、種全体のことを考えると、その病気や死は、悲しいことだけではなく、立派な意義があるのだろうと思います。

昔、大学入試の英語の問題集だったかで、「生物のすごい点は、成長することにあるのではなく、適切なところで自ら成長を停止するところにある。」という文章を読んだときに、なるほどなあと思ったのですが、きっとそういうことなのだろうと思います。


そんなわけで、ここ10年ほどで、病気というものが、進化など生物学的観点からとらえられるようになって、考え方がかなり変わってきました。

この学問のことを、進化医学と言います。

「進化医学」で検索すると、興味深い本がたくさん見つかります。

面白さを重視すれば、この本になると思います。
http://www.amazon.co.jp/dp/4140812567
迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか [単行本]
シャロン モアレム (著)ジョナサン プリンス (著) 矢野 真千子 (翻訳) NHK出版


京大の3代前の総長(校長先生に当たります。)もこの進化医学の研究をされています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4000054589
進化医学からわかる肥満・糖尿病・寿命 [単行本] 井村 裕夫 (著) 岩波書店


病気というものは、健康的な生活を送ってさえいれば必ず防げるというものではなく、また病気自体に存在意義もあるのだろうから、あまり極端に病気を恐れすぎないようになるのが望ましいのだろうと思います。まあ怖いのは怖いですから、簡単なことではないと思いますが。


治療にあたる現場の医師にもこの進化医学の考え方が、少しずつ浸透してきているので、病気のとらえられ方などがだんだんと変わってくるかもしれません。


次回からは、ようやくダイエットの話に戻りたいと思います。
書きたい話がたくさんたまってしまっています。
けっこう使える簡単な方法の話もいろいろとあるので、期待しておいてください。

次からはちょっとペースを上げたいと思います。

まずは、「プロのレベルとプロの壁」という話をしたいと思います。


P.S.
人間の進化・変化というのものは、考えられていたよりもはるかに速いスピードでおきるということがわかってきています。ひらめき電球

人間の遺伝子の遺伝情報のうちの約4割がウイルス由来のものであることによって、劇的なスピードで変化に対応するからです。

だから「成人病胎児期発症説」と言われるような問題が生じてしまうのです。
http://ameblo.jp/pink-diet/entry-10591133742.html


また、私たちは、細胞の発電所と例えられるミトコンドリアという原始生物が、一つ一つの細胞の中で活躍してくれることによってエネルギーを得ています。

私たちは、いろいろな生物と共存共栄してきたのです。
体の中はものすごくたくさんの生命体のおかげで成り立っているのです。アメーバ

そう考えていくと、いったい「自分」て何なんだろうなあとか思ってしまいます。


最後にもうちょっとだけ。

自己啓発書を読むと、読んでいるときは気分がよくなるように感じるけれど、あとになってなんだか違和感があるというふうに感じることがあるかもしれません。

この原因は、人は、自分のためだけの利益を目指すときには、最高の幸福感を感じないようなメカニズムになっているからなのです。

生き物の性質って、本当にすごいなあと感心させられます。

このあたりのことは、長くなるので、また別の機会に詳しく語りたいと思っています。