(海外旅が夢のまた夢になりつつあるこの頃。書き溜めていた旅行記を再開するチャンスと捉え、過去に旅した国々に思いを馳せる時間もまたいいものです。今回からは2012年のトルコ・北キプロス編を再スタートします)

 

【前回までのあらすじ】

イスタンブールから夜行バスでパムッカレ、そして再度夜行バスでやって来たカッパドキア。自転車を借りて散策に出発。

 

真っ白な砂に覆われ、自然の塔が立ち並ぶローズバレー。陽が沈む頃には一帯がピンク色となり、塔がバラの花に見えることからそう名付けられたらしい。一人探検隊気分でしばらく歩き回った後で自転車に跨ると、何もせずとも風を切るようなスピードで坂を降りて行く。行き着く所まで行って辿り着いたチャウシン地区。

ここには洞窟があり、中世キリスト教の壁画が残っており、人で賑わっていた市内の屋外博物館の洞窟よりものんびり落ち着いて観賞できる。司祭や信者達が整列しているその壁画、服の配色も鮮明だ。トルコによるイスラム化に抵抗するかのようにビザンチンの流れを汲むキリスト教徒達が石灰岩の洞窟の多いこの一帯に隠れ住んだため、このような史跡が今も残っている。

更に自転車で駆け降りると、次にやって来たのはパシャパー地区。この地区で有名な奇岩にはしばし圧倒された。ヒョロっとした何本かの柱の先端だけ茶色いボールや三角錐の岩が帽子のように乗っかっており、何となく榎茸がシメジを思わせる。

一面石灰岩であったこの地に雨が降り、岩石のある場所以外が長い年月の侵食で削られた結果、岩石の帽子をかぶった石灰岩の柱ができていったということらしい。帽子部分は柱にきれいに乗っかっているが、くっついているわけではなさそう。地震等の衝撃で落っこちて来ないのだろうか。だが不思議とこれら柱が倒れている姿は見かけないのだ。

さてギョレメ市内に戻ろうか、と思った時、一瞬空を仰ぐように街のある方向を見上げ、しばらく立ち尽くした。市内からここまで一体どれだけ下って来たんだろう。カッパドキアは起伏が激し過ぎて自転車は役に立たないと誰かが言っていた。かと言ってバイクは運転できないので自転車しか選択肢は無かったのだが、まさかここまで激しいとは。自然と歴史の神秘を少しだけ目の当たりにした後はひたすら自転車を漕いだり、押したり。目は悠久の奇岩と共に、足は現在のアスファルトと共に長い時間をかけながら市内に戻るのだった。

 

今晩の宿泊はカッパドキアらしく洞窟ホテルだ。外観は石灰岩の山を削ったような出で立ちをしていた。内部の壁も石灰石を削った洞窟部屋のような雰囲気は一応あったのだが、窓が無く狭い安宿の部屋に案内された時のようなガッカリ感が先行してしまったのは旅のし過ぎによる弊害か。とりあえず地味に激しい運動で腹が減ったので、夕食に繰り出した。

ちょうど今、トルコ国内のサッカーリーグが大詰めの時期らしく街中がいやに騒がしい。フェネルバフチェとベシクタシュという二つのチームが今夜ブロック決勝戦を争うということで、表通りのレストランには大きなモニターが設置され、地元客も外国人もそれを囲んで大盛り上がりだ。トルコのサッカーと言えば、かつてワールドカップで日本とも当たっているので、バシトルクとか、イルハンとか、ハサンとか、ハカンシュキュルとか何人か選手の名を覚えている程度だが、気分的には静かにゆっくり食べたかったので、モニターの置いていない店を探した。やがて見つけたその店にはマントゥという料理があったので注文してみると、一センチぐらいの小さな餃子と言うか、ワンタンのような料理だった。中国にもマントウ(饅頭)という中身が何も無い饅頭のような食べ物があるのできっとシルクロードで伝わったんだと思うが、様相は大分変わっている。そしてこのマントゥ、甘くないヨーグルトの中に盛られ、上にはトマトソースがかけられている。一口食べてみると、この細かいマントゥの中にはしっかり肉が入っており、構造的には餃子寄りだ。最初はヨーグルトとの相性を心配したが、サワークリームのようなものと思えばあまり違和感無く、ぺろりと平らげてしまった。日本の知人からイスタンブールのレストランをいくつか教えてもらっており、その中にマントゥ専門店もあったので、最終日にぜひ行ってみるとしよう。

 

食後、街をふらふら散歩しているとネットカフェを見つけた。日本の情報が恋しくなった僕はしばしここで休憩。するといやにエキゾチックな笛の音色が店内に響いてきた。思わず視線をパソコン画面から店内に向けると、二人の男が交互に縦笛を吹いていた。うち一人はこの店の店主だったので、一体何事かと聞いてみた。どうやらこの店主がネイというトルコの縦笛をもう一人のインド人男性に教えているのだとか。そして習っているインド人男性はバンスリという横笛の奏者らしい。彼等が演奏する様子を撮らせてくれと頼んだら、店主はおどけて言った。

「いいけど、先生はオレなんだから、それらしく撮ってくれよ!」

楽しそうなレッスンはやがて終わり、店主と少し話していると、彼は英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、そして日本語ができるんだと得意気に言った。へぇ〜、日本語もできるなんてすごいね!僕が純粋にそう褒めると、彼の口から突然日本語が出てきた。

「アナタ、スケベナラ、コンヤ11ジ、コノミセ、クル。イイオンナ、イッパイヨ!」

あはは、お上手ですね。では、また〜。僕はそう言ってさっさとおいとました。ネットカフェのオーナーで、伝統楽器の師匠で、マルチリンガルのポン引き。深入りしたくないけど面白い男だった。

さて、明日は夜明け前に起きてあるツアーに参加する。二日間夜行バスに揺られた僕にとって久々のベッドだ。早めに休むとしよう。


大分時間を経てしまったので、①~④までのアーカイブス。

プロローグ:トルコ・北キプロスへ行ってきます

 

<font face="MS Pゴシック"><font style="TEXT-DECORATION: none" color="#000000">②イスタンブール散歩 その2</font></font>

 

<font face="MS Pゴシック"><font style="TEXT-DECORATION: none" color="#000000">③夜行バスで駆け足パムッカレ</font></font>