Ling Muのアジア旅コレクションを展示する「Ling Museum」。旅で訪れた順番にアジア・中東から一か国ずつ、その国のポップスのCDとカセットテープの数々を展示します。

 

★第三十六回「北朝鮮」

 訪問時期:2010年9月

 訪問地:ピョンヤン(平壌)、ケソン(開城)、サリウォン(沙里院)、ナムポ(南浦)

 

 

左上:ポチョンボ「Huipalam(口笛)/韓国版」…北朝鮮初のラブソングと呼ばれた「口笛」のアルバムは海外にもリリース。韓国でも有名となり、これは恐らく正規ではないが韓国版。なのでジャケットには本国ではタブーな表現「北韓歌謡」と書かれている。日本版のラインナップと比べると政治色のある曲は外され、アリランとか民族共通の歌に置き換えられている。

左下:ワンジェサン「Dance Music (2)」…ポチョンボと共に90年代を牽引した二大ポップスグループの一つ。ワンジェサンのアルバムは歌よりもインストロメンタルの方が多い。

右上:キム・スンラ (金勝洛)「Eonjena Gaseumsok e(いつも心に)」…劇団四季の俳優としても有名。民謡で鍛えた声量が映える。全曲朝鮮語でポップスと民謡が半々だが、タイトル曲の "いつも心に"とか好きですね。

右下:リ・ヨンス(李栄守)「Somang(希望)」…実は在日向けのある雑誌を見て、懸賞に応募したら当たった貴重品。本国でもよくコンサートをしているらしい金剛山歌劇団所属の歌手。名曲 "イムジン河 (リムジン河)"も圧巻。

 

 

左上:ユン・ハンシン(尹漢信)「Three Homes」…日本語メインでサビの部分に朝鮮語を入れた在日ポップスという面白い試み。"星を追いかけて"はジーンときます。

左下:シポ「シポという小さな言葉」…ハーモニーが素敵な女性デュオによるミニアルバム。"ナエ チョゴリ"は考えさせられる歌詞、そして美しいラストのハイトーンな美声。"口笛"をジャズ風にアレンジしてるのもいい感じ。

右上:Sala13「Sala13 Best」…朝、韓、日の混成パンクバンド。「サラ・トレイズ」と読む。" So I'll let you go with a smile" と"チング"が特にしびれるし、全ていい曲。

右下:ワンジェサン「Wangjaesan Light Music Band 8」…出国時、平壌空港の免税店で購入。1ユーロを払い、最後の最後に初めてガイド無しで一人で買い物した記念品。インストロメンタル中心だが、冒頭曲クライマックスで繰り広げられる高速バイオリン演奏は何度でも聴きたくなるほど天才的。

 

 

左上:ポチョンボ「Huipalam(口笛)/日本版」…高校時代、"口笛"を聴きたくて総連系列の朝鮮レコード社に何度も入荷確認の電話をして入手した日本版(と言っても全曲朝鮮語だが)。

左下:ポチョンボ「Shine, Jong Il Peak」…中国留学時代、北朝鮮の留学生から頂いたポチョンボの20番目のアルバム「輝け正日峰」。独特のシンセサイザー演奏とソプラノな歌声の典型的なポチョンボ曲だ。

右上:ポチョンボ「Film Music 2」…こちらも同じく頂いた22番目のアルバム。映画音楽特集らしい。

右下:ポチョンボ「Lee Jong O Chakgukjib 1」…ある作曲家や作詞家の作品を集めたアルバムはありがち。"私の国が一番いい"等、鼓舞させるような曲が多くてなかなか。

 

(Ling Muコメント)

・北朝鮮本国のポップスはプロデューサーが国のトップであるだけに、曲こそ沢山あれ、やはりどうしても均一的傾向になりがちなので、以前インドポップスの紹介の中に在英インド人アーティストを含めたのと同様、海外在住の朝鮮系コミュニティ(つまり在日同胞)のミュージックシーンにおけるアーティストの作品も一緒に紹介することで内容に広がりを持たせたいと思います。他意はありません。

 

・金正日氏がナンバー2 として頭角を現し始めた頃、当時音楽と言えば革命歌しか無かった所に電子楽器で演奏するポップスグループバンドがプロデュースされた。ポチョンボ(普天堡)電子楽団とワンジェサン(旺戴山)軽音楽団がツートップとして同国のミュージックシーンをほぼ独占。アルバム数は三桁に及び、映画音楽特集とか、ある作曲家特集等で一つのアルバムが作られる。ポチョンボのメンバーはキム・グアンスク、チョン・ヘヨン、リ・ギョンスク、チョー・グムファ、リ・ブニ(後に追加・交代あり)の5人の女性ボーカルで、曲ごとにメンバーの一人が歌い、残りのボーカルはラスト部分のコーラスで加わるのが一般的。ボーカルの他に演奏をする楽団員も合わせてフルメンバーとなっており、同国のポップスグループはほぼこの形態である。

 

・上記二大グループはポップスとは言っても多くは政治色の強いプロパガンダ的な内容であるが、80年代後半、ポチョンボの"フィパラム(口笛)"という曲が現地で大ヒットしていることがニュースになった。同国初の政治色の無いラブソングと言われたためである。既にアジアポップスのカセットをコレクションし始めていた高校時代、これはぜひとも聴きたいと朝鮮総連傘下の朝鮮レコード社に電話。普通の日本人がいきなり朝鮮ポップスのカセットが欲しいと連絡したためか最初は警戒されたが、何度か電話していくうちにもうすぐカセットを入荷する、という返事を頂き、半年ぐらいして遂に購入できた。更に数年後、留学先の北京で同国の留学生に出会った時、これらの曲を話題にしたら結構仲良くなれた。

 

・金正恩政権転換期、楽団系ポップスグループもまたウナス(銀河水)やモランボン(牡丹峰)に代替わりを果たす。韓流を意識しているのかルックスやダンスにも少しこだわりを見せているようだが、CDが出てないのが残念。ウナスは現地でDVDを買ったが、友人に貸して失くされた(泣)。

 

・在日コミュニティ向けのポップスも意外とあるようで興味深い。総連系の金剛山歌劇団の流れを汲む歌手の曲はより本国に近い雰囲気があり、そうでもないアーティストはJ-Popやロック寄りなのでバラエティも豊富。コミュニティのイベントの場を中心に出演するのだと思うが、ここ最近の情勢もあってなかなかイベントを開きにくいのか、ライブで聴く場面にはなかなか出会えない。すべての国に言えることだが、政治と文化・芸能は分けて考えたいと切に思う。

 

次回はアゼルバイジャンを訪ねます。