お待たせしました!パラレル続きです。
完全にスランプなのでお話が支離滅裂でないことだけ祈ってます!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
強大な嵐が引き起こした被害は、徐々に復興されていく。
死者、けが人ともに人的被害は最小限に抑えられた。
あとは民間の手にゆだねられ、騎士たちは王都に帰ってきた。
その中でも、レンの担当した村は人的被害が全くなかったという報告があった。家畜が何頭か流されただけという被害は、明らかに突貫とはいえ治水工事の有用性を証明しており、これによって、百年王国はこの後、大幅に治水工事を推し進めていくことになるが、これはまた別の話。
キョーコの影なる王城での活躍は、表立って評価されることはなかった。
王と王の側近だけで事件は内々に処理されたためだ。
従って、褒賞が出るということもなかったが、キョーコ自身はそのことについて理解していた。
そもそも、褒賞目当てではなかった。
かの健気な王女を守れただけでよかったのだ。
その姿勢は彼女の評価を、ごく一部ではあるが内輪でだけ引き上げることとなった。
それよりも、キョーコの中では別の嵐が巣食っていて、彼女自身に甚大な被害をあたえていることのほうが問題であった。
その嵐は上官の姿をしていた。
夢の中で、それは自分の意思とは関係なく彼女を襲ってくる。
(また眠れなかった・・・。)
夢のせいだ。
眠ると、やたら色っぽい上官が迫ってくる。もしくは彼女が迫っている。
肌の質感とかがリアルで困るのだ。
勿論これまで、男性との逢瀬を想像したことはないわけではない。いずれも今思えばおままごとみたいでかわいらしいものだった。
想像してはダメだと言い聞かせるのに、思えば思うほど不埒な妄想が頭をよぎる。
そしてもう一つ悩みの種がある。
なんだかんだと理由をつけては、ショーが現れるようになったのだ。
自分が彼女に何をしたのか、わかっていないのか、反省の色もなく現れては、ちょっかいをかけてくる。
婚約していた時は、あんなに彼女を避けてばかりだったというのに、だ。
なれなれしくやってきては、どうでもいいことを喋り帰っていく。
キョーコにはショーの意図が全く読めなかった。
ショー本人もわかっていないのだから、彼女にはわかるはずもなかったが。
(・・・そろそろお昼ね・・・お昼ごはん何にしようかしら・・・。)
色々なメニューを思い浮かべる。
レンが怪我から回復してもう3日目。
熱も下がったようだし、そろそろ普通食に戻してもよさそうだ。
今度のクロサキの診察の時にでも聞いてみよう。
そう思いながら厨房に向かう。
いつの間にか、彼の食事は完全にキョーコが管理していた。
各地へ散った召使いたちも徐々に戻っていたが、城の片づけやらなんやらで、手が足りないのは事実だったし、食事に関してだけはどうも不安で、レンやヤシロだけには任せられないでいた。
日頃も食には無頓着なのに、体調が悪いとなおさら無頓着になるのが目に見えている。
(それに私にご飯作ってって言ったもん。)
あの、彼が熱に浮かされていた夜のことは、お互い口にしていない。
彼は忘れているのだろうが、変に記憶が戻られても気まずいため、何も言わないでいるほうが却って安全。キョーコはそう思っていた。
変に避けたりして、勘ぐられるのも嫌だしと、たくさんの言い訳を並べる。
表面上は穏やかな日常を取り戻しつつあった。
見えないところに強い後遺症は残っているけれども。
キョーコはそんな自分の思考のなかにいてボーっと歩いていたが、ふと目の前に見知った顔を見つけて眉を吊り上げた。「・・・・なに、あんた、また来たの?」つい、口調に苦いものが混じる。
「ああ?!来たら悪いのか?俺だってここに住んでんだよ!」
厨房に向かう途中で、またもや現れたショーに悪態をつく。
はたから見て、どう見ても親しげに見えるその様子に、本人たちは気が付いていない。
レンはベッドで背を起こしながら傍の窓から外を見ていた。
ここから、彼女が来るのを見つめるのがひそかな楽しみだった。
