注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
あなたと始める物語は。18
〜 next stage ~
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《ダーリンは芸能人》二次創作
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(突然なにを言い出すのかと思ったら)
チーフさんからの電話はみんなが待機している所に来いというものだった。
でもまあ、雇い主の代理人だしな…と思い、撮影隊の方へ向かおうするとスタッフと思しき人が小走りでやってきた。
「姫榊さんですか?」
「はい」
「すみません、コッチお願いします」
速歩きで前を行くスタッフさん。
と同時に、人だかりの中からザワザワと声が聞こえてきた。
つい先ほどまで自分たちと同じ場所で見ていた同じ側のはずの人間がナゼ呼ばれるんだという疑問と不満の声が。
羨望と嫉妬の視線は居心地悪く、それでも仕方なく撮影隊の中に入っていく。
「悪いわね」
「いーえ。
で、私は一体何をすれば?」
「代役を」
「…………はい?」
「一人、インフルで来られなくなったのよ。
撮るのは後ろ姿だけ、しかもセピアカラーに編集。 それから一応セリフはあるけど声は録らないから」
「またまた無茶振りを。 さすがにムリですってば。
あっ、亮太くんに女装させれば」
「あの子のイメージが崩れるじゃない。 数秒後にはあそこにいる見物客からSNSに流されてるわよ」
「SNS? えっ、それって私危なくないですか?」
「……」
指摘されたことが都合悪いと知ってるからなのか、チーフさんはさり気なく横を向く。
情報発信ツールとしては便利なSNSだけど、写り込んだ風景や書き込んだ単語などから個人特定されることは多々ある。
SNSのそんな怖い面は知ってるだろうに、悪い意味での謎の一般人となる私が危ない目に遭う可能性は無視ってこと?
どれだけ自分たち本位なのよ…とは思ったけど、当たり前か。
彼らはお金を生み出す大切な大切な『子ども』だもんね。
と、そんな風にチーフさんと応酬しているところに亮太くんと京介くんがやってきた。
二人とも不安げな表情だ。
「あーちゃん、役者経験あるの?」
「あるわけないでしょ。 演技なんて幼稚園のおゆうぎ会が最初で最後よ」
「えー…」
「……それ以前に、この役を愛優香にやらせるの酷だよ」
「あー、うん…。 そーだね…」
二人は表情を曇らせてそう言う。
ん?
いや、ま、確かに?
演劇を学んだことのない一般人が出来るわけないんだけどさ。
何だかそういうのだけではなさそうで。
ただ、やはり何かの理由かあったとしても、ド素人がやっていいことじゃないと再度固辞した。
「本当に時間がないのよ」
「そうは言っても本当に出来るわけないじゃないですか」
「絶対に大丈夫だから」
「どこから来るんですか、その自信は」
「……実生活で婚約破棄されたことがある貴女だからこそ出来る役だから」
「!!!」
思わず、差し出されていた台本をひったくるようにして取って目を通す。
確かに、開かれていたページには『取り縋って泣く』だの『頬を平手打ち』だの書かれていて、その前後の流れから別れの場面を回顧したシーンだと分かる。
「これ…」
「この後、京介は別の仕事が入ってるの。 10分後にはココを離れなきゃいけないのよ」
と言うことは、一発勝負?
…ウソでしょ。
だけと別の俳優さんを待とうにも別の日に撮ろうにも、ドラマであるためにスケジュール的に完全に難しいらしい。
それにしても、婚約破棄のシーンを私に再現させて私が傷付かないとでも彼女は思っているのだろうか。
もっとも、取り縋って泣くようなことはしかなったし、況してやヒロユキたち相手に平手打ちなんてしなかったのだから、私とこの役の女性は違う質のようだけど。
「あーちゃん、断っていいよ」
「ムリしなくていいから」
気遣う様子で亮太くんたちがそう言う。
やりたくない。
本当にやりたくないのだけど。
「本当の本当にこのワンシーンだけなんですね?」
「愛優香!」
「あーちゃん!」
「確かにこの辺にいる一般人でこんな役出来るのは経験者の私くらいだもんね」
そう言って何ともないようなワザとらしい笑顔を彼らに向けた。
それから私の役どころとこのシーンの説明を受けた。
このシーンは京介くん演ずる主人公の過去の一場面で、主人公が彼女を守るために婚約を破棄することを決意、それを伝えた時に泣いて取り縋られ、突き放す言葉を掛けた途端に平手打ちされる、というものだ。
台本にセリフはあるものの、状況が状況なだけに完全にアドリブで構わないということになった。
「愛優香、本当に大丈夫? 今からでも」
「大丈夫。 その代わり、手加減できないからね?」
「……いいよ。
あの時は泣きたくても泣けなかったんでしょ? 今ここでぶちまけちゃえ」
「…!」
何てことを言うんだろう、この人は。
あの時、努めて平気なフリをしていたこと、彼には分かっていたのだろうか。
可愛げがないと言われようと、自分たちが仕出かしたことに責任を取ってもらうために粛々と制裁を加えることを考えていた中でも自問自答して。
それでも、縋り付くようなみっともないことはしたくなくて。
(そういえば、ちゃんと泣いたことなかったかも)
顔が見えないようにカメラに背を向けて立つ。
そうして撮影スタッフの合図とともに撮影が始まったのだった―――。
〜 to be continued 〜