本編が進まんパラレル続き・・・これでも、思いつくエピソードを削りまくっているのに…。


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「・・・え?」
騎士見習いの少女からそれを聞いたヤシロは目を見張った。
「・・・・たべたの?君の料理を?」
あんまりな驚きようにすこし傷つきながら、キョーコはうなずいた。

レンをよく知るであろう従騎士である彼に、彼の食べ物の好みを聞いただけなはずなのに、そんな返事が返ってきて落ち込む。

しかし、聡い彼はそんなキョーコの心情に気が付いたのだろう。
ああ、と頭に手をやると、言いにくいことを口にするように一瞬口ごもり、それから意を決したように彼女に向き直った。
「レンは、信頼している人間が作ったものしか食べないんだ。」

それは、信頼に値する人物じゃないと思われていたのかと落ちこみかけたキョーコに、ヤシロは「違うから」とため息をついた。
そして、唐突に話題を変える。
「きみは、手料理の中に得体のしれない薬を盛られたり、睡眠薬をのまされそうになったりしたこと、ある?」
いいえと返事をした彼女に、ヤシロはこれまでのレンの受難の日々を説明し始めた。



それは、レンが入隊したころの話にさかのぼる。
無邪気な少女たちが次々彼の美貌の虜になり、押しかけてきた。
そこまでは、いい。

彼女たちの中には手作りの菓子などを差し入れるものもあったが、それには、怪しげな露天商から購入した、惚れ薬と銘打たれた薬やらなんやらが入れられた物が多数存在した。
なかには、目の前で食べて。と、しつこく差し出され、渋々割ってみたクッキーに、大量の髪の毛が混入されていたり、アリすら集らないケーキなどもあったりした。

しかし、そんなものはまだかわいいほうで、いっそ自分のものにならないなら、と、思いつめた女性に毒を盛られそうになったりしたこともある。

もともとの用心深い性格もあり、もらったまま口をつけることがなかったそれらのものを、たまたま同期が(止めるのも聞かず)食べてしまい、生死の境を彷徨ったという事件があったのだ。
それから、レンは本当に信頼できる人間からもらうもの意外は受け取りもしないし、口にもしない。

基本的に差し入れは受け取らないという方針を隊が貫くようになってからは、そんな危険もだいぶ減ったのだが。


「君の料理を口にしたってことは、最大の信頼の証だと思っていい。」
目を細めるヤシロに、あまり内心を悟られないようにと無表情を貫いたキョーコだったが、その言葉がやけにくすぐったかったのは事実だ。

「そういえば、どうしてレンの好みを聞きたかったの?」
当然といえば当然な疑問がヤシロから発せられた。
キョーコはこともなげに、今度また作ってほしいと約束させられたからだと答える。
その答えに、ヤシロはさらに目を見開いた。

差し入れの件がなくても、もともと、食に関してあれほど無頓着な男も珍しい。
普段の食事でもただ機械的に咀嚼しているんではないかと思えるくらいなのだ。
木の枝を出されても毒がないならば気にしないんじゃないか、とは仲間内での笑い話だが、無頓着ぶりから言ってもあながち間違いではないという感がぬぐえない。
そんな男が、食事をリクエストするなんて、はっきり言って異常だった。

それでも、もしかしたら、自分の懸念が一つ減るかもしれないとヤシロは前向きに考えた。
自分の仕える騎士であるレンの食生活への無頓着さは、戦場では長所になるが、平時では心配の材料にしかならない。
訓練や雑務や書類仕事に夢中になってると、レンは平気で食事を抜く。・・・というより、食事のことを忘れているのか、もしくはめんどくさがっている。

食事に関心がないというのは、自分の命への執着もないということではないかと、彼は長年危惧してきたのだ。
戦いのさなかのレンは、言語を絶する戦いぶりで、命知らずという言葉がぴったりだった。

誰でも、自分の命は惜しい。
けれど、レンはどんな場面でもひるまずに戦う。
それこそどんな場面でもだ。

そこには、命知らずという言葉ではごまかせない”何か”があった。
己の生にも頓着していないような、無関心さ・・・だろうか。
生きていたくないとか、死んでしまいたいとかのマイナスの感情を持っているわけではない。
かといって、何が何でも生きていたいという生命への執着も感じられないのだ。

