黄色いカナリアは、

籠の中で

臆病に暮らしている


空に飛び立ったままの青いカナリアは

もう戻ってこない



毎日餌箱に入っている変わり映えのしない食事に満足を覚え

かといって

澄み切った声で鳴くでもなく

薄暗い狭い小屋の中から

じっと遠くの世界の音を聞いている



そう

青いカナリアが飛び立っていった外の世界に

思いを巡らすように


音から拾って組み合わされた世界に

夢や希望を感じることもなく

この籠に閉じこもっていることに

安堵感を覚えつつ

 




青いカナリアは旅立った

行き先も告げず飛び立った

彼女はもうここに戻らない

彼女は自由を選んだ

節操のない世界を

自由と呼び 

飛び立った


いくら寒さに凍えようと

餌食にされそうになろうと

籠の中の安定という世界には戻らない



彼女は私と入れ替わることを望んだ

私も彼女と入れ替わることを望んだ



黄色いカナリアの私は

時々鏡を見つめながら

彼女の眺める過酷な世界に怯える


青いカナリアの彼女は

それでも自由を選んで

きっと今もどこかでスウィングしてるんだろう


お腹いっぱい澄み切った空気を吸い込み

迸る声で囀っているんだろう


自由とよばれる世界で





私は鳥籠の世界を選んだ

そう、鳥籠の世界を自分で選んだ


労せずとも与えられる

変わり映えのしない餌しか置いていない

両羽根をゆったり伸ばせば

柵にぶつかってしまいそうな

小さな、窮屈な鳥籠の中で

4つの卵を温めて暮らす

そんな生活を選んだ


4つの卵がやがて雛となり

成長して巣立っていく時

彼らは、あるいは彼女は

ここに残ることを選ぶだろうか

それとも

青いカナリアのように羽ばたくことを選ぶだろうか



鳥籠の入り口は開いているのだから

外に飛び出さなくとも部屋の中を飛び回ることぐらいは出来る


今の私は

それすら欲しないけど


時々窓辺に話しかけに来るスズメや

同じ部屋の籠の中にいるインコの話し声に

耳を傾けたりはするけれど

籠の中の小さな巣箱に閉じこもって

じーっと卵を温めて日がな暮らしている



それが

自由の空を飛び終えた後の

私の答えなのだ



青いカナリアも私

黄色いカナリアも私


二羽のカナリアはどちらも私


無言のまま

思い出に浸って

声を出すことをあきらめたカナリア



守りたいものがある

でも

未来に希望を感じることの出来ない

空しいカナリア