新幹線と在来線で2時間。

早くなったなあ…と感動しながら、陽向は元いた街に戻ってきた。


月征の家に行く前に、寄り道をして、工場に立ち寄ってみる。

手放してしまったが、事業は引き継がれていて、今も稼働している。
働いているのは、陽向とは縁もゆかりもない人達だが、それでも父が必死に守ってきた場所が、
今もあるのは嬉しい。

 

ぐるりと工場の周囲をめぐって、戻ると、見慣れた人影があった。

「月征…」
「やっぱり、ここにいると思った」

陽向の姿を認めて、月征は勝ち誇ったように笑う。


「い、いいじゃん、別に」
「いいよ? 別に」
「じゃあ、わざわざ迎えに来るなよ」
「それも俺の自由だし」

持つよ、と月征は陽向が手土産に買った紙袋の柄を握った。


「なんか懐かしくてさ」
「俺もこっちは久しぶりに来たよ」
「そっか」


駅と月征の家からはルートが逸れるし、
月征自身も、この場所にはいろんな思い出が詰まり過ぎて、
1人では足を運びにくいのかもしれない。


(そーいえば、こいつにキスされたのって、ここだったしな…)

した方もされた方も、
今なら「黒歴史」って、笑い飛ばせるような過去だけれど。


「そうそう、せっかくだから…」
「ああ」
「お前の帰郷パーティー企画しておいた」
「はあ?」

月征のキャラと全くそぐってない単語が飛び出して、
陽向は口をあんぐり開けて驚いてしまう。

パーティーって、コンクール後の部内の打ち上げすら、
いやいや参加だった奴が、何言ってんの?


「多分そろそろ来る頃だと思う」

ブルーの文字盤の時計をチラ見して、月征が呟く。


来るって誰が?
愚問かな。そう思ったから、月征の家までの5分間、
無言のままで歩く。


そして月征の家に帰った瞬間、

「おかえりなさい、陽向先輩」

真っ直ぐに衒いなく、陽向に言う直と、
彼女の横で恥ずかしそうに口ごもる詩信の姿があった。

「おう、ただいま~って言うか、お邪魔します。
ご厄介になります」

家中に響くような大声で言うと、「陽向くん、変わらないわねえ」と
月征の母親もキッチンから出てきた。


リビングに入るとさらに驚いた。
桜花の吹部のメンバーが、かなりの数集結してる。
中には麻子の姿まであった。


「一人に声掛けたら、うようよ集まってきた」

月征の言葉に「俺らゴキブリかよ」そんな反論が飛んで、
リビングが笑いに包まれる。

まるで桜花の音楽室に戻ってきたみたいだ。
これはこれで楽しい。
けど…。

「俺、荷物置きに行きたい。月征俺の部屋何処?」
「二階の突き当り」

何度も来た事ある月征の家だ。それだけ言われれば、
階段の場所も間取りもわかってる。


「OK」

頷くと陽向はリビングを飛び出した。
荷物と詩信の手を取って。