芸能界一いい男と呼ばれる、敦賀蓮。21歳。


彼の秘めた片思いは、深まれば深まるだけ、から回っている。




先日、書き上げた般若心経のご褒美として、キスの天ぷらを作ってもらった。



あれから、漢字を書く努力は忙しい合間にではあるが続けている。

それもこれも、いとしい少女のため。



それ以外の努力もしている。

自分の気持ちに少しでも気が付いてもらいたいためではあるが、やはり手ごわい。


一緒の移動のときにさりげなく彼女の腰を抱いてエスコートしてもスルー。


プライベートな部屋に来たことのある女性は彼女だけだとさりげなく匂わせてもスルー。



さりげなさを装いすぎたと、直球勝負に出てみると硬直され、慌ててごまかすこともしばしば。



ため息の数は刻々と増え、結局、であったころとあまり変わらない距離がそこにはあった。


ときどき見せる彼女の無防備さに、先輩を装い、注意するのが精一杯。



このままじゃだめだと言い聞かせても、手も足も出せない状況が続いていた。




「あっ!敦賀さん!こんにちは。」

「こんにちは。最上さん。・・・事務所に用事だったんだ?」


ここは、事務所の廊下である。

松嶋主任への用が終わり、蓮は次の仕事までは少し間があったため、少し休憩しようと思っていた。


そこに、彼女が現れたのだ。


思い人の思わぬ登場に、心が浮き立たないはずはない。


時計を確認して、蓮はお茶に誘うかどうするか迷った。

いつものパターンとして、空振りに終わる可能性は高い。


「・・・今から、少し時間があるんで休憩に行こうと思うんだけど、きみは?」


「私もちょうど時間が少し空いてるんですよ?もしよろしければ、お茶をご馳走したいと思いますが・・・よろしい、ですか?」


「もちろん。ひとりでもつまらないと思ってたところなんだ。」


思いもかけない誘いに、心ははやる。

だが、こんなに無防備に笑顔を向けられると、この関係を壊したくないと思ってしまうんだよな。と、蓮は内心思いながらもやわらかく微笑んだ。




が、相手はなぜか挙動が不振になり、硬直している。


「あっ、はい!あああああの、敦賀さん、こっちに来てください!!!!」


そのまま、まるで果し合いにおもむくかのような表情で必死に言うキョーコについていくと、彼女たちラブミー部の控え室にそっと案内される。


いつの間にやら、3人に増えていた部員。

あの、目も覚めるようなピンクのつなぎの3人組を時折事務所内で見かけるが、女の子どうしきゃいきゃい楽しそうに見える。



彼が忙しいのもあるが、彼女たちの中にキョーコを見つけても、結局邪魔できなくて、遠くから眺めるだけなのだが・・・。




部屋は、簡素な机とモニターと数脚あるパイプ椅子とロッカー。
全体的にシンプルな事務所みたいだった。


蓮を、その椅子のひとつに座らせるとてきぱきとお茶の準備を始める。

そして備え付けられている小さな冷蔵庫から、彼女は何かを取り出した。



「・・・えっと、作ってみたんです。ケーキ。みんなに食べてもらって好評だったので、よろしければ、敦賀さんにも召し上がっていただきたいな・・・と。」


今日、彼が事務所に寄った後、少し時間があるということは社から聞いたと、ピンクに染まった頬で言うものだから、ついつい、彼は自分が特別待遇されている気になる。


そんな風に思うが、彼女に関しては甘い期待は抱いてはだめだろう。

蓮は気を引き締めた。が、やはり、頬が緩むのは押さえ切れない。


「ありがとう。わざわざ。」

「・・・!いっいえ!!・・・あの、お口に合えばいいんですけど・・・。」





長机に向かい合って腰掛けながらたわいもない話をして、紅茶と、手作りケーキを一緒に食べる。



些細なことで幸せを感じるのが恋だと、鶏君が言ったことを蓮はふと思い出した。




「うまい・・・。」

「ほんとうですか!」


うれしそうに、本当にうれしそうに笑うキョーコに、蓮は思わず手を伸ばした。




そのピンク色の頬に触れる瞬間、我に返る。



不自然な沈黙がふたりの空気を満たした。


(このまま、手を引っ込めたらかえって不自然だ!!!)


蓮は、とっさに彼女の頬に伸ばした指で、彼女の唇の端をぬぐう。


「・・・ついてた・・・。クリーム。」


そして、固まる彼女を尻目に、その指をぺろりとなめる。


「・・・甘い・・・。」


その次の瞬間に、真っ赤になって叫ぶ彼女に、ある意味予想通りの反応を返されて、蓮は少し安堵する。


そして、にやりと意地悪な笑みを浮かべた。

「・・・食べ物、粗末にしたらだめだろう?」


セクハラ?いじめ?とぶつぶつ黒いオーラを背負いだした少女に、爆笑して、怒られる。

いつもの光景。



本当にしたかったことは、別にある。

けれど、この距離を遠ざけたくないから。


「ごちそうさま。おいしかったよ。」



そういうと、ぷんぷん怒っている彼女の頬が緩んでいく。

その光景に、ただの先輩と後輩よりは一歩近づいた気がして、蓮は小さく笑った。





                               おわり。

ペタしてね



うん。この話はベタ中のベタですすめます。と、いま決めました。

ちょっとヘタレ卒業・・・?というより、セクハラ三昧なだけ・・・?