前回に引き続き、糖質制限ダイエットの危険性と効果についてです。

ヒトは、700万年にわたって糖質を摂取しない生活を続けてきて、農業が始まってからわずか1万年とか数万年ほどしかたっていないので、糖質をうまく処理できるようにはなっていないという説はかなり説得力があるように感じます。

しかし、ヒトが何を食べてきたのかを詳しく追いかけていくと、なんともわからないことだらけで、毎年、毎年、これまでの説をくつがえすような新しい発見がなされてきています。そして、これからもどんどんくつがえされ続けていくことでしょう。

大昔のことを知るのは難しそうなので、現代の身近な生き物を見てみましょう。
身近な動物にあたるゴリラやチンパンジーは何を食べているのでしょうか?
彼らは、木の葉、果実、樹皮など、植物を主な栄養としています。
ヒトの祖先にあたる類人猿もそういう食事に近かった可能性は高いと思われます。

その後、ヒトとなってくるにつれて、どのような食事をとるようになっていったのかはよくわかっていませんが、歯の形や胃腸の特徴からある程度のことはわかります。

歯の形や胃腸の特徴から、肉食動物ほど肉食だったとは考えにくく、また同様に草食動物ほど草食でもなく、その中間であった可能性が高いでしょう。

まさに雑食動物であって、何でも食べられるように進化してきたというのがヒトの強みであると思われます。


そして、1万年とか数万年という時間では、糖質に対応できるように進化できていないのではということについてですが、イヌの進化に関して、面白いことがわかってきています。

オオカミからイヌへの進化、カギは「でんぷん消化能力」
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2923074/10159117

野生のオオカミがヒトといっしょに暮らすようになったのは、1万年-数万年前くらいだろうとされています。そして、ヒトと同じものを食べるようになるについて、遺伝子レベルででんぷん消化能力を身につけるようになったということがわかってきました。オオカミとイヌでは遺伝子レベルで糖質の消化吸収に関してかなり大きな違いが生じているのです。

もちろん、イヌは肉食への適応が高いのは明らかですが、オオカミとはかなり違うようになったということです。

それにしても、ほんのわずか1万年とか数万年で、オオカミが元だとはとても信じられないような犬の種がたくさん生まれていることに驚かされます。


これまでずっと、オオカミからイヌへの変化というのは、何万年とか何千年という長い時間を経て少しずつ変化が起きたのだろうと考えられていました。
ところが、最近になって、長い年月を掛けて少しずつ変化したのではなくて、ごくわずかな期間で一気に変化した可能性が高いだろうと考えられるようになってきました。

それは、ロシアでのキツネの実験が驚くべきものだったからです。
大人しい人なつっこいキツネを選んで、それらを掛け合わせていくと、たった数世代で、元の野生のキツネとは大きく異なるとても大人しいキツネになりました。

そして、10世代も経ると、姿も大きく違ってきて、ものすごく愛らしいキツネ犬になったのです。
ちなみに逆もしかりで、とんでもない凶暴な生き物にもなってしまいました。

http://weekly-takubo.blogspot.jp/2011/03/blog-post_09.html

動画
http://www.youtube.com/watch?v=g97Enqt-Bxo


生き物の変化というのは、何万年、何十万年も掛けてゆっくりと変化していくと考えられていたのですが、このようにごくごく短期間でも劇的に変化してしまうものだということがわかってきたのです。

また、キツネの実験などから、そういう変化に関わっている遺伝子は数多くあるようだということはわかってきていて、それらがオンになるかオフになるかで大きな違いがあらわれるようです。

人間のDNAの情報もウイルスなど外来のものが40%くらいを占めるようだということがわかってきていて、それらのウイルス由来の遺伝子などは、ジャンピング遺伝子と呼ばれるように、すさまじいスピードで環境適応しようとすることがわかってきています。

食べるものや環境などに応じて、素早く環境変化に適応しようと、特定の遺伝子をオンにしたりオフにしたり変化が生じることがわかってきていて、それらを研究するエピジェネティクスという研究分野も始まったばかりです。

それらの遺伝子にうまく働いてもらうためにも、まわりの生活環境を情報として正しく伝えるということがとても大切だと思われます。


それから、農業が始まる以前の時代と同じような食事をとっているイヌイットの人たちは、血液がサラサラで成人病も少ないという話についてです。

イヌイットは、魚やアザラシを漁でつかまえて、そのまま生で食べます。
アザラシの内臓とかも生のままそのままどんどん食べ進めていくすさまじい食事法は、まったくまねできないようなものです。
脂肪をたくさん摂取していても血液がサラサラなのは、魚やアザラシの油は特に固まりにくい油だからということも関係しているようです。

また、イヌイットたちは、野菜や果物からビタミンやミネラルを摂取できないのですが、内臓を生のまま食べることでそれらを補給しているのです。

糖質制限ダイエットでは、葉物野菜以外はNG食品となるため、野菜や果物が食べられません。そのため、糖質制限ダイエットの危険性として、ビタミンやミネラルが不足する可能性があるという点があります。加熱した肉や魚を中心に食べるだけでは、多種多様なビタミンミネラルが補給できない恐れがあるということです。


