10月31日 Lv.4(side/ren) | 妄想最終処分場

妄想最終処分場

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黒い瞳のコンタクトレンズを外し、赤い瞳のコンタクトを付け、犬歯にイミテーションの牙を装着する。

鏡の向こうから即席吸血鬼がこちらを見ている。


(瞳の色素が薄いから赤が映えるな・・・)


鏡の向こうの赤い瞳の自分に蓮は苦笑した。



今日は10月31日、ハロウィン。

イベント好きの社長から事務所内では仮装指令が出ている。

事務所に寄る予定はなかったのだが、優秀な敏腕マネージャーは仮装用の小道具を用意していた。

ご丁寧にも、ラブミー部は社長からの仕事で仮装してイベントの盛り上げ係をしているなんて情報までセットだ。


(社さん、しっかり仕組んでるくせに)


自分のマネージャーがことあるごとにキョーコの話題を口にし自分の反応を楽しんでいるのを蓮は知っている。

現に彼のおせっかいが無ければ、普通ならスケジュールの詰まった看板俳優と新人タレントが事務所でこんなにも顔を合わせる機会が多いはずがない。

それでもキョーコと接する機会を嬉しく思っている自分がいるので蓮は文句を言うどころか陰ではこっそり感謝すらしていた。



「お菓子をもらえなかった場合のイタズラ返しは各個人に任せるってなってたから、とりあえず当たり障りないように、ワサビ入りとかカラシ入りとかハズレお菓子を準備しといたから」

「何から何まですみません」

「だってそこいらの女性なら『どんなイタズラしてくれるんですか~?』とかいって喜んで絡んできそうだろ?こういうのならうまくかわせるかと思って」


敏腕マネージャーはイタズラ用のお菓子まで用意しており、吸血鬼スタイルで化粧室から出てきた蓮に個装のハズレお菓子が入ったバスケットを手渡した。

すると廊下の先から聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「…っもーーーー!!!何でこんな格好しなきゃいけないわけ!?」

「モー子さんっ、落ち着いてっ」


(相変わらず、元気だな)


怒気を含む声とそれを諌める声なのだが、どことなく微笑ましく感じる女子二人の声に蓮は少し気持ちが浮き上がるのを感じていた。


どうやら交差する廊下を歩いているらしく、しばらくすると廊下の先に二人の少女の姿を捕えることができた。


(・・・まったく、社長は何を考えているんだか)


目に飛び込んできた二人の姿は黒ずくめだが、露出度が高く遠目でも黒い衣装の端から白い肌が覗いているのが確認できる。

聞こえてきた会話と感情の色から、衣装は社長が用意しただろうことが容易に推測できる。


(あんな服を着せて、イタズラされたらどうするんだか)


「おい、なんだかすごいだなぁ・・・二人とも露出度高い・・・」

「あの様子だと好んで身に着けている感じじゃないですね」


二人の姿を捕えた社が蓮の肘をつついてくる。社も同じような印象を持ったらしい。


(セツのファッションでだいぶ免疫はできたけど、素の最上さんだからなぁ・・・)


キョーコの肌を見慣れたとはいえ、それはカインとセツカとして。

久しぶりに素のキョーコでは受け取る自分の感覚もずいぶん違う、と蓮は思わず苦笑した。

そのまま前方に歩をすすめると、黒猫キョーコが二人に気が付いたようで振り向いた。


(困ったな・・・ホントに不味いかも)


「敦賀さん、事務所にいらしてたんですねっ」


明るい笑顔のキョーコにジワリと胸の奥が温かくなる。

それと同時にむき出しの腹部や太ももに思わず目がいってしまう蓮は小さく息を吐くと努めて「普通」に振る舞った。


「やあ、こんばんは」

「あ、キョーコちゃん、琴南さん。二人ともかわいーねぇ!」


「二人は魔女と黒猫?・・・なんというか、大胆な衣装だね」


目の前に並んだラブミー部二人を蓮は思わず上から下までと見てしまった。

胸元と太ももを惜しげもなく晒した魔女スタイルの奏江と臍出しホットパンツの黒猫キョーコ。

キョーコの服装は何気にセツカのスタイルとよく似ている。


(セツなら黒猫より魔女スタイルの方を好みそうだ・・・)