実は向こうからは木の陰になっていて見えないのだ。
筋肉を一部切除しているため、まだ、ベッドを出る許可が出ていないが、だからといって律儀に寝ていても回復が早まるわけではない。
野生動物でも怪我してからずっと寝ているものはいない。
だとしたら人間も同じはずである。
一人の時はこっそり筋トレをしたり、体力を戻すため動いているが、まだうまく足をうごかせないでいる。
ただ、無理はしないように心がけていた。
一刻も早く訓練に戻りたいが、室内を軽く歩くだけで息が切れる状況ではできるはずがないことは、さすがにわかるため大人しくしている。
木の陰に、彼女の短い髪が見えた。
その柔らかい髪を目で追う。
罪なことかもしれないが、その髪が柔らかいことは既に知っている。
あの夜に思いをはせる。彼女を腕に抱きしめて眠った。
ちょっと熱でタガが外れていたかもしれない。
一度腕に閉じ込めてしまったら、離したくなくなった。
眠ったふりで、彼女がじっとしているのをいいことにそのぬくもりを味わっていた。
いつの間にか眠りについた彼女の髪をっとなでた。
彼女を起こしたくなくてそれ以上身動きが取れなかったのだ。
おかげで朝には彼女を乗せていた腕がしびれて使い物にならなかったが、心は妙に浮き立っていた。
彼女が起きた瞬間も、わざと眠ったふりをした。
目を合わせたりしたら、純情な彼女のことだ、勢いよく逃げ出されたに違いない。
レンは軽く唇に笑みを乗せた。
おかげで、彼女が起き上がり、一瞬何処にいるのかわからないかのようにキョロキョロした気配を、そしてレンを発見して腕の中から飛び出そうとして、更にそのあとじっとしながらレンの様子をうかがうそぶりとかが感じられて、おかしなことに満ち足りた気分だった。
彼女が離れたときの喪失感から考えるに、もう末期なのは違いない。
みつめていると彼女の髪が木陰から動かなくなった。
レンは彼女のすぐそばにもう一人の存在を見つけた。
目を細める。
(あいつは・・・。)
彼女の身辺の調査をした時に知った。その時は遠くから見たことしかなかったが、きっと間違いない。
女に好かれそうな甘いマスク。
レンとは違う系統の、すこしまだ若さを残したやんちゃそうな雰囲気。
(なぜ、彼女と一緒に・・・?)
それは、彼女の”元婚約者”だった。
そこはかとなく漂う親しげな雰囲気。
まるで誰も立ち入れないかのような・・・。
きゅっとレンはこぶしを握った。
眺めていても辛くなるとわかっていて、目が離せない。
彼女は誰のものでもない。
そんなことを言う権利はないのはわかっている。
けれど、できればそいつだけには逢ってほしくなかった。
思ったより冷静でない自分に気が付いて動揺する。
(・・・まだ、君はそいつのことが・・・好き、なのか・・・。)
あの、初めて会った日、ウエディングドレスを翻して目の前にやってきたときのことを思い出す。
彼女は、あの不実な男のためにあの服をまとい祭壇に居たのだ。
(・・・ああ、なんかもうそれだけでもムカつくな・・・。)
そんな権利なんかない、というのに。
理性で歯止めをかけようとしているのに全くうまくいっていない。
彼女の髪が風に揺れている。
それをただ間抜けに、指をくわえてみていることしかできないのが歯がゆい。
気が付いたら指がシーツを強く握りしめていた。
一本一本指をシーツから引きはがして一つ息を吐く。
くしゃくしゃのシーツのしわが、今の自分みたいで嗤える。
彼女に、自分だけを見てほしいのだ。
結局のところは。
本当にそうなっても困るくせに。
好きなだけでは突き進めない。
今の自分では、まだ、だめなのだ。
きっと、大事にしたいものを、ただ傷つけるだけに違いないから。
昼食を運んできたときから、彼女の上官はひどく不機嫌だった。
無駄に笑顔がキラキラしているから、きっと誰もそんなことは思わないだろうがキョーコにはわかった。
目の奥が笑っていない。
怒っているのとは違う。
それだけはわかるが、そんなにピリピリしている理由が思いつかない。
「あの・・・なにか昼食で嫌いなものでもありました・・・?」
「・・・え?なんで・・?」
