結局、その場の話し合いだけでは収まらず、立ち話が疲れてきた

こともあり、店に行く事になりました。無理に笑顔を作って入店し、

お酒の準備をしている間に、ママが来ました。

 

「彼女、ずっと故郷に帰っていたの」

 

「知ってるよ。彼女体調を崩していたんだね」と極力穏やかに

話します。

「彼女は貴方の事、彼氏と思っているのよ。だから優しくしてあげて。

会いに来てあげて」とママは当然ともいえる営業トークです。

 

「だけど、故郷に帰っていたんじゃ、仕方がないでしょ?彼女は

接客もまだまだだし」と答えた辺りから、私は少し作戦の方針を

変えました。

 

「私はこれからもこの店にちょくちょく来るよ。友達でこの店が

好きな人がいっぱいいるしね。その時はこの子をちゃんと

指名するから」と言いました。実際に友人と遊んだ後、

この店で2次会というパターンは多いのです。ここで

ユエンユエンが戻ってきて向かいのソファーに座りました。

隣にはママがまだ座っていました。ママに

 

「だから、彼女に接客の仕方とか、お客さんに気に入って

もらえるようなやり方を教えてあげてよ」とお願いしました。

無論ママも「分かりました。彼女もこれからがんばれば、

人気が出ると思うのよ」と言って中国語で、ユエンユエンに

諭しました。

 

私の作戦とは、ユエンユエンに私と言う客が居なくても

それなりに稼げるようなテクニックを早く身に着けてもらい、

その時がきたら、もう私など不要になるだろうという作戦です。

それまで月3~4回はこの店に足を運んでも良いと思いました。

お客さんが来た時にも行けば良いですしね。

 

ユエンユエンも落ち着きを取り戻してきました。

 

「それじゃ、楽しんでいってくださいね」とママが席をはずしました。

ユエンユエンが「隣に座ってもいいですか?」と聞くので、

「勿論、早くおいで」と言って、一旦仲直りとなりました。

 

その後も二人で話しながら、客をキープして、売り上げを稼ぐ

方法を教えました。客の心理を考えればよいだけの事です

からね。

 

ママもあのように言ってくれたし、これからちゃんと仕事を

すれば、きっと上手くいくと説得しました。

 

「仕事とは、しんどいもので、努力を必要とするもので、

だからこそ、給料と言うものがある。私だって毎日仕事に

行って、しんどい仕事をこなしているんだよ。気持ちが

沈んだぐらいで休んでいたらダメじゃない?」

 

「私は月3~4回は来るから、それなら良いでしょ?」と

聞くと「うん」と答えました。この時は、これで何とか

収まったと思いました。

 

その後、歌を歌って、私なりに適当に楽しんでいる状態を

ちゃんと見せて、マイタンして店を出て家に帰ってきました。

しばらくすると、メールが来ました。

 

「やっぱり止めにしよう。こんな状態で貴方が店に来ても、

貴方は楽しくないでしょ?私は故郷に帰ります。」

 

確かに正直、行かなくても良いならそれに越した事はないの

ですが、ただで引き下がるとは思えないので、「そんな事

無いよ、仕事がんばりな」と返信したのですが、その後です。

なんともならないメールが来ました。

 

「貴方がさっき言ってくれた10,000元を私に頂戴。それで

故郷に帰ってもう貴方とは会わない」

 

勿論私は一言も10,000元なんて話をしていません。詭弁も

いいところです。さすがにこの変遷には腹が立ち「何言って

いるの?私はそんな事言っていない。お金は無いんだって」と

返信すると、「自分が言った事、もう忘れたの?それじゃ、

止めにしない。私は、貴方が日本に帰るまで毎日毎日付き

まとってやる。信じないのなら、試してごらん」と背筋が凍る

メールがやってきました。私が返信するまもなく、

さらに恐怖のメールが来たのです。

 

「私は今、車に乗って貴方の家に向かっている。すぐ」

 

一緒に住んでいる小芳は仕事でまだ帰ってきていませんで

したが、1時間後ぐらいに帰ってくる時間でした。

 

私の家には幸い玄関と部屋の2重扉に鍵があります。しかし

玄関は他の人が通るタイミングで一緒に行けば鍵がなくても

難なく通過できます。部屋の前で騒がれては最悪です。

 

焦った私は家を飛び出し、彼女が来るのを待ち構える事に

しました。バッティングだけは何が何でも阻止せねば

なりませんでした。

 

(続く)