最近、こんな挨拶ばかりですが、お久しぶりです。
コメントをくださったり「いいね」を押してくださる皆様のおかげでなんとか挫折せずに書けています。

たいへんありがとうございます。(*^▽^*)


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「マリア?久し振りだね」
「トラおじさま!」

マリア王女は、自身の宮で不意に掛けられた声に満面の笑みを向けた。
そのまま駆け寄ろうとして、足を止める。
「エルトラ公爵様、お会いできて光栄ですわ。久しゅうございます。」
優雅に礼をする少女に、エルトラ公爵は眦を下げる。
「すっかりレディになられたな。見違えたぞ。」
「ふふふ。おじさま、今日はどうなされたの?」
「ああ、陛下に用があってきたんだが、せっかくだから、マリアにも会いたいと思ってね。」
「うれしいわ。」
はしゃぐ声を隠さず、マリアは彼に抱っこをせがんだ。

エルトラ公爵は、国王の腹違いの兄だった。母の身分が低いため王位継承権は外れたが、その穏やかな物腰で人望も厚い。
公爵の身分を与えられてからも、驕ることなく、二心ない人物とみなされていた。

「そういえば、コウキはどうしている?」
「・・・・知らないわ。」
マリアの表情が曇る。
「・・・相変わらずというわけだな。・・・”星の宮”から出てこないんだね?」
「・・・・・・・・・しらないわ・・・・・。」

「そういえば、姫にお土産があるよ。珍しいものだといったら、すぐに見たいんじゃないかな?」
急に変わった口調に、マリアは顔を上げた。
そこには、いたずらっぽいエルトラ公爵の顔があった。
「なに?おじさま、ぜひ拝見したいわ!」
だからマリアも、暗い気分を引きずるわけにはいかず、表情をゆるめた。
「じゃあ、行こうか。」
「はい!」
元気に答えて、マリアはエルトラの首につかまった。



宮廷の庭園の、花が咲き乱れる一角に作られた木立の迷路に隠れ、キョーコはようやく荒い息を整えた。
最初に王都に来た時に、王のスタイリストのおすすめでしつらえられたこのドレスは、とても美しい仕立てでお気に入りでもあったが、難点もあった。
スカートがまとわりついて走りにくいことこの上ない。
(よく逃げれた!自分!)

ぶつかった貴族に、不覚にも言い寄られた彼女は、何とかうまく躱そうとしたが、相手はかなりしつこかった。
騒ぎにしたくなくて、はじめにおとなしくしていたのが災いしたのかもしれない。
男は何処までも纏わりついてきた。
それでも必死に理性を総動員して我慢していたのだ。

業を煮やした男に、腕をつかまれ、無理矢理引きずられそうになるまでは。


腕を強くつかまれ、むりやりひっぱられて連れ去られそうになると彼女はついに怒りを爆発させた。
体術を使い男を投げ飛ばした後、全力疾走で逃げ、今に至る。
怪我をさせないようにちょっと配慮する余裕があの時の自分によくあったと彼女は自分を褒めた。

しかし、困ったことになった。
そっと隠れた場所から覗き込むと、遠くの回廊に衛兵が集っている。しかも、その中心で檄を飛ばしているのはあのしつこい男のようだ。
間違いなく見つかると面倒なことになる。


この庭園は広い。
人が一人隠れるくらいは造作ない。
とはいえ、城を知り尽くした衛兵ならば、女一人くらい見つけるのは簡単だろう。
キョーコは自分の広がったドレスのスカートを恨めしくにらむ。
こんなものを穿いていては隠れる場所も限定されてしまう。

見つかり、あまつさえ身元を特定されるような事態になると非常にマズイ。
騎士見習いの身分も危うい。
なにしろ貴族に手を上げたのだ。
身分の低い女が、腕をつかまれたくらいで貴族を投げ飛ばしたなど、いくら公平な王でも、その罪を見逃すことはできないだろう。
厳罰ではないにしても、何かしらの不名誉は被る。
自分だけならばまだいい。
けれど、隊にまで迷惑をかけてしまうかもしれない。

それだけは何としても避けたい。

(しばらく意識無くすくらい殴っときゃよかった!!)
いまさらだが、後悔する。
そうしていれば、逃げる時間か変装する時間くらいは確保できたのに、浅はかとしか言いようがない。