「・・・いえ、なんとなくなんですが・・・機嫌が・・・悪いのかな、と。」
「そんなことないけどな。」
ニッコリした顔は、確かにいつも通り。
なのにどうして、そんな風に思うのか。キョーコ彼の様子をうかがった。
まつ毛の隙間から覗く上官は、少し痩せてはいるが普段と変わりない。
(・・・なんでわかったかな。)
イライラを押し込めて、普段通りにふるまうことにした努力が水の泡じゃないか。
レンは髪を掻きあげた。
本音をさらしたりなんかしたら、きっとこの子に全速力で逃げられる。
そんなことは耐えられそうにない。
「そういえば、剣の稽古はできてる?」
唐突な話題変換に彼女は違和感を感じなかったのか、いつものような会話が始まった。
それにレンはホッとする。
身振り手振りで稽古の進捗状況を教える彼女に、ふわりとした笑みが口端に浮かぶ。
一所懸命なその姿が、ひどく愛おしい。
言葉にすると陳腐だ。
この愛しさの塊と真っ直ぐ向き合うことができたらどんなにいいだろう。
なのに自分にはその資格がない。
そう・・・。最初から。
「そろそろ包帯を変えますね?足、出してもらえますか?」
物思いに沈んでいたら、いつの間にか彼女が傍に立っていた。
「あ、ああ・・・ごめん、お願いするよ。」
掛けたキルトからそっと足を引き出し、ベッドに腰掛ける形となったレンは、だいぶスムーズに動けることに、ほっとする。
キョーコが跪き、手際よく包帯をほどいて傷口を検める。
「うん。綺麗。」
つぶやきは独り言だろうか。思わず唇がほころぶ。
「最初」
レンは静かに彼女のつむじに話しかけた。
「この足が無事だったことにびっくりした。」
彼女はピクリと身じろぎしたが黙って手を動かしていく。
「朦朧としてたけど、だめだと思っていたから・・・。」
「・・・レン様が、お医者様に剣を向けて脅したからです。」
キョーコはあの時の気持ちを思い出して、思わず身を震わせた。
あまり覚えてないんだけど、と照れくさそうに言うレンにキョーコは顔を上げた。
「そうしてくれてよかったんです!」
そして、どれだけそれでよかったかを力説し始める。
(・・・もう少し個人的な理由が良かったな・・・。)
そうレンが思うほど、見事に事務的な理由を述べられ、なんか撃沈した気分になった。
ふぅ、と息を吐いて彼女の赤く染まった耳に目を留める。
(・・・ん・・・?赤い・・・?)
ついついつられてレンも赤くなった。
上目づかいで「わたしも嬉しかった・・・。」なんて言われて、どうしろというのだろう。
(ああ、もう!この子は・・・!)
もし無意識なら、たちが悪い。
彼女の指が、自分の足に触れている。
治療のためだと言い聞かせてもそれだけで、もうおかしくなりそうで、レンはいけない反応をしそうな自分の下半身にシーツを引き寄せた。
城内は、やけに静かだった。
最新の噂話を耳に入れた腹心に、王はわずかに表情を変えた。
それは、はたから見るとほとんど変わらないものだったが、王に長らく仕えるものとしては見逃せない変化。
「・・・意図的に流されているようだな・・・。」
声は低く、地を這うようだった。
肯定を返事をしないことで示した忠臣に頷く。
「・・・どこまで?」
名前を与えられていない男は、ゆっくりとかしずいた。
これまでずっとしてきたように。
それだけで王は理解した。
しばし瞑目する。
側近が伝えた、ということは”そういう”ことだろう。
くだらないと一蹴できるほど事態は軽くない局面にある。
国民感情が不安に傾いているこの時期に、うまくぶつけてきたのは愚かながらもあっぱれとしか言いようがない。
「するべきことはわかっているな?」
頷く側近にきつい視線が飛ぶ。
「では、行け。」
こうべを垂れ、側近が消えたドアをにらみつけて、王は歯ぎしりした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
起承転結で言えば、転です。
・・・たぶん。
無駄に壮大になりそうなので、慌てて話の方向を修正しました・・・矛盾はないか心配です。
完全にスランプなのでお話が支離滅裂でないことだけ祈ってます!
