先日、体操の取材で、とても目を引く選手がいた。
世代交代が進む体操競技、
若手が目立つ会場で、石野が注目したのは、水鳥寿思。
「安定感」の言葉で片付けるのは、何だか失礼な気がするほど
彼の演技は伸びやかだった。
アテネ五輪で団体金メダルを獲得した彼は、
2007年の世界選手権で個人総合3位を獲得するも、
左腕のケガが響き、北京五輪出場の座を逃す。
今年29歳を迎える彼に、引退の声もささやかれたが、
水鳥は見事に復活を遂げた。
あまりにリラックスしたように伸び伸びと演技をする彼に、
なんだか違和感を感じたほどだった。
ベテランの妙なのか。
経験を重ねたからこそ醸し出せる、いぶし銀のような美しさ。
ギラギラとしたハングリーさとは対角にある、
枯れたような落ち着き。
それが、いい意味で、しなやかな新しい強さを
生んだのかもしれない。
だとしたら、何がそうさせているのか――。
残念ながら、そのときは聞くことができなかったから、
今度、取材に行ったら、聞いてみたいと思う。
(裕)