パラレル続き

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死にもの狂いという言葉は、まさにこのためにあったと言えるかもしれない。
レンは岸につき荒い息を吐く。
そのころまでには騒ぎに気が付いた村の人々や騎士団員が駆けつけ始めていた。

レンが助け上げた子供は、どうやら水を飲んだようで、青ざめてぐったりしている。
じぶんも呼吸を整えながら、レンは子供の鼻をふさぎ、二回自分の口で息を送る。

そうして、胸を押し始めた。

二度、三度。

かなり痛いはずのその行為に、その小さな体は無反応だった。
肋骨の軋む音だけが鼓膜にやけに響く。
(息をしろ!)
レンはひたすら念じた。

数十回目で、小さな体が、わずかに抵抗の気配を見せ始める。レンは手を止めた。

子供は何度か呼気を繰り返すと、細い笛のような音とともに水を吐いて激しく咳き込み始める。

その弱々しい泣き声をきいて、レンは安堵とともに思い切り脱力した。
実際、体力のほぼすべてを使い切っていたのだ。

多分誰かが呼びにいったのだろう、母親らしき人物が転がるようにかけてきて、子供を抱きしめて泣き出した。
それを薄目を開けて見ていたのは覚えているが、レンの記憶はそこで途切れた。



ざわざわと、風が格子を揺らした。
女官として与えられたマリア姫の部屋の近くにしつらえられた自室で、怠りなく剣の手入れを行っていたキョーコは、すっかり日の沈んだ窓の外を見る。

手入れをしていたのは、宮中でも使いやすい短剣だ。
女官が儀礼的に身に着けている懐剣を模したもので、ほかの女官のものと違うところは、刃挽きがしていない本物というところ。

キョーコが普段使っているものでは、目立ちすぎて、武器を持ち込めない宮中では使えないが、極秘とはいえ、警護という任務にあたると決まった時に、特別に王から下賜されたものだ。

そして、手入れを終えるとこれも日課である剣の素振りを始めた。
使うのは、木の枝に重りを括り付けて、剣の重量を模した自作の訓練用具である。
不格好なのは仕方ない。

いざとなれば、護身用具だと言い逃れられるように入り口近くの大きな壺に普段は差しているそれを一時間程度集中して振り回し、感覚を研ぎ澄ませる。


それが終わったら、汗を拭き、鬘を取り、素に戻ると、黒っぽい少年の服に着替え、ベルトに短剣を差し、見回りに行くのだ。

ほかの兵士の見回りに重ならない時間を計算して時間を配分したため、人にかち合うことはまずない。
主に女官の居室から、召し使いの区画、中庭を隔て、厨房、洗濯場、とあちこちを人目を避けて回り、最後は姫の居室の周囲を確認する。
その後、仮眠をとり、一晩に数回それを繰り返す。

昼間も、マリア姫の午睡の時間に合わせて女官たちも仮眠をとれるため、さほどつらくはなかった。

異常なことは何事もなかった。
今夜までは。


さすがに、夜明け前のこの時間帯は冷え込む。
白い息を目で追いながら、かじかむ指に息を吹きかけキョーコは歩いた。厨房はすでにあわただしく動きだしており、もうすぐ召し使いや下働きなども動き始める。
このあたりの時間が一番警備が手薄になる時間帯となるため、キョーコはいつも念入りに見回ることにしていた。
ここを回り終わったら、台所で顔見知りのおばさんに、温かい飲み物をもらおうかと考える。
それは、ひどくそそられる考えだった。

(こんなに寒いなら、おばさん特製のホットワインなんかがあるかもしれない。)

スパイスが効いていて、お砂糖を多めに入れたホットワインは、初めて飲んだ時からのお気に入りだった。
レシピをきいて自分で作っても同じようにはならない。
何が違うのか、全然わからないのだ。
スパイスの量なのか、産地なのか、あるいはワインの種類なのか。
いつかは同じ味に作ってやろうというのが、最近のキョーコの小さな野望だ。

おばさんとは、キョーコが、レンの食事のために材料を分けてもらうときに、声をかけてもらって、それからは時折世間話などをする間柄だった。
勿論、この任務のことは話せないが、キョーコが朝練の前に顔を出す時間とさほど変わらないため、特に不審には思われていないようだ。
むしろ、顔を出さないほうが怪しまれるかと、キョーコは時々立ち寄ることにしていた。

つらつら考えながら油断なく周囲に目を走らせ、中庭の篝火の明かりを慎重に避けて、マリア姫の居室周辺の回廊に来た時である。
カタン、と小さな物音がした。
常だったら聞き逃すかもしれないが、その音だけはやけに気になった。
キョーコは、目を細めた。
鼠や猫でも紛れ込んだのであればいいと思いながら、そっと物陰から周囲を探る。