二人を見てセツカの黒魔女姿を想像した蓮は、何を考えているんだとバツが悪く思わず緩んだ口元を手で隠した。


「「社長指定の衣装なので、避けようがありません・・・」」


ふと蓮はキョーコが自分から目をそらしたのに気が付く。

なんとなく・・・ホントになんとなくキョーコの仕草に面白くないという感情が芽生え、それと同時にいつものように困らせてこちらを向くよう仕向けたくなる。


「最上さん」


逸らした視線を捕えるように、キョーコの瞳を覗き込む。

少々意地悪な考えを持った蓮は自然と笑顔を作っていた。


(・・・なんでこの子は俺の感情に敏感なんだろう・・・)


にっこりとほほ笑んで見せたつもりなのに、目のあったキョーコは恐怖にひきつった顔をしていた。


(肝心のことは気が付かないくせに・・・)


気が付かれても困るのに、ついそんなことを思ってしまう。そう思ったら、余計に素の表情を引き出したい欲が出てくる。

その瞳にもっと自分を映し込みたい。


「・・・トリック・オア・トリート?」


至近距離まで近づいたキョーコの瞳に、一気に自分の欲が高まる。


(ちょっとは焦ったり、戸惑ったりしてくれてもいいのに)


本当は赤面したり恥ずかしそうに目をそらしたり、自分を異性として意識してしまった・・・というような、ほんのちょっとした反応が得られれば満足だった。

そうすれば、何をそんなに焦っているのかといつもの冗談にすり替えられるだけの余裕があったはずなのに。


「敦賀さん、はいっ!」


しかしキョーコは必至で逃げたい!助けて!と言わんばかりの表情で、しまいには目を硬く閉じ顔を背けて目の前にお菓子をつかんだ拳を突き出してきた。


(・・・ほんと、どうにかしてしまいたい)


悪戯心で仕掛けたはずが期待した反応を得られず、返って落ち込むようなキョーコの反応に蓮は不満だった。そしてさらに天然乙女のキョーコにショックを与えるべく意地悪な報復を思いついたのだ。


「残念、ハズレ」


(また、肌に触れたら・・・君はどうするんだろうね・・・)


差し出された拳をそっとおろし、左手でキョーコの頬を撫でてそのまま頭を包み込むように抱き寄せる。

フリーズしたキョーコが一瞬目に入ったがもう止めることができなかった。

手のひらに触れた肌が吸い付くような錯覚を受ける。左手にほんの少し力を入れれば、キョーコの白い首筋が露わになる。


薄く口を開き、吸血鬼が首筋に牙を立てるように蓮はキョーコの首筋に唇を寄せた。


(・・・まだ、されるがまま・・・か)


こんな状況なのにフリーズしたままのキョーコに蓮は小さな苛立ちを覚える。もう一声・・・と付けた牙を立て甘噛みしそっと舌を這わせる。


「!!!」


そこまでして、ようやくキョーコの体がピクリと反応した。


(さて、どんな反応をみせてくれる?)


次の瞬間接している肌が急激な熱を帯びるのを感じ、蓮はようやく期待した反応を得ることができ剣呑としていた気持ちに溜飲が降りる。

拘束していた腕を緩め、キョーコの首筋から唇をはなす。名残惜しさからちゅっとわざと音を立てて。


キョーコの顔をみると、これ以上ないくらい真っ赤に染まっており、蓮はようやく出た反応ににんまりと笑みがこぼれる。



「・・・ごちそうさま」





「い・・・い、いいいやぁぁぁぁぁ!!!!!」


(ちょっと調子に乗りすぎたかな?)


キョーコの絶叫が発せられるまでの数秒。キョーコの反応にいささか頭に血が上っていた蓮はここが事務所の廊下でそばにギャラリーがいることをやっと思い出していた。


社と奏江の視線が自分に突き刺さるのを感じるが、やってしまった以上変な反応を返すわけにもいかないのでまるまるギャラリーは無視しすることにした。

どうせこの二人は否定しても流しても、自分がキョーコにこだわっていることなどわかりきっているのだ。


「なななな、なんてことするんですか!!私、ちゃんとお菓子出したじゃないですかっ!!!」


「君こそ、そんなに叫ばなくてもいいじゃないか」


「だっ、だだだって、こ、こんなっ!敦賀さん、何を考えてるんですか!?お菓子を出したのにイタズラするなんてルール違反ですうぅぅ!!!セクハラよぉぉぉっ!!」


(確かにセクハラと言われても仕方ないけど、君の方こそその顔は反則だよ?)

