メルの家の北側の断崖は、

西の森から海の深場まで長く連なっている。

だからメルの家は、

北から吹く風にさらされることはないし、

その向こうに何があるのか

想像することすらできない。


長い年月をかけ、潮風や波で削りとられた

ごつごつとした岩礁は、潮の干満で様相を変える。

メルは潮だかをみながら、飛び石を飛ぶように

自分の漁場へと向かう。

そこには海草が繁茂し、小魚や小海老がたくさん寄ってくる。

それらを捕り集め 乾燥させ、

町の雑貨やさんに持っていき、

衣類や日用品と変えてもらっている。


今日もメルは、荷車にそれらをのせると

私を胸元に入れ 町へと向かった。

町へ向かう道々、何度も後ろを振りかえる。

そして胸元の私に話しかけた。


「ねぇ、ピッピ。あの大きな大きな岩壁の向こうには

 いったい何があると思う?

 それに、あの岩壁は一体どの位大きいんだろう?


 家から見るのと、こうやって町の近くから見るのでは

 大きさが違うのよね。

 家から見ると、天まで続いてるように見えるんだけど

 ここから見ると、ちゃんと頂上が見えるんだよね。


 今日は雲がかかってる。

 神さまが降りてきてるのかなぁ。

 あそこまで登って、神さまに逢うことが出来る人なんて

 本当にいると思う?」



なんだ、その話? 

神さまに逢うって? 

神さまって、何者?