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強大な嵐が引き起こした被害は、徐々に復興されていく。
死者、けが人ともに人的被害は最小限に抑えられた。
あとは民間の手にゆだねられ、騎士たちは王都に帰ってきた。
その中でも、レンの担当した村は人的被害が全くなかったという報告があった。家畜が何頭か流されただけという被害は、明らかに突貫とはいえ治水工事の有用性を証明しており、これによって、百年王国はこの後、大幅に治水工事を推し進めていくことになるが、これはまた別の話。
キョーコの影なる王城での活躍は、表立って評価されることはなかった。
王と王の側近だけで事件は内々に処理されたためだ。
従って、褒賞が出るということもなかったが、キョーコ自身はそのことについて理解していた。
そもそも、褒賞目当てではなかった。
かの健気な王女を守れただけでよかったのだ。
その姿勢は彼女の評価を、ごく一部ではあるが内輪でだけ引き上げることとなった。
それよりも、キョーコの中では別の嵐が巣食っていて、彼女自身に甚大な被害をあたえていることのほうが問題であった。
その嵐は上官の姿をしていた。
夢の中で、それは自分の意思とは関係なく彼女を襲ってくる。
(また眠れなかった・・・。)
夢のせいだ。
眠ると、やたら色っぽい上官が迫ってくる。もしくは彼女が迫っている。
肌の質感とかがリアルで困るのだ。
勿論これまで、男性との逢瀬を想像したことはないわけではない。いずれも今思えばおままごとみたいでかわいらしいものだった。
想像してはダメだと言い聞かせるのに、思えば思うほど不埒な妄想が頭をよぎる。
そしてもう一つ悩みの種がある。
なんだかんだと理由をつけては、ショーが現れるようになったのだ。
自分が彼女に何をしたのか、わかっていないのか、反省の色もなく現れては、ちょっかいをかけてくる。
婚約していた時は、あんなに彼女を避けてばかりだったというのに、だ。
なれなれしくやってきては、どうでもいいことを喋り帰っていく。
キョーコにはショーの意図が全く読めなかった。
ショー本人もわかっていないのだから、彼女にはわかるはずもなかったが。
(・・・そろそろお昼ね・・・お昼ごはん何にしようかしら・・・。)
色々なメニューを思い浮かべる。
レンが怪我から回復してもう3日目。
熱も下がったようだし、そろそろ普通食に戻してもよさそうだ。
今度のクロサキの診察の時にでも聞いてみよう。
そう思いながら厨房に向かう。
いつの間にか、彼の食事は完全にキョーコが管理していた。
各地へ散った召使いたちも徐々に戻っていたが、城の片づけやらなんやらで、手が足りないのは事実だったし、食事に関してだけはどうも不安で、レンやヤシロだけには任せられないでいた。
日頃も食には無頓着なのに、体調が悪いとなおさら無頓着になるのが目に見えている。
(それに私にご飯作ってって言ったもん。)
あの、彼が熱に浮かされていた夜のことは、お互い口にしていない。
彼は忘れているのだろうが、変に記憶が戻られても気まずいため、何も言わないでいるほうが却って安全。キョーコはそう思っていた。
変に避けたりして、勘ぐられるのも嫌だしと、たくさんの言い訳を並べる。
表面上は穏やかな日常を取り戻しつつあった。
見えないところに強い後遺症は残っているけれども。
キョーコはそんな自分の思考のなかにいてボーっと歩いていたが、ふと目の前に見知った顔を見つけて眉を吊り上げた。「・・・・なに、あんた、また来たの?」つい、口調に苦いものが混じる。
「ああ?!来たら悪いのか?俺だってここに住んでんだよ!」
厨房に向かう途中で、またもや現れたショーに悪態をつく。
はたから見て、どう見ても親しげに見えるその様子に、本人たちは気が付いていない。
レンはベッドで背を起こしながら傍の窓から外を見ていた。
ここから、彼女が来るのを見つめるのがひそかな楽しみだった。
実は向こうからは木の陰になっていて見えないのだ。
