大きなベッド、カラオケやらゲームやら、やたら設備の整ったテレビ周り。外からの光を一切通さないカーテン。普段、詩信が家族旅行で使うホテルとは、全く違う内装に、詩信は好奇心いっぱいにあちこち見回してる。陽向はそれどころじゃないって言うのに。
「思ったより広いんだね。テレビもおっきい。しかも4Kだよ、これ」
「…そ、そうだね」
女の方が、覚悟を決めたら、肚が座ってしまうものなのだろうか。まだ落ち着かない陽向に対して、詩信は小憎らしいくらいに平常運転だ。
そもそも、こういうとこに入ったはいいけど、こっからまず何をどうすればいいのか。
(…月征に聞いときゃよかった…?)
学生時代、頼りにしきっていた相棒がぽっと浮かんだが、すぐに思い直す。
いや、あいつが役に立つ回答を投げてくるとは思えない。自分の好きにしろよ、とか冷たく突き放してくるに決まってる。
(…俺と月征は違うし、しーちゃんと直ちゃんも、違うもんなあ)
抱えているものも、歩んできた道も違う。きっと、俺らには俺らのペース、やり方がきっとある。
そう気持ちが整理出来ると、陽向の心も落ち着いてきた。
「…しーちゃん」
テレビは何がやっているのかと、リモコンを弄ってた詩信の手をそっと掴む。詩信の手から、抜け落ちたリモコンは、ベッドを滑り、そのまま床に落ちていった。
「あ…」
「いーよ、あとで」
拾おうとするその動作を遮って、ぎゅっと腕の中に閉じ込めた。
やっとこの状況を理解したのか、陽向を意識したのか、腕の中の詩信はかちこちに固くなってる。
細くて華奢な肩。このまま押し倒していいのかと、また念押しで聞いてしまいそうだ。
(や…、でもいいんだよな。しーちゃん、いいって言ってくれたし)
自らに言い聞かせながら、なるべく体重を掛けないように、詩信の身体をベッドに沈め、シーツに散らばった髪をすくいあげる。
「しーちゃん、大好き」
そう囁きながら、キスをしようとした瞬間、詩信はあることを思い出した、というように、陽向の作り出した雰囲気をなたでぶったぎるような声と勢いで言う。
「ひなちゃん、待って!」
「え、え、何?」
この期に及んでお預け?
「あたし、シャワー入りたい」
(あ、シャワーか…)
「う、うん」
「覗かないでね、ひなちゃん」
「わかってるよ」
陽向が了承すると、詩信は脱兎のごとき勢いで、部屋の隅のシャワールームに閉じこもってしまう。
シャワーで良かったと安堵する一方で、また一から仕切り直しになってしまい、どう始めればいいのか、悶々と悩む陽向だった。