涙目で上目使いに蓮に詰め寄るキョーコに別の意味で頭が痛くなる。

もっと泣かせてみたい、なんて子供のような欲求が生まれてしまう。


「最上さん、俺だって社長命令に従ってるだけだよ?」


キョーコいじりをぐっと我慢し、いつものように煙に巻いてしまおうと蓮はキョーコなら簡単にだまされるであろう言い訳を口にしてみる。


「吸血鬼の食べ物って乙女の生血でしょ?だからお菓子に血をもらっただけなのに・・・」


「じ、じゃあ!今日は誰相手にもそんな事してまわっているんですか!?やっぱり遊び人なんだわっ」


乙女呼ばわりしてみても、やはりそこはキョーコ以前に聞いたようなセリフがすぐに返ってきた。



「ちょっと、あんた落ち着きなさいよ」

「モー子さぁぁ~ん!!」


ヒートアップしたキョーコの口から「似非紳士」「遊び人」など仮にも先輩俳優に投げかけるには不適切な単語のオンパレードが始まったので、奏江がキョーコを落ち着かせようと声をかけた。


「君も失礼だね、誰にでもするわけじゃないよ?」


「は?」


(まあ、あれくらいの表現じゃニブイからスルーもするか)


「吸血鬼なんだから、清らかな乙女の血しか飲まないし。それとも君は違うの?」


蓮はわざと持って回った表現でキョーコに「清らかな乙女」すなわち「処女でしょ」と詰め寄った。

キョーコがどんな反応をするのか、本当に興味本位で。


「な、何をいってるんですか!私がそんな不純なことを働いていると思っているんですか!?失礼ですね!!」


(・・・やっぱりね)


「敦賀さんこそ、いくら社長命令だからって!そんな事道行く乙女にして回っていたら犯罪ですよ!?自分の立場を分かってますかっ!?」


キョーコの反応に苦笑しつつも、そろっと軌道修正をかけないと・・・と蓮は暴走した自分の行動を思い返していた。

目の前のキョーコは自分だから『首筋チューがお菓子』とは認識せず、乙女になら誰でもすると思っているのだ。キョーコだけに・・・となればギャラリーの反応も変わってきてしまう。


(しまったな。処女かどうかなんて見定めて同じことをするわけにもいかないし・・・この場だけでもやり過ごせればいいんだ)


蓮が思案していると、真っ赤な顔をしたキョーコの腕を引っ張る奏江が目に入る。

同じラブミー部だし、キョーコは絶対的な信頼を置いている人物だし、誤解をされることもまずないし・・・


「会う人みんなに仕掛けなきゃいけないんだったよね?」


社長の命令を思い返して、にっこりと笑みを作る。


「琴南さん、トリック・オア・トリート?」

(ごめんね、琴南さん)


奏江がキッと蓮をしばらく見据えいたが、おもむろにキョーコを目の前に突き出してきたため

蓮は驚いてわずかに目を見開いていた。


「・・・へ?モー子さん!?」

「敦賀さん、はいどーぞ!」


間抜けな声のキョーコの後ろの奏江は先ほどのキツイ目つきから、口角がニヤリと持ち上がり勝ち誇ったような微笑を浮かべていた。


「・・・お・菓・子!これならいいですよね?」

「ふえ?」


(・・・まいったな)

奏江の行動と表情に、自分の気持ちが奏江には丸わかりなのを見せつけられ蓮は『情けないな』と嗤うしかない。


「・・・じゃあ遠慮なく」

「っっ・・・モー子さぁぁん!!!ヒドイ、どうしてっ!!!」


せっかくだし・・・と、蓮は降って沸いた本日2度目のお菓子を堪能したのでありました。




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さてこれで4者4様のハロウィンイベント終了です!

蓮が最初にキョーコたちを見て苦笑した理由って・・・

ただのムッツリじゃん!!って自分でツッコミを入れましたよ。


呆れたわけでも、キョーコの露出度にごちそうさました訳でもなく、奏江の衣装をキョーコが着たら(しかもセツバージョンで)と想像してたって・・・・おい。