最悪に汚い靴の手入れ White's Packer Boots | shoesaddictのブログ

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米国古靴に関するブログです

私が手にした中で史上ワースト1の汚さを誇る1足の手入れ過程をご紹介したいと思います。
今回の主人公はこちら。




White'sのPacker Bootsです。
同社と言えば、Semi DressやSmoke Jumperが有名かとは思いますが、こちらのPacker Bootsも日本でこそ知名度はいまひとつですが歴史あるモデルの一つです。
カウボーイが家財道具を運びつつ牛を追う旅程であるパックライドの際に着用するために作られたモデルで、後にワークブーツとして用いられるようになったものです。
いかにもカウボーイ的な刺繍が施されたドレスパッカーと呼ばれるものもありますが、こちらはプレーンなワークパッカーです。



以前から興味のあったモデルだったのですが、ブーツの着用機会が年数回程度に限られるであろうなか、国内新品価格の10万円近くを投資できるのかという理由で手が出せずにいました。
確かに堅牢で一生ものなのでしょうが、その程度の使用頻度なら靴流通○ンターあたりで適当なブーツを購入しても、自分の寿命が先に尽きるような気がしなくもありません。
履きたいシチュエーションに関しても、娘とディズニーランドに行った際にウェスタンランドをこの靴で闊歩したいという程度のものです。
(しかも、娘の好きなトイストーリーのウッディが着用しているのは、パッカーブーツではなくリングブーツですし)

そういった理由で今まで手を出さなかったわけですが、マイサイズが投げ売りされているのを発見。
そして、あまりにひどい状態だったため、手入れでどこまで復活させられるのかという好奇心がふつふつと湧きあがり、我が家に迎え入れる運びとなりました。
本格靴愛好家は多かれど、私のような米国古靴マニアは少ないでしょうし、さらには手入れするためにわざわざ小汚い靴を買うなんて好事家は希少種といって差支えないでしょう。



さて、肝心の状態ですが、元の革が何なのか判別がつかないほど、オイルと泥の混合物と思われる汚れが表面に付着しておりました。
また、White'sといえばウェルトまわりのダブルステッチですが、コバに汚れが堆積しすぎて本当に縫われているのさえ分からないほどです。



ベロ部分の保護を目的に装着されているフォルスタンもご覧の通りのありさまで、外してみると裏側にも泥や干し草様の物体、砂などがこれでもかと出てきました。
歯ブラシを使用して出来る限り掻きだしたのですが、その後の作業を続ける気力を根こそぎもっていかれかねない地獄絵図でした。


しかし、ソールに目を移すと以外にも減りが少なく、あまり履かれていないことを示唆しておりました。
靴の内部も外見と比べると非常に状態が良く、手を触れるのが躊躇われるアッパーでさえも傷は数えるほどしかありません。
それらを勘案し、このペアは使用回数自体は少なく本体へのダメージは小さいものの、過酷な環境下で使用されたため汚れがひどく、手入れの方法が分からない所有者が匙を投げて手放した、という仮説を立てました。
つまり、頑張り次第ではかなりの状態まで復元可能と踏んだわけです。



肝心の手入れに関してですが、仕事が多忙で時間をとれなかったこともあり、着手から決着まで数カ月を要しました。
かなりの長文になりますが、お付き合いいただけると幸いです。

何から始めてよいか迷うほどの状態だったのですが、先ずは使い古しの歯ブラシで表面の泥汚れを落とす作業から開始。
今まで古靴とはいってもほぼドレスシューズしか手入れをしたことがなかったため、土埃が舞い散る様にはさすがに面喰いました。
続いて濡れぞうきんで全体を拭き上げ、ステインリムーバーで徹底的に表面の汚れを落としました。
それでもコバやステッチまわりの頑固な汚れを落としきることは叶わず、LEXOLで丸洗いを敢行致しました。



水洗い後の姿がこちら。
ひとつ上の写真と比べて、だいぶさっぱりしたことが見て取れるかと思います。
丸めた新聞紙を入れて内部の乾燥を促しつつ、アッパーに関しては乾燥による硬化やひび割れを防ぐためにモゥブレイのクリームナチューレを薄く塗布しております。
また、カビの発生を防止するため、同じくモゥブレイのモールドクリーナーを全体にまんべんなくスプレーしました。


アッパーの状態も予想の通りなかなかのものです。
写真に写っていない右トゥや左のヒールカップに大きな傷こそあるものの、大きく外観を損なうようなダメージはありません。
汚れの堆積がひどかったウェルトまわりに目を移しても、なんとかステッチが見えるまで状況が改善されました。



しかし、丸洗いの際に歯ブラシではげしく擦ったため、ウェルト周りの色が剥げ落ちてしまいました。
コバインキでしっかり補色したいところですが、出し縫いの糸まで染めてしまう恐れがあるため、コバクレヨンで対応しました。


ステッチ間の皮革の着色はできませんでしたが、なんとか見られる状態にはなりました。
しかし、ウェルト周りを着色したことで、ミッドソール部分のみすぼらしさが強調される事態に。
こちらは後程対処することにしました。



そして問題がもう一つ。
ステッチ周りにこびりついた謎の汚れが、徹底した丸洗いでも改善されなかったのです。
押して駄目なら引いてみるならぬ、水で駄目なら油ということで、ミンクオイルで溶かし出す作戦を敢行。
塗布後しばらくおいたあと、革の痛みもきにせずステインリムーバーを含ませた綿棒とコットンでひたすらこすること約3分。


オイルが効いたのか、ステインリムーバーの有機溶剤が有効だったのかは判然としませんが、だいぶ改善が見られたのではないでしょうか。
質実剛健な印象の三重ステッチが露わになりました。
これはこれで格好良いのですが、古いFlorsheimなんかのそれと比べてしまうと若干見劣りするなどと考えてしまうのは古靴好きの悪い癖かもしれません。
しかし、こうしたピッチの揃っていないステッチも、工業製品然としていないという点では愛着の持てる部分だったりもするので面白いものです。



続いて気なったパーツがコバとヒールの積上げ部分。
傷やシミが目立ち、かなりみすぼらしい状態です。


先ずは、アッパーを傷つけないようにマスキングを施して、サンドペーパーをかけました。
毛羽立ちや凹凸がひどく、表面をある程度均一にするはなかなかの重労働でした。
結果、途中で嫌気がさして、何日かに分けての作業となりました。

続いて、若干の傷やへこみは残ったままですが、味と言うことで割り切ってコバの染色に移りました。



アップで見ると雑な仕事ですが、遠目で見る分にはまずまずの仕上がりです。



コバ部分は皮革部分の面積が小さいので作業は比較的容易で、仕上がりも満足のいく出来です。


最後に全景を一枚。
(デフォルトの革紐を蠟引きの丸紐に交換してあります)
当初とは似ても似つかぬ姿となりました。
さすがは「キング・オブ・ブーツ」と呼ばれるWhite'sだけあって、適切な手入れを行えばきちんと応えてくれます。
しかし、惜しむらくは、私の足にはサイズが合わないこと。
短靴ではジャストのはずのUS8Dなのですが。
無念ですが、ヤフオクに旅立ってもらうことになりそうです。