需要ないだろうけどうっかり書いたパラレルの続きになります。
自己満なのでお気になさらずw

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「いったい何の騒ぎだ?」


前庭に集っていた常に秩序立っているはずの騎士団員たちが、やけに騒々しい。

男は騒ぎに気が付き2階にしつらえた執務室の窓から除きこむ。
「・・・花嫁?」
そこには白いウエディングドレス姿で髪をふり乱した若い女性が仁王立ちしていた。

「ついに、レンの押しかけ女房でもきたか?」
「やめてくださいヤシロさん。人聞きの悪い。」
タイミング良くドアを開けて入ってきたのはレン・ツルガ。
王都の近衛騎士団の中でも一目置かれている若い騎士である。
ひどく整った容姿は、堕天使のようだとも評される。
本人はいたって清廉潔白で穏やかな男だが、愁いを帯びたその美貌と剣士としての腕で、女性からの人気は絶大であった。

それでも同性からやっかみを受けることが少ないのは、その性質とそつのない物腰の柔らかさゆえだろう。

レンも窓際に顔を寄せる。
「本当に花嫁ですね。」
これは、この駐屯地の連隊長にきちんと話をして状況を把握し、遺恨の残らない解決をしなければと判断する。
女性問題は厄介な場合が多い。

特に、どう見ても結婚式から逃げ出したか、逃げられたかにしか見えない花嫁衣装の女性の場合は。
現在連隊長は所用で外出しているため、一番階級的に上である自分が行くしかない。そうレンは決心した。

ヤシロもそう判断したのかレンに目くばせする。

前庭に出てきた二人は、彼女に一直線に向かった。


周囲の騎士たちを包む空気がその二人の登場で変わったことを、しかし、必死だった彼女は気が付かなかった。
息を大きく吸い込むと叫んだ。
「私を騎士団にいれてください!」

まさかの入団希望に、一瞬であたりが静まり返る。

その中にレンの穏やかな声が響き渡った。

「へぇ。騎士団に入りたいってどうして?」
突然現れた美形の、明らかに高位の騎士たちに話しかけられて彼女はそちらに目をむける。

ヤシロは、彼女の意外な反応にひそかに目を見開いた。

レンの堕天使を思わせる美貌に対する彼女の反応は、ほかの女性とは明らかに違う。
ほかの女性なら、一瞬目が合うだけでぽうっとのぼせたようになるのが常だ。もうそれは、ヤシロが彼の従騎士になってからの経験から言っても、年齢などまったく関係なしにすべての女性を虜にしてきた。

「すごい武勲をたてたいの!」
けれど、ウエディングドレスに綺麗に結い上げていたのであろう、今は無残なみだれ髪の彼女はレンをにらみつけている。
そしてさらに珍しいことにレンはそんな彼女を腕組みをして見下ろしている。
基本的にはフェミニストのはずの男が。

「なぜ?」
彼女は間髪入れずに叫ぶ。
「みかえしてやりたい奴がいるのよ!!」
その言葉を聞いて、レンの顔がこわばる。
普段穏やかな彼が、そんな表情を帯びるのを危険信号だと思わないままで少女はレンをにらみつけていた。

「・・・ここは子供の遊び場ではないよ。」

「あたしは本気です!」
「いきなりそんな姿でやってきて、騎士団にいれてくれって?」
レンが険悪な雰囲気をかもしながら彼女を見下ろす。
「きみはわが騎士団を馬鹿にしているのか?」

彼ら騎士団に所属する兵士たちはそれぞれ、団員となるための厳しい訓練を乗り切り入団しているのだ。いきなり門に押しかけて、入れてくれというのは、いくら世間知らずの少女のたわごとだからと言ってレンの許容範囲を超えていた。

しかも理由が”国を守る”といった崇高なものではなく、完全に私怨のようだったから特に。

「とりあえず、君みたいな甘っちょろい子には無理だと思うよ。・・・おとなしく帰ったら?」
「やってみなきゃわからないじゃない!」

すっと周囲の気温がさがってヤシロは身震いした。
少女も固まる。
桁外れの美貌に冷気をまとわせると、聖書に書かれている魔王とはかくやというくらいの恐怖となるのだと、ヤシロも少女もそれを十分思い知ることとなる。

「では、やってみせてもらおうか?」
地を這うような低い声に怒りをにじませてレンが目を細める。
少女は真っ青になりながら、唇を震わせる。

「どれだけ騎士団に入団したいか、覚悟のほどを見せてもらう。」

ここには男女の別などない。
必要あるのは、実力と才能。

近衛騎士団員は王の剣でなくてはならないのだから。
そのための訓練であり、そのための精鋭である。


「大した覚悟なんてないだろうけど・・・」

大の男でも根を上げる、隊の入団テストを受けるか問おうとしたレンは、少女が自分のドレスの腰に儀礼的につけていた短剣を抜いたことに気が付き、半ば条件反射で身構えた。



それはほんの一瞬のことだった。
成り行きを、見守っていたすべての騎士たちが言葉を失った。
歴戦の猛者たちも、唖然とするしかなかった。

ばさり。

地面に無造作に投げ出されたのは少女の長い髪。


完全に崩れて、背中に流れていたその髪を、彼女は自ら短剣で切ったのだ。
そして少女はざんばら髪のまま仁王立ちし、強い瞳でレンをにらみつけた。

「これが私の覚悟よ!」




ほかに思いつかなかった。
覚悟を問われて。

長い髪は、ずっと伸ばしてきた大切なもの。
この国では、髪の長さや豊かさが女性らしさであると思われている。
そのため、女性であればめったに髪を切ることなんてなかった。

ましてや、少年のような結い上げることのできない長さにするのは常識的にありえないことでもあった。



レンは風になびく彼女の短い髪と、地面に投げ出されたそれを無言で見つめた。
痛みにも似た感情が湧き上がる。

それはひどく”後悔”に似ていた。

覚悟を問うたのは自分。
そして彼女はそれに答えた。

彼女の大きな瞳が、まっすぐに見つめてくる。
レンは悟った。

これは完敗であることを。



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もう、うっかり続かない・・・と思います・・・。
・・・たぶん。