イヌイットは、このようにちょっと真似ができないような特殊な食事で、栄養を摂取して健康を維持しているわけです。

ただ、昔ながらの食事を守り続けているイヌイットたち(近代的スーパー入ってきている地域やそうでない地域があります。また、近代化されてきた地域でも、昔ながらの文化を守ろうとしている人たちも少なくありません。)でも、実際は肥満がすごく多いのです。

彼らの実際の食事の様子を見ると、それも無理はないだろうと感じます。

アザラシの生肉などは、満腹になっても満足できないため、ひたすら食べ続けていくのです。
その様子は、ちょっと痛々しさも感じてしまうほどです。
糖質を摂取できないため、血糖値がほとんど上がらなくて、脳が満足してくれないからなのだろうと思われます。


そもそも、イヌイットは、寿命が短いことで有名であって、その生活習慣を理想ととらえるのは、相当無理があると思います。

彼らは、過酷な環境でも生き抜くために仕方が無くそういう生活をしてきたわけで、必ずしも望んでそうなったわけではないはずです。
糖質を食べないでも生きていくことはできるでしょうが、それが健康的で理想的な生活スタイルだとはとても思えません。


糖質は人間にとって必要なものではなくて、「糖質=毒」なのでしょうか?

母乳の成分などからも、そうではなさそうだと考えられます。

人間の母乳は他の動物の母乳と比べて、たんぱく質の割合は低くて、糖質の割合は他では見られないほど極めて高くなっています。

これは、人間の脳が特別に発達していて、糖質をより多く必要としているからではないかと考えられます。

母乳の成分は脳の発達に役立っている
http://www.crn.or.jp/LIBRARY/KOBY/KOSODATE/cbs0036.html


糖質は脳や体の発達に必要な栄養素であるということ、そして成人病胎児期発症説の問題などから、少なくとも、子供や妊娠中の女性が糖質制限の食事をとるのは、望ましくない可能性が高いので、注意する必要があるでしょう。


どんな健康法、食事法も一長一短があるというのが基本原則です。
これだけは、唯一無二の絶対的な健康法、食事法と主張するようなものは、疑ってかかるほうが安全だし、疑わなければいけないのだと思います。

正しい健康法、食事法は、ああでもない、こうでもないと何百年後も議論が続いていることは間違いありません。

何をどう食べるかは、どう生きるかに関わってくる問題であって、絶対的な正解を求めようとすること自体が間違っていると思います。


血糖値が上がってコントロール不能であるということが大きな問題であって、かつ自分にその食事法が合っているという人は、糖質制限ダイエットも選択肢に入ると思います。
いろいろなデメリットを知ったうえで、メリットが上回るのならば、自己責任で選択すればよいでしょう。

ただ、流行しているから自分もやらないとまずいのだろうかと不安になっている人は、そんな不安を感じる必要などまったくありませんよと言いたいのです。

食べることは栄養を摂取するための手段だけではなく、喜びを得るものでもあるはずです。
本当は望んでいない食事ならば、長く続けられるものではありません。

好きな食べ物を自由に食べればよいと思います。
ただし、糖質制限の考え方などから学ぶこともたくさんあります。

何でもとり過ぎれば毒になるわけなので、「糖質=毒、悪」という考え方には賛成できませんが、糖質がおいしくて悪魔的に魅力が高いものであるというのは、そのとおりだと思います。

そして、精製度の高い白砂糖やいろいろな甘味料、また精製度の高い白米、小麦粉などは、わずかここ数十年で一般的になってきたわけなので、遺伝的にもまだうまく適応できているとは思いにくいです。
とりすぎには気をつけなければいけないでしょう。

糖質をよく味わって食べてみてください。恐ろしいほどおいしい食べ物だということがよくわかると思います。当たり前だと思っていた食べ物が、ものすごくおいしいものだと気づいて、ありがたく思えるようになると思います。


次回は、ダイエットの本質と非常に深く関係がある動画を紹介したいと思います。
本当に面白くて、笑わずにはいられない動画です。
もしその動画を見ても笑わなかったら、けっこうすごいと思ってしまうくらい面白いのですが、よくよく考えてみると、かなり怖いものだなあとも感じます。

それは、ダイエットというものの原点としなければいけないほど重要なものであるのに、現代のダイエットと言われているものが、そういう重要な要素をいかに軽視しているのかということがよくわかってもらえると思います。

まずは、笑ってもらいたいと思っています。



P.S.
次回は、結果的に糖質制限ダイエットの本質的な部分を批判することになってしまうので、糖質制限ダイエットを頑張っている人は、できれば次回の記事はとばしてください。

頑張っている人の足を引っ張るようなことは本意ではありませんので。

次回の記事は、糖質制限ダイエットを続けるうえで、マイナスに働く可能性が高いので、読む人は自己責任でお願いします。


糖質制限ダイエットをしないとまずいのだろうかと不安になっている人にぜひ知ってもらいたいと思って記事にしてきたのですが、「糖質制限ダイエット 危険」などで検索すると、上位に表示されているため、糖質制限ダイエットを実行中の方も多く読まれることになったようです。

特に次回の記事は、全体に向けて情報発信するにはあまりふさわしくない内容かもしれないと感じています。

まあでも、「ダイエット」というものの本質はやはり知っておいてもらいたいという思いもあります。
世の中のダイエット情報がいかにレベルが低くて、痛々しい情報ばかりなのかというのがよくわかってもらえると思います。


そんなわけで、次回の記事は本質に深く関わるけれど、それだけにちょっとまずい内容でもあります。