とにかく、一刻も早くこの場所から遠ざかることにしてキョーコは踵を返した。
この城の見取り図は初任務の時に叩き込んである。
こんな時にも役立つなんて、何事も無駄にはならないものだ。




キョーコはこっそりと庭園を抜け出し、城の外へ続く回廊にむかった。
その回廊であれば、人通りは多いし、知り合いに会えるかもしれない。
うまく、人波に紛れ込めればと、そう考えたのだ。

しかし、庭園の入り口で運悪く数人の衛兵に囲まれてしまう。
そのなかに顔見知りはいなかった。
どの顔もやや気の毒そうに目の前の女性を眺めている。
なんとなく事情は察しているのだろうが、貴族の命令には逆らえないし、不審者と言われれば捉えなければならない。そういうことだろう。
「・・・この女性か?」
「ドレスの色は同じだが。」
「凶暴な女ということだったが・・・。」
「こんなに華奢な女性がか?」

ひそひそと交わされる衛兵の言葉が漏れ聞こえてくる。
「とりあえず連れていくか・・・?」
「いや、しかし・・・。」
キョーコは囲まれながら、この衛兵たちの迷いに付け込めないか必死に頭を巡らせていた。
どうやら、キョーコが探している女だとは確証が得られないらしい。
ここで犯罪者になるわけにはいかない。


さて、嘘をつこう。


そうキョーコが覚悟を決めたときだ。
「待ちなさい。」
静かな男の声があたりに響いた。
声を張り上げなくても、あたりを従わせる雰囲気が漂う。
それは生まれつき、周囲を従わせることに慣れていると容易に察することができるものだった。

「・・・すまないが、その女性は私の知人だ。」
衛兵が一斉に恭順の姿勢を示し、こうべを垂れた。


彼女の肩に置かれた手はあくまでも優しい。

「軟禁生活は不便でね。・・・わかるだろう・・・。」
意味深に切られた言葉に、わずかにほほを染めた衛兵が最敬礼を返し、退出する。

それを見送り、最初に口を開いたのは男のほうだった。
「すまない。」
衛兵がいなくなった後、キョーコは開口一番に謝られ、目を見開いた。
慌てて振り向く。
「すこし誤解されたかもしれない。」

「いえ・・・そんな・・・ヒズリ公爵閣下。助けていただいてありがとうございます。」
助けてもらったのは事実だ。誤解というのが何なのかわからぬまま、キョーコは膝を深く曲げ、一礼する。

目を細めた男は、この女性がなぜ自分の名を知っているのか不審に思いながらも顔には出さず向き直った。
いまは、紋章付きのものは何も身に着けていないし5年前からはまったく宮廷に伺候していない。
まだ若そうな彼女が、5年前から宮廷に出ていたとも思えないし、今回は、ほぼ軟禁状態のため、社交の場に顔を出してもいない。
どこかで見かけ、誰かに尋ねたというのが最もあり得る説だが、それにしたってなぜ衛兵に追われていたのかも説明が難しい。
そういえば、衛兵の態度もどこか遠慮がちで、侵入してきた不審者を捉えに来たという感じでもなかった。

すこし湧いた興味のまま、ヒズリ公爵は訊ねることにした。
「・・・失礼だが、何処かで会ったかな・・・?」

頭を上げた彼女は、ごそごそと持っていた小物入れの中を探る。
公爵は続いて差し出されたものを凝視した。

それはハンカチ。
どこか見覚えのあるそれに、男は記憶の奥をさぐった。

これは、妻の手による刺繍だ。
それは間違いない。
だが、この女性の手にそれがあるのがなぜなのかがわからない。

記憶力が悪いほうではない男は、そのハンカチを渡した場面に思い至り、驚く。

「君は、あの時の騎士見習いか!」
そんなに驚かれる理由が理解できなくて、居心地悪くキョーコは身じろいだ。
「・・・そうですが・・・。」
「いや、すまない。イメージが違って・・・。」
口もとを抑え、戸惑う表情は、なぜかキョーコの警戒心を溶かした。

キョーコの見知った誰かに似ているような・・・そう思ったせいだろうか。


誰に似ているかは思い出せないのが歯がゆい。
「いえ。」
キョーコは、軽く首を振った。
「・・・衛兵と何があったのか聞いてもいいかな?」
「あ、ああ、そうですね!実は・・・。」
キョーコは先ほどの顛末を王女のお茶会などの点は省いて語った。