筋肉を一部切除しているため、まだ、ベッドを出る許可が出ていないが、だからといって律儀に寝ていても回復が早まるわけではない。
野生動物でも怪我してからずっと寝ているものはいない。
だとしたら人間も同じはずである。
一人の時はこっそり筋トレをしたり、体力を戻すため動いているが、まだうまく足をうごかせないでいる。
ただ、無理はしないように心がけていた。
一刻も早く訓練に戻りたいが、室内を軽く歩くだけで息が切れる状況ではできるはずがないことは、さすがにわかるため大人しくしている。
木の陰に、彼女の短い髪が見えた。
その柔らかい髪を目で追う。
罪なことかもしれないが、その髪が柔らかいことは既に知っている。
あの夜に思いをはせる。彼女を腕に抱きしめて眠った。
ちょっと熱でタガが外れていたかもしれない。
一度腕に閉じ込めてしまったら、離したくなくなった。
眠ったふりで、彼女がじっとしているのをいいことにそのぬくもりを味わっていた。
いつの間にか眠りについた彼女の髪をっとなでた。
彼女を起こしたくなくてそれ以上身動きが取れなかったのだ。
おかげで朝には彼女を乗せていた腕がしびれて使い物にならなかったが、心は妙に浮き立っていた。
彼女が起きた瞬間も、わざと眠ったふりをした。
目を合わせたりしたら、純情な彼女のことだ、勢いよく逃げ出されたに違いない。
レンは軽く唇に笑みを乗せた。
おかげで、彼女が起き上がり、一瞬何処にいるのかわからないかのようにキョロキョロした気配を、そしてレンを発見して腕の中から飛び出そうとして、更にそのあとじっとしながらレンの様子をうかがうそぶりとかが感じられて、おかしなことに満ち足りた気分だった。
彼女が離れたときの喪失感から考えるに、もう末期なのは違いない。
みつめていると彼女の髪が木陰から動かなくなった。
レンは彼女のすぐそばにもう一人の存在を見つけた。
目を細める。
(あいつは・・・。)
彼女の身辺の調査をした時に知った。その時は遠くから見たことしかなかったが、きっと間違いない。
女に好かれそうな甘いマスク。
レンとは違う系統の、すこしまだ若さを残したやんちゃそうな雰囲気。
(なぜ、彼女と一緒に・・・?)
それは、彼女の”元婚約者”だった。
そこはかとなく漂う親しげな雰囲気。
まるで誰も立ち入れないかのような・・・。
きゅっとレンはこぶしを握った。
眺めていても辛くなるとわかっていて、目が離せない。
彼女は誰のものでもない。
そんなことを言う権利はないのはわかっている。
けれど、できればそいつだけには逢ってほしくなかった。
思ったより冷静でない自分に気が付いて動揺する。
(・・・まだ、君はそいつのことが・・・好き、なのか・・・。)
あの、初めて会った日、ウエディングドレスを翻して目の前にやってきたときのことを思い出す。
彼女は、あの不実な男のためにあの服をまとい祭壇に居たのだ。
(・・・ああ、なんかもうそれだけでもムカつくな・・・。)
そんな権利なんかない、というのに。
理性で歯止めをかけようとしているのに全くうまくいっていない。
彼女の髪が風に揺れている。
それをただ間抜けに、指をくわえてみていることしかできないのが歯がゆい。
気が付いたら指がシーツを強く握りしめていた。
一本一本指をシーツから引きはがして一つ息を吐く。
くしゃくしゃのシーツのしわが、今の自分みたいで嗤える。
彼女に、自分だけを見てほしいのだ。
結局のところは。
本当にそうなっても困るくせに。
好きなだけでは突き進めない。
今の自分では、まだ、だめなのだ。
きっと、大事にしたいものを、ただ傷つけるだけに違いないから。
昼食を運んできたときから、彼女の上官はひどく不機嫌だった。
無駄に笑顔がキラキラしているから、きっと誰もそんなことは思わないだろうがキョーコにはわかった。
目の奥が笑っていない。
怒っているのとは違う。
それだけはわかるが、そんなにピリピリしている理由が思いつかない。
「あの・・・なにか昼食で嫌いなものでもありました・・・?」
「・・・え?なんで・・?」
