パラレル続き・・・・
今まではこちら→ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:

剣戟の音が響く。
キョーコは無言で3人の男に奇襲をかけた。

1人の男が抱えている麻の袋は、僅かにもぞもぞ動いている。

それを見て取ると、キョーコは不審者のひとりに鋭い一太刀を浴びせた。


彼女の剣は、腕の腱を正確に狙うものだった。
完全に切断しない程度に。
あくまで容赦なく。
よほどの覚悟を抱えているのでもない限り、反撃は出来なくなる。

致命傷には至らないとしても、腕への深い傷は、力と感覚を一時的に奪う。
それが素人に毛が生えた程度の剣士の利き手であれば、なおさら戦闘続行の意思を効果的に削ぐことができる。
戦場であれば通じない手段だが、相手が死に物狂いで"ない"なら有効な手だ。

不審者とはいえ、人間の肉を切る感触はいつまでたっても慣れるものでない。
刃が骨に当たる、ごつっという感覚も。
悲鳴も。

そんな生理的嫌悪感を無理やりねじ伏せて、キョーコは残る二人に対峙した。
こんな状況でも、抱えた麻袋の中身に刃を向けてキョーコをけん制することもない。

ということは、袋の中身は、キョーコの予想通りであるということだ。

最悪なことに。


あえて、だらんと両腕を下ろし、キョーコは油断なく目を細めながら首をかしげる。
「ねぇ、その袋の中身、たぶん我らが王の大事なものだと思うんだけど、返してくれない?」
けれど、返答の代わりに切りかかられて、刃でそれをかわす。
石造りの回廊にがきっと鈍い金属音が響く。

内心の焦りを出すことなく、次の手も受け流した。
単調な攻撃は次々と繰り出され、キョーコは防戦一方となった。
「行け!」
その牽制役の短い指示に、麻袋を抱えた男がその場から急いで背を向ける。

キョーコは小さくうめいた。
こいつの単調で大ぶりな攻撃は、ただの陽動だったのだ。
しかし、背を向けた男に気を取られた途端、大げさに切り込まれ、間一髪それを短剣で受けた。
油断していて、剣戟をまともに受けたため、腕がジンとしびれる。
(まずい・・・。)
こんなところで時間を食うわけにはいかない。顔に出したら付け込まれるため必至にこらえていたが、気持ちは焦る一方だった。

相手は長剣より少し短い剣を使っている。
こっちは短剣。

奇襲であれば懐に飛び込むのは簡単だが、相手が完全に捨て鉢で、ただ牽制するために剣を振り回しているのでうかつに踏み込めずにいる。
(・・・迷ってる暇、ないか!)
あの、麻袋の中身は絶対に取り戻さねばならない。
このまま時間稼ぎをされるわけにはいかないのだ。

そのためには多少思い切った手段がいる。
キョーコは素早く頭を巡らせた。

利き手ではない左手を犠牲にして、相手の懐に飛び込むしかないと決め、キョーコが身をかがめる。
あまりいい案とは思えなかったが、今は何より時間が惜しい。

さりげなく、敵の背後に視線を滑らす。
本能的に、キョーコの視線を追った男の、その一瞬の隙をついて、そのまま左腕を盾に、軸足を踏み込んだ。


瞬間、横からひゅっという風切り音とともに、黒い影が飛び込んでくる。
続く金属音。

思わぬ援軍の出現に、状況を理解しないまま、キョーコはたたらを踏む。
そこへ、鋭い声がキョーコに向けられた。
「追え!」
援軍として現れたその男の声にとっさに反応し、キョーコは即座に駆け出した。

キョーコは叩き込んだ城内の見取り図を思い出しながら走った。
不審者の向かった方向には、温室がある。

特に主要な建物ではなく、警備も厳重ではない。
温室は、王宮の端にあり、その裏手は王宮を取り囲むレンガ造りの壁。壁の向こうは深い堀となっているはずだった。

キョーコは王宮の見取り図を警備の最中に頭に叩き込んでいた。
王城の内部構造は、普段は非公開とされている。
だが、警備を担う以上は必要だと、王の計らいで特別に一度だけ大雑把な見取り図を見せてもらったのだ。
その一度で、王城の構造を把握し、実際の細かい部分は女官としての仕事中に調べ上げた。

隠れられるような場所、警備の死角、逃走経路として有効な位置。
それらをあわせて、徹底して考え抜いたのだ。
もし、この城に忍び込むのであれば、どんな経路が一番可能性が高いか。
この城から、逆に逃走するならどうすべきか。

その可能性が一番高いとおもった場所が、いま、敵の向かった方向だった。

この王城を外敵から守るため築かれた高いレンガ造りの壁は、ぐるりと城を取り囲み、その周りを、深い堀が囲んでいるといった造りになっている。
城下町と城とをつなぐ道は七本。それぞれに跳ね橋がかけられ、それぞれに堅牢な門がある。
警備は厳しいが、誰かの手引きで侵入できたとしたら、出ていくのは簡単だ。
入城のときに渡される木製の鑑札札を返却すれば、よほどの不審な動きがない限り呼び止められはしないだろう。