ヤシロは彼に仕えるようになったころから、それは余計な杞憂だとそう思い込んでいようとした。

だから、正直に言ってほっとしていた。
仕える騎士の人間らしいところが垣間見えた気がしたのだ。



「じゃ、俺からキョーコちゃんへお願い。あいつ、食事には無頓着なところあるから、なるべく気を付けてやって?」
肯定の返事を返す笑顔に、ヤシロは優しく微笑む。

その後、すぐに実務担当の手腕を見事に発揮して、あっという間に材料費やら食材の調達やなんやらの手配を済ませた。
キョーコが望むときに望む分が、宿舎の厨房から分け与えられるという。
そんな手配くらい大したことないから、とあっさり言われたが、隊内でもかなりの評価を得ている、その敏腕さの片鱗を目の当たりにして、キョーコは素直に”すごい”と心の中で称賛した。

キョーコはこれで助けてもらった恩返しができると内心喜んだ。
貸し、とか借りとか、考えていたわけではないが、なんとなく落ち着かなかったのは確かだ。

そっと触れたあのときの唇の感触は、完全に封印した。
思い出すことも、自分に禁じた。
それでも、時々、勝手に心が反芻していて、大慌てでほかのことに集中したり(たいてい、その努力は水の泡になったが。)奇声をあげそうになって、それを押しとどめたりということはあったが、表面的には何も変わらない日常が過ぎ去って行った。



訓練はだんだん高度なものへと進み、時折上官に食事を作ったり、自主訓練に明け暮れたりと、キョーコはそれなりに充実した毎日を送っていた。

よく見てみると、上官は食事に関しては、本当にだらしがないほど無頓着だであることが判明し、彼女は使命感に燃えた。

食事をとったかどうか確認するたびに首をひねるレンに業を煮やして、食事をさせることに必死になっている騎士見習いと、当の騎士のことを、周囲が見慣れてきたころ・・・。

キョーコは市に食材を購入しに来ていた。
今日は、食欲増進に効果のある食材を使う秘伝のレシピのため、いつもはヤシロが手配する食材とは別に、少しの香辛料と、特別な食材が必要だったのだ。

ホクホク顔の店主に、支払いを済ませ、大荷物を抱えたまま店を出た途端、通りがかった男にぶつかりそうになる。
「すみません!」
キョーコが顔を上げると、男は一礼をした。

目が合う。

しかし、驚きに見開かれる瞳に対し、男は何の感慨も浮かべない目で彼女と目を合わせたあと、無表情で目をそらした。
待ち合わせだったのだろう。
美しいドレス姿の女性に声をかけ、そのまま立ち去っていく。


「!!」
忘れるはずがない。
キョーコは呆然とその場にたたずんでいた。
どうみても、自分を祭壇に置き去りにした幼馴染だ。


(・・・気が付かなかった…の。)
子供のころから一緒にいて、物心ついたころには親の決めたとはいえ許嫁だったというのに。
知り合いに会ったというより、赤の他人に会っただけという顔で立ち去った。

マントの背にあった刺繍は、近衛でもキョーコが見習いとして所属している第2支部と実力を二分すると言われる第5支部の交差する槍の文様。


(・・・ゆるせない・・・・・・・。)
いくら髪を切り、男物の服に身を包んでいたとしても、さすがに、見た瞬間にわかるだろうと思っていたのだ。
多少の罪悪感はあるはず。
そう、信じていた。

しかし現実はこうだ。

”赤の他人を見るような目で見た。しかもキョーコに気が付いた素振りもなかった。”


身を焼く怒りは、自分が想像していたよりも深く、強く。
驚くほど鮮烈だった。


そんな気持ちのままで、宿舎に戻ってしていた調理は、出来栄えこそ変わりなかったが、惨憺たるありさまだった。
一緒に食事をとりながら、レンにどうしたのか尋ねられて、キョーコは首を振った。
なんでもありませんと笑った。
普段通りでいられるように祈った。

