どうでもいい小話


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「あなたは、彼女のどこに惹かれましたか?」



「・・・社さん。本当にこんな質問に答えなきゃいけないんですかね?」
蓮がめずらしくごねた。
雑誌の取材で、事前に質問事項が書いてある用紙を手に蓮が思案していたと思ったら、こうだ。

「なんだ、答えにくいのか?」
横から覗き込んで、社は辟易した。
「確かに、ためらう質問だらけだな・・・で、どこが答えにくいんだ?」
「彼女のどこに惹かれたか・・・ってこんな解答欄じゃ足りないですよね。」
いっそのこと、原稿用紙で300枚くらい書いてみますか。なんてことを真顔で言われて、いや、そっちかよと天を仰ぐ。
「・・・それはさすがにやめとけ・・・。」

ようやく、彼女と婚約できて、発表した途端、雑誌の取材は増えるわ、トークバラエティーのオファーは増えるわ、パパラッチが張り付くわで、忙しさが無駄に増えた。
それで文句も言わないこの出来た俳優は、どうやら浮かれてるらしい。
こんな冗談を言ってくるなんて珍しい(・・・いや、冗談だよな・・・?)と思いながら、そつのない敏腕マネージャーは当たり障りのない答えを一緒に考えることにした。

砂を吐きそうな答えが書かれた解答欄を、何とか無難に整える。

「てか、ここ、なんで空欄なんだ?」
社は最後の質問が空欄なのに気が付いて首をかしげる。

「この”彼女に永遠の愛を誓う言葉をお願いします”っていうのが、特に困っていて・・・。敦賀蓮としてどう答えるのが正解なんでしょう・・・?」
ふう・・・と、優美なる担当俳優は息を吐いた。
「困るでしょう?」
社は少し目を見開いた。
「え?普通でいいんじゃないか?」
「俺、さすがに不死身じゃないですよ。」
それに、と続ける。
「彼女自身が永遠なんて信じてない。」

それはレンも同様だった。
人は変わるし、いつか終わる。

「信じていないものは誓えないですよね。」
呼吸とともにそのセリフを吐き出して、蓮は天を仰いだ。

「死んだことがないので、死んだ後のことは誓えないし、どうしたらいいんだろうって思って。」

社はそんなことを考えたことがなかった。
永遠とか、死んでもとかそこらじゅうで安売りされている。
まさか、自分の担当俳優がそんなことで困るなんて思っていなかったため深く考えることはなかったのだ。

しかし。
言われてみれば、死んでもとか永遠とか言う言葉は、そんな簡単ではない。
そもそも、元ラブミー部に対して安直に使えるセリフでもない気がする。

しかし年長者の意地もあり、社は考えた。
いい案は浮かばない。
「いっそのこと・・・誓えないとか言ったらどうだ?」

そのセリフはやけくそだった。

「そうしますか・・・。」
愛はすべてな社長にばれたら、きっと、減棒だと思いながらも答えた。
いそいそと紙に書き始める担当俳優に視線を送る。
無駄に長い文章のようだ。
カリカリとペンの音が続いている。
我慢できなくなり、覗き込むように回答を見た。

「永遠なんて誓えない。」
と正直に書いてある。

社長に絞られるだろうな、と覚悟して社は読み進めた。
「永遠は経験したことがない。
いつかは死が訪れるだろう。
だが、一日一日は誓える。永遠が一日の積み重ねというなら、彼女に毎日愛を誓う。
それを積み重ねていく。その覚悟はある。
それが永遠というのなら永遠というものだろう。」


いや、砂は吐きそうだけれども。
社は安堵した。

首はつながった。


だが、社は思う。
いくらブライダル紙とはいえこんな質問、普通の男にはつらい。
そして、顔色一つ変えずにこんな質問に答えていく蓮って、やっぱ思っていたよりも重たい男なのかもしれない。


もうすぐ取材が始まる時間だ。
腕時計を眺め、指定された時間にノックされるであろうドアをちらりと見やる。
かの担当俳優は、携帯を取り出してメールを見ながらにやける口もとを隠しもしない。
(ああ、彼女からってバレバレだな。)

アメリカにいたときも、彼女からのメールが遅いとそわそわしていたし。
隠そうとしていても、わかりやすすぎて泣けてきたこともあったっけ。
蓮の仕事のモチベーションは、よそから見ていてもわからないかもしれないが、付き合いが長いとよくわかってくる。
明らかに彼女次第で上下するのだ。

(ま、キョーコちゃん、がんばれー)

蓮の重量級の愛を一身にうける彼女に無責任なエールを送りながら、社は目の前の仕事に集中することにした。



                                       おわり。



※うん。落ちがない。