★武蔵野市国際交流協会(MIA)が毎年行っている「外国人のための専門家相談会」に行った。在日外国人が生活する上での悩み、トラブルの相談や日本の制度に関する質問等について、弁護士や行政書士、社会保険労務士、医師等専門家が無料で対応するイベント。この会のすごい所は各国相談者は「母国語」による相談がほぼ可能なのだ。なぜか言うと、この会ではMIAに登録している多数の市民ボランティア通訳が召集され、各国相談者の希望する言語に合った通訳の立ち会いのもとで相談が進められるからである。その数約20言語に及ぶ。かくしてボランティア通訳に登録していた僕は、昨年に続き中国語通訳ってことでお呼びがかかったってわけだ。

★会場設営が完了し、通訳達が集結。控え室ではそれぞれ言語ごとにまとまったテーブルで待機し、ご指名があったら出動する。それまではお茶でも飲みながら他の通訳の人達とダベっていればいい。中国語通訳のテーブルは日本語を話す中国人と中国語を話す日本人が半々ぐらいで、僕以外全員女性。女性の方が言語が堪能なのだなぁとつくづく感じる。最近中国各地で起こっている一連の騒ぎについては、5年以上中国に世話になった僕ですらさすがに怒り心頭であるが、それとこれとは別、と自然に割り切れるのは普段中国相手に商売しているからだろうか。ま、日本に憧れてやってきた人達にはせめて日本のいいイメージを持って帰って行ってほしいものだ。

★そうこうしているうちにご指名がかかる。去年も今年も開始早々全員出払ってしまうほど中国語通訳は特に忙しい。始めに対応したのは日本人の旦那と結婚したという中年の中国人女性。病を患った旦那の借金相続に関する相談で、対応する若い弁護士の回答は極めて明快。遺産相続者が彼女なら遺産も借金も引き継ぐので、そこをまず確認して下さいとの事。しかしこの女性、何だかいろいろ複雑な事情を抱えており、いろんな悩みが次から次へと続き、一連の事情を理解するのに時間がかかってしまった。

★次に対応したのは東京の大学で学ぶ中国人留学生。同じ在日中国人の彼氏と結婚したいけどビザ延長がいいのか別のビザ転換がいいのか、との事。外国人相談で最も多い滞在資格の話。研修ビザとは受け入れ企業と現地企業の契約から成り立ち、研修が終わり次第帰国するのが大原則のビザ。対応した行政書士の話では研修期間中に別のビザに転換するのはまず不可能とのことだった。日本人ならこう言われれば「ああ、そうですか、なら仕方無いですね」と諦める所だが、彼女はそれならこうすればどうか、ああすればどうかと手を代え品を代えどんどん質問する。事前に中国人仲間から情報を収集していたようでいろいろよく知っている。その点僕はこの方面不案内であるのと、彼女の口調が非常に早口なので意図を理解するのに大変苦労した。

★彼女は留学生なので日本語もある程度わかり、途中僕が訳しにくくなると日本語になる。おまけに行政書士の方も中国語がわかるようできちんと訳せているのか僕と彼女のやりとりをじっと聞いているので、その間に立つ自分はプレッシャーに押しつぶされそうになりながらの通訳作業だった。どうせだったら通訳無しで直接やってくれ~!!、と叫びたかったが、相談者が万一専門用語を理解できない場合等を考慮し、安心させるためだけでも通訳の同席は必要との事でいかなる条件下でも立ち会わなければならない。結局相談は2時間(原則は一人30分)近くに及んだが、これだけ時間を要したのは僕の理解不足の面が明らかに大きく、少しへこむ。

★今回相談に来た外国人は29名。例年は中国人が一番多いのだが、今年は意外にも彼等を抜いてミャンマー人が最多となった。ビルマ語通訳は二人しかおらず英語通訳も多数借り出されたらしい。逆に毎年多かったはずの韓国人、フィリピン人は今回ゼロ。高田馬場には大きなミャンマー人コミュニティがあり、多くのミャンマー人がオーバーステイである現状が深刻であること、そして在日ミャンマー人のための雑誌「エラワジ・ジャーナル」にこの会の広告が掲載されたことに影響しているようだ。中には「母国の軍事政権を日本で訴えたいのだがどう手続すればいいのか」という相談もあったとか。

★今回は二人の相談者の対応をしたが、日本語もある程度理解している人達だった。専門家との会話が途中で日本語になったりするこのタイプというのはどこまで日本語を理解しているのかがよくわからず、時には直接相談できるのではないかと感じることもあり、通訳として一番やりにくい。いっそのこと外国人の相談者を日本語のできる人、できない人に分けてそれぞれ別々の日に相談会を行ってはどうかと思った。日本語のできる外国人の相談会にも無論いざという時の通訳は必要かと思うが、今回みたいに全ボランティアを総動員することもあるまい。

★他の通訳の方はさすがに場をこなしていると言うか、随分慣れているようで規定時間の30分以内でキチンと仕事を済ませ、後は控え室でおしゃべりに花を咲かせている様子だった。中国語を話す日本人には「通訳マニア」のような感じの方が多く、チョット難しい中国語の単語を混ぜた会話が飛び交い、ややついていけなかった。う~ん、こうした相談会という機会は確かに自分の語学的ブラシアップにはなるし、外国人にわずかながらでもお役に立てるという意味では意義深いものではあるが、今後も末永くお付き合いするには雰囲気的に何か壁のようなものを感じ、来年もやろうかなぁ、どうしようかなぁ。。と考えながらの帰宅となったのであった。