未だにこの身を焼いている怒りを、レンにだけは悟られたくなかった。
まだ、こんなに奴に心を囚われているのかと思うと、あまりのふがいなさに吐き気がこみあげる。

最近では、騎士の修行が楽しくなってきていた。
自分のために努力して、周囲に認められることに、かつてない喜びがある。

この怒りは、それとは相反するものだ。
髪を切り、無謀にもレンに噛みついた時と同じ感情。


もとに戻ってしまった。
初めて会った時の、レンの表情に浮かんだ侮蔑にも似た表情を忘れてはいない。

ようやく、信頼を得て、彼女の料理ならば何の疑いもなく食べてくれるようになったのに。

宿舎を退去して、下宿に帰る道すがら、キョーコは何度も何度も己をののしった。
それでも、黒い感情が支配する。


それでも、囚われている。




レンは、夕食時に、少し様子がおかしかったキョーコのことを考えながら、昼間残しておいた書類に目を通していた。
その合間から、ひらりと一通の手紙が落ちる。
拾い上げて、開封し、確認すると”よろしければ、今宵、月が中天にさしかかるころ”とだけあった。
謎めいた手紙の差出人に心当たりがあった彼は、それを小さくまとめると、暖炉に放り込む。
(よろしければも何も、拒否権はないじゃないか・・・。)
相変わらず、悪趣味な。と悪態をつきながら、レンは紙が燃える一瞬の炎を横目に残りの書類に取り掛かった。




「だから、こういう呼び出しはやめてくださいと言ったでしょう。」
月明かりが照らし出す幻想的な美しい庭に、レンの声が響いた。
「ああ、面白いだろうが?」
決して好意的なことを考えてはいない気配を、レンがバシバシ出しているというのに、その声の主は面白がるそぶりを見せ、軽くいなす。
「ちょっとワクワクしたか?」
「しませんよ。オジサンと逢引きしてうれしいと思いますか?」

逢引きの主がちぇっと拗ねたそぶりを見せたところで、レンの表情は一切変わらない。
「つまらん奴だな。」
まあいい。と、男は笑い、暗闇から月明かりの下へ足を踏み出した。

「何の用です?」
「つれないな。そんなこと言うと、お前は王のお気に入りだという噂を流すぞ。」
薄闇に浮かぶ壮年の顔はにやりと笑う。
「迷惑です。」
即座に反論して、彼は腕を組んだ。
「たのしそうだなぁ、レンよ。お前がお気に入りだと言ったら、宮廷に潜むキツネやら狸やらが面白いくらい踊ってくれそうだよなぁ?」
ニタリニタリと面白がる表情を浮かべて、レンを見る。
「そんな藪、わざわざ突つかないでください。メンドクサイ。」
陰謀は宮廷の中だけでしてくれとレンは本気で顔をしかめた。


「そうそう、あの子だが。」
いよいよ本題かと、レンは小さく息をつく。
「お前のことを何くれと構ってやってるみたいだな?」
「・・・は?」
「世話女房みたいに、食事の世話させてるみたいじゃないか。」
人が嫌がると知っていて、わざとそんな言い方をしていると知っているのに、レンは思わずむっとしていた。
そんなつもりはなかったが、彼女の料理はおいしくて、少し癖になっているかもしれない。
ついつい、彼女の言葉に甘えて、作ってもらっていたが、周りからそう見えているのだとしたら、距離を置かなければならないだろう。
「・・・おまえ・・・。」
憂うその声に、考えを読まれたことをレンは悟る。
相変わらず人の心を読むのがうまい。
そうでもないと、一国の君主は務まらないのだろうが、この場合は酷だ。

「・・・まだ、ゆるせないか・・・?」
静かに、声が問う。

目の前の青年の穏やかな表情が、肯定を意味していることを、王は知っていた。
「・・・そうか。」
そういえば、と打って変わった気軽さで、王は彼の騎士に告げる。
「子をなくして、悲嘆に暮れて隠遁生活を送っていた公爵が、そろそろ宮廷に戻ろうとしてるって噂きいたか?」
「・・・いえ。・・・それは私に関係があることでしょうか。」
「ない。が、その子ってのは俺の名付け子でな。・・・最近よく思い出すんだ。」
そうですか。と返そうとして、レンは、また、あのニヤニヤ笑いに遭遇する。

「おまえ、今何の話されるのか、ちょっとドキドキしただろう!」
今度は隠し様のないため息がレンの口から零れ落ちた。
その会合は、王の気が済むまで続き、レンの心を憂鬱にしたのは言うまでもない。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

今回セクハラ禁止してみましたw
そしたら、全く主役二人が絡まなくなりました・・・あれれ・・・?