「・・・いえ、なんとなくなんですが・・・機嫌が・・・悪いのかな、と。」
「そんなことないけどな。」
ニッコリした顔は、確かにいつも通り。
なのにどうして、そんな風に思うのか。キョーコ彼の様子をうかがった。
まつ毛の隙間から覗く上官は、少し痩せてはいるが普段と変わりない。
(・・・なんでわかったかな。)
イライラを押し込めて、普段通りにふるまうことにした努力が水の泡じゃないか。
レンは髪を掻きあげた。
本音をさらしたりなんかしたら、きっとこの子に全速力で逃げられる。
そんなことは耐えられそうにない。
「そういえば、剣の稽古はできてる?」
唐突な話題変換に彼女は違和感を感じなかったのか、いつものような会話が始まった。
それにレンはホッとする。
身振り手振りで稽古の進捗状況を教える彼女に、ふわりとした笑みが口端に浮かぶ。
一所懸命なその姿が、ひどく愛おしい。
言葉にすると陳腐だ。
この愛しさの塊と真っ直ぐ向き合うことができたらどんなにいいだろう。
なのに自分にはその資格がない。
そう・・・。最初から。
「そろそろ包帯を変えますね?足、出してもらえますか?」
物思いに沈んでいたら、いつの間にか彼女が傍に立っていた。
「あ、ああ・・・ごめん、お願いするよ。」
掛けたキルトからそっと足を引き出し、ベッドに腰掛ける形となったレンは、だいぶスムーズに動けることに、ほっとする。
キョーコが跪き、手際よく包帯をほどいて傷口を検める。
「うん。綺麗。」
つぶやきは独り言だろうか。思わず唇がほころぶ。
「最初」
レンは静かに彼女のつむじに話しかけた。
「この足が無事だったことにびっくりした。」
彼女はピクリと身じろぎしたが黙って手を動かしていく。
「朦朧としてたけど、だめだと思っていたから・・・。」
「・・・レン様が、お医者様に剣を向けて脅したからです。」
キョーコはあの時の気持ちを思い出して、思わず身を震わせた。
あまり覚えてないんだけど、と照れくさそうに言うレンにキョーコは顔を上げた。
「そうしてくれてよかったんです!」
そして、どれだけそれでよかったかを力説し始める。
(・・・もう少し個人的な理由が良かったな・・・。)
そうレンが思うほど、見事に事務的な理由を述べられ、なんか撃沈した気分になった。
ふぅ、と息を吐いて彼女の赤く染まった耳に目を留める。
(・・・ん・・・?赤い・・・?)
ついついつられてレンも赤くなった。
上目づかいで「わたしも嬉しかった・・・。」なんて言われて、どうしろというのだろう。
(ああ、もう!この子は・・・!)
もし無意識なら、たちが悪い。
彼女の指が、自分の足に触れている。
治療のためだと言い聞かせてもそれだけで、もうおかしくなりそうで、レンはいけない反応をしそうな自分の下半身にシーツを引き寄せた。
城内は、やけに静かだった。
最新の噂話を耳に入れた腹心に、王はわずかに表情を変えた。
それは、はたから見るとほとんど変わらないものだったが、王に長らく仕えるものとしては見逃せない変化。
「・・・意図的に流されているようだな・・・。」
声は低く、地を這うようだった。
肯定を返事をしないことで示した忠臣に頷く。
「・・・どこまで?」
名前を与えられていない男は、ゆっくりとかしずいた。
これまでずっとしてきたように。
それだけで王は理解した。
しばし瞑目する。
側近が伝えた、ということは”そういう”ことだろう。
くだらないと一蹴できるほど事態は軽くない局面にある。
国民感情が不安に傾いているこの時期に、うまくぶつけてきたのは愚かながらもあっぱれとしか言いようがない。
「するべきことはわかっているな?」
頷く側近にきつい視線が飛ぶ。
「では、行け。」
こうべを垂れ、側近が消えたドアをにらみつけて、王は歯ぎしりした。
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起承転結で言えば、転です。
・・・たぶん。
無駄に壮大になりそうなので、慌てて話の方向を修正しました・・・矛盾はないか心配です。