温室を背に壁に沿って数十ゼール行けば、下働きや商人が利用する通用門と跳ね橋がある。

このまま逃走するのであれば、大荷物を運んでいても怪しまれないよう商人か下働きのフリをするはず。
彼女のその読みは当たった。
50ゼール(約24メートル)ほど先にある温室の手前に、篝火の火明りに照らされた影が見え、キョーコは素早く距離を詰める。


「行かせないっ!」
キョーコは全速力で通用門の方向に回り込み、男の進路に立ちはだかった。

男の舌打ちがはっきりと聞こえた。
相手はどう出るか、キョーコが思案しながら弾む息を整え、短剣を構える。


そこで、男は予想外の行動に出た。
せっぱつまったのか、保身に走ったのか、よりにもよって男は、持っていた麻袋を中身ごと放り投げたのだ。

キョーコのほうに向けて。
「どわっ!!」
女らしい悲鳴とは程遠い奇声を上げながら、短剣を放り投げると、キョーコはその麻袋の中身を受け止めた。
けれど受け止めきれずにしりもちをつく。

その隙に、男は逃亡を図ろうとした。
しかし、焦りは男にもあったようで、石造りの歩道の段差に足を取られ、転びそうになる。
キョーコは素早く起き上がると、そっと荷物を下ろし、転がった短剣を拾い上げると男を追い詰めにかかった。

逃げられないと悟ったのか、壁際まで追い詰められた不審な男は、くるりと向き直り、己の剣を構える。
多少は剣を使ったことがあるようだったが、今のキョーコの敵ではない。

あっさりと地面に沈め、キョーコはふうと思い切り息を吐いた。

先ほど現れた助っ人が隣に並んだのに気が付いたのは呼吸が整ったころだった。
そのまま、助っ人は倒れ伏した不審な男のそばに行き、状態を確かめている。

彼女は、それを横目に大事な麻袋に慌てて近寄った。
ひもをほどき、中身を開放する。

中から現れたのは、柔らかい巻き毛の少女。
キョーコは、微笑んだ。
「マリア姫、ご無事ですか?」

「ええ。」
小さくうなづいた王女は、自力で袋から出ると小さく伸びをした。
恐慌状態に落ちいっててもおかしくないというのに、落ち着いた様子でキョーコを見て目を見張る。

「キョーコ!あなた髪!!」
「・・・あとで説明しますから、とりあえず、今は中に。」

促しながら、助っ人のほうを見る。
礼を言おうと口を開きかけたキョーコは、そこによく見知った顔を見つけた。

いま、彼女が全力で憎んでいる男の顔だ。

男はキョーコを不躾なくらい見つめている。
どこで見たかを思い出そうとしているのだろうか。

慌てて視線をそらせたが、よりにもよって近づいてくる気配。

騎士になって、嘲笑ってやれるまではこいつには会いたくなんかなかった。
未だ見習いの身。
騎士として、高い武勲を上げ、こいつなんかには手の届かない存在になって、そんな女を捨てたのかと後悔させるには、まだ足りない。
自分を捨てたことを、地面をのたうち回るほどに後悔してほしいのだ。

キョーコの生家の身分では、貴族に嫁いで地位を上げることの可能性は限りなく低いどころか、財産もなく、そんな機会は皆無だし、そもそも、それは自分の力ではない。地位に跪いて欲しいわけじゃない。
どうしても実力でひれ伏させたいのだ。

だから、キョーコの様な平民でものし上がれる、同じ騎士の道を選んだ。

騎士たちが実力を試す、年一回行われる模擬試合で、地面にたたきつけるのでもいい。
ただ、後悔で、悔し涙に暮れてほしい。
それが、キョーコが望んだ復讐だった。

だが、今の自分の実力では、まだ鼻で笑われるのが落ちだ。

まだ、ばれていない。
だったら、とことんしらばっくれてやろうじゃないの。
キョーコは、ニヤリと悪魔のような凶悪な笑みを浮かべた。



凶悪な笑みを浮かべる女に、どうも見覚えがあるような気がして、ショーは彼女をまじまじと観察した。
王女が『キョーコ』と呼んでいた。
ということは、回廊で見かけたあの女官なのだろうか。
しかし、たいまつの明かりに照らされた顔は、たおやかなあの美しさとは似ても似つかない気がする。
あれが俗にいう、化粧の魔術だとしたら、ある意味女というのは恐ろしい。

少年のように短くした髪は、所々外側に跳ね、肩にすら届いていない。
だが、すらりと伸びた首を強調している。
男物の服は、華奢な体躯を包み、細身だが、やわらかな女性らしい曲線がその下にあることを思わせる。

それよりなにより、その強い視線が、彼女の凛とした魅力を彩っている。
ショーの好みのタイプからはかけ離れているが、それでも目を離せない何かがあった。

しかし、どうして、こんなにも見覚えがあると思うのか。
ショーはそれがなぜなのか追求しようと、右足を一歩踏み出した。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

戦闘シーンは難しいですw