普段は人気のないそこにあったのはまぎれもない人影。
しかも複数。

足音を忍ばせようとして失敗しているところからも、ただの素人集団のようだ。
こんな時間に何のつもりなのかと、慎重に監視を始める。


(・・・まさか・・・と思うけど…。)
最悪な想像をして、キョーコは思わず顔をしかめる。
夜の闇にまぎれて人目を忍んで王宮の奥にあるこんな場所に入り込むなんて、明らかに尋常じゃない。

ここにあるのは、女官の部屋と、王女の部屋。
こっそり、禁じられた恋人と逢引きするというなら、こんな大人数で現れることはないだろう。
見張り役、だとすると・・・。
キョーコは怖気だった。
誰の部屋に行くつもりにしろ、素晴らしい目的ではなさそうだ。

男が五人。足運びは素人。
(こういう場合、一人ずつばらけたところを素早くしとめるのが正解よね。)
騒ぎを起こせば、衛兵たちがすぐに駆けつけるはずだ。
ただ、駆けつけるまでに、自分一人で何とか対処できるくらいの人数にしていないと、身動きが取れなくなる可能性もある。

そして、たとえ、見張りの衛兵の一人や二人が相手に抱き込まれていても、それはその時。
そいつらだけでは、何ともならないくらいの騒ぎをおこせばいいだけだ。

こんな後宮に素人があっさり忍び込めるなんて、たぶん見張りの衛兵の誰かは、こいつらに買収されたか、甘い言葉でのせられたか、もしくは仲間だと考えてもいいかもしれない。

全員を一度に相手にするのは、以前、町で繰り広げたごろつき相手の失敗で懲りた。
抱き込まれている衛兵をも相手にするかもしれないならば、いま、素人とはいえ5人というのは少し手に余るだろう。
そう判断する。
どうすればよかったのか、あの失敗から何度も何度も考えた。
(・・・正しいかどうかは、今から試されるのね。)
最善を尽くすだけではだめだ。
己の力量を見極めつつ、相手の目的がなんにせよ、それは絶対に成功させてばならない。

レンは、あの時どうすべきだったかというキョーコの問いには決して答えを与えてくれなかった。
ただ、キョーコに考えさせようとした。
それは、きっと、こんな時のため。
一人で物事に対処するべき時の。

(・・・見ていてください!!)
失望だけはされたくないと、キョーコは上官の姿を思い浮かべ、気合を入れた。


まずは相手の注意をひくため、懐に忍ばせておいた石を取り出すと、回廊から中庭に向かい、思い切り投げた。

それは思ったより小さな”がさっ”という音にしかならなかったが、相手が臆病だったのか、見てくるように言われたらしい一人が離れる。


男はこわごわと音のしたほうに近づいてくる。
兵士というより、どちらかというと、戦いに不慣れなどこかの屋敷の召使いのようだ。
キョロキョロとしてはいるが、完全に腰が引けている。
手には一応剣らしきものを携えているが、どうにも心もとない。

回廊からの死角に向かってきた、どう見ても荒事に不慣れな侵入者に、心の中でごめんと誤ってから、キョーコは背後に回った。
あまり大きな物音をたてないよう、剣の鞘でやって来たその男の頸椎を思い切りたたく。
ぐらりと倒れた、大きな体を地面に倒れる前に全力で支え、そっと地面に寝かした。

あと4人。
そう思い、元の場所に戻ると、男たちは仲間を置いて先に進むことに決めたらしく、すでに姿はない。

しまった。
見失ったかと、周囲をうかがう。
視線の先、ほんの少しドアが開いていた。
夜は誰も使っていない部屋で、戸締りは先ほどまで大丈夫だった。
罠の気配がしたが、そっと進むと、そのドアに手をかける。

その瞬間、キョーコは短剣の鞘で敵の襲撃をしのいでいた。
それは、本能に近く、訓練によって磨かれたもの。

襲撃者の位置を素早く把握すると、そのみぞおちに剣先で一撃を加える。
勿論鞘を納めたままで、致命傷には至らない。
男はひしゃげたカエルの様な音を立てながら床に沈んだ。

(・・・これであと三人。)

闇の中、神経をとがらせながら回廊をすすむ。

その部屋の前まで行くと、少女のものと思われるくぐもった叫びが聞こえた。
それは、ほんの一瞬であったが、キョーコの耳に確かに届いた。

それと同時に複数の足音。

キョーコは短剣の鞘を抜き、声の方向に走った。



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わはは。ノープランて怖い。
つじつま合わなかったりしたらご指摘いただけると嬉しかったりします( ゜∋゜)

もう、どこに向かうのか私にもわかりませんwなんとか収拾つけていきたいと思います。