「・・・で、捕まっては不味いと思い、今に至るわけです。」
「そうなのか・・・。」
ヒズリ公爵は、彼女のほうをちらりと窺った。
本人にはどうやら自覚はないようだが、ドレスの上からでもわかるすらりとした肢体が目を引いたのだろうことは容易に想像できる。
美しさと、そこに漂う無垢さに、男が惹かれるのもわからないではない。
咲き誇る直前の、花のつぼみのようだ。

手折りたい、と思わせるような無防備さ。
その危うさが、艶めいたものを感じさせる。

急にこみあげた庇護欲に、もしかしたら娘がいたら、こんな気分なのか、とヒズリ公爵は空を仰いだ。
世の父親たちの気持ちがわかる。

「宮廷を歩くときは、誰か供の者をつけるといい。貴族の中にもいろいろな人間がいる。」
「・・・いえ、しかし、私は・・・・。」
手を上げ、否定的な言葉を返そうとしたのであろう少女に一瞥を投げかけ、黙らせてから公爵は言葉を継いだ。
「さっきの出来事を忘れたのか?いくら騎士見習いとは言っても、まだ若い女性であることには異論はないだろう?」
腕を組みながら、公爵はため息を吐く。
貴族の中には恥ずべきながら、身分の低い女性には何をしてもいいと思う輩も存在するのだ。
非常に不快なことに。

「年長者のいうことは、素直に聞いておくものだよ。」
思ったより説教臭くなったため、彼はさっさと話を切り上げることにした。


彼女を見送り、戻った自室の椅子に深く腰掛けながら、足を投げ出しヒズリ公爵は頬杖をついた。
「・・・あの子か・・・。」
国王から”彼”の直属の見習いだと聞いている。
それから、”彼”が少し変わったようだと聞いた。
まさか話ができるとは思ってもみなかった


もしかしたら、あの真っ直ぐな目をした少女に影響されたのだろうか。
この王都でまさか接点が持てるとは思わなかったが、よい収穫ではあった。

すべて片付いて、この局面を無事に乗り切れたら、もう少し交流を深めてみたい気もする。
いまはそれどころではないが。

「さて、わたしはわたしの仕事をするか・・・。」
軽く伸びをして、立ち上がる。
其の姿からは、先ほどまでのの柔らかい雰囲気は完全に消えていた。


キョーコはヒズリ公爵と別れた後、そのまま宿舎にもどる途中の小さな公園に来ていた。

なんとなくそうしたくなったのだ。
宿舎や、下宿先では、こんな風にひとりで物思いに耽ることはなかなかできない。
ここなら、大通りに面していて人通りはあるし、先ほどのようなことはないはずである。

前も思ったが、いくら人間には二面性があるとはいえ、あのかたが息子を殺したなどありえない気がした。
公園に設えられた木陰のベンチに腰掛けて、ぼんやりと、あたりを飛び回る昆虫や、囀る鳥の歌に耳を澄ませる。

なにか、心に引っかかっているのに、それが何かわからないもどかしさ。
宮廷の空気は明らかにざわついている。
キョーコにはわからない部分で、陰謀めいたなにかが蠢いている気がする。

何もできないことは分かっているが、かすかに兆す不安は確かにあった。

「ああ~っもう!」
勢いよく立ち上がり当てもなく公園を飛び出そうとした彼女は、段差で思わずバランスを崩した。
思わず捕まるものを探して伸ばした手に触れた何か。
それが、人だと認識したのは一瞬。
体の勢いは止められないまま倒れこみ、びくともしない誰かに抱き留められる。
瞬間漂ってきた男らしい香りには覚えがあった。

それは、自分の心拍数を跳ね上げるものに他ならない。

キョーコはその誰かを見上げた。
見開いた瞳には、よく見知った人の姿が映る。
「・・・れん・・・さま・・・?」
小さな声が喉から洩れた。

出来るだけ避けていたはずの男の腕の中で、キョーコは金縛りにあったかのように動けなくなる。

目が合う。

「あ・・・。」
彼の喉が小さく動く。

目がそらせないまま、キョーコから周囲の喧騒が遠ざかる。

レンが少し身じろぎをした。
キョーコは無意識に、彼のシャツを握っていた指に力を入れる。

強い腕が、彼女の背中を抱きよせた。

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やっと、出会わせられた感。
主役二人が絡まないと、話が全くすすみませんので、ちょっといろいろ端折りました。