翌日の土曜日。
私は18時に本業の仕事を終えた。0時出勤であるから23時に家を出れば、23時半ぐらいにJ店に着くと想定し、それまでの暫くの間少しは寝られるかなと思い、床に付こうとした。仮に早く十三に着いたとしても、車を綺麗にしておけば良いかと考えていた。
うつらうつらしかかった頃、けたたましい着信音が鳴る。日村からであった。
「迎えは出来る?」
と聞いてきた。J店のキャバクラは「送り」の他に「迎え」もやるそうで、出勤前のキャバ嬢の自宅までドライバーが赴き、店まで送るということをしているらしい。
「本業の方が朝6時から働いていますから、寝ていないので運転は危ないです。」
と私は正直に言った。
「迎えのドライバーがいてないのでお願いしますよ。」
と日村。そして
「前半だけでよいですので。」
と頼み込まれる。私は初出勤日ゆえ、好印象を与えようと思い
「では行きますので24時には帰らせて下さい。」
と言った。
「わかりました。店に来ていたら間に合わなくなりますので、もう少ししたらマネージャーの方から連絡をさせます。」
と言い放ち、早々と切られた。
30分後、マネージャーからの電話が鳴る。
挨拶も無しに
「今から住所言いますのでメモれますか~?」
と聞いてくる。
「今日初めてですので、仕事がよくわからないのですが。」
と私は答えた。
「初めてというのは聞いています。店に着いたら説明します。今から住所言います~」
と言って住所を言い出した。必死に私はメモを取る。
「20:45にマミを迎えに行って、21:00にメェを迎えに行って下さい。マミの家に着いたら、こちら電話して下さい。店に電話貰ったところから、タイムカードのスタートになります。」
マミの家は晃生ショー近くのコリアンタウン。
「おぉ、マジかよ。1時間近くかかるではないか。」
と私は思った。案の定渋滞にも巻き込まれ、辿り着くには1時間以上を要した。20分前ぐらいに着いたのではあるが、車を停める場所がない。
マミの家は入り組んだ平屋が密集しており、道が狭く、停めるに良い場所ないかと何周も家の近くを探していたら、近所の住人が何人も睨んでくるものだから、少し離れた大きな道路沿いに停めておいた。マミの家の傍でしばらく待機。母親と思しき人が家の前でネコにエサ上げていた。5分前に店に電話を鳴らす。出ない。何回掛けても出ない。約束時刻の20:45を過ぎても出ない。もうアホらしくなってきたので帰ろうかと思っていた瞬間、マネージャーから電話が掛かってくる。
「マミに電話しておきましたので、もうすぐ降りてくると思います。」
そう言って、すぐに電話を切られた(笑)
暫く待つ。出てこない。凄いな(笑)5分ぐらいして気だるそうにやっと家から出てきた。マミは30年若くした久本雅美似。スレンダーというよりもガリガリに近い。マミというよりもマチャミだ。家の前で立っていた私を、無視してトコトコと歩き出す(笑)
「おはようございます。ドライバーの○○です。」
一応ストリップのように、いつ会っても「おはよう」と私は言ってみた(笑)何もマニュアルは教えてもらっていない。
「車は?」
とマチャミは高飛車に言う。たまらなくいい。挨拶しない、この完全に見下した感じが。長く味わったことの無い。まさに底辺の仕事をしているというのを感じた。本業の方は接客マニュアルが厳しくあり、何人も挨拶出来ていなくてバイトを辞めさていたはずなんですけど(笑)
「狭いので広いところに停めております。」
私も下手に出る。
「店の方に先に言っといてよ。」
とマチャミはなんか怒っていた。車まで案内していく。すると
「離れて歩いてよ。先行って!!」
と言われた。脳にドクドクと血液が流れていくのを覚えた。
なんとか車に着き
「それでは向かいます。」
と私は言う。当然のように無視。車内で一切の会話などない。こちらとしてもマチャミと話したくもなかったのであるが(笑)
出たのは21:00。メェの自宅には時間通りには間に合わない。
「メェさんのところ向かってるんだよね?」
とマチャミ。
「そうですよ。」
と私。
「道が違うねんけど。」
「ナビだとあと5分程で着くはずなんですが。」
敬語知らないのかと思わせる会話を交わす。こんな女、フリーで付いたら悲惨だなと思わせるには十分であった(笑)
5分後、メェのマンションの前に着いた。関西ニューアート近くのマンション。到着したことを私はマネージャーに連絡入れるがこれまた出ない。数回かけても出ない。マチャミと暫く無言のまま、車内で待機していると、マネージャーから電話が鳴った。
「今、メェに連絡入れましたので、降りて来ると思います。」
数分たち降りて来た。メェは秋野暢子似のショート。何も言わずドアを開け、私の車に乗って来た。
「おはようございます。今から店に向かいます。」
というもメェは無言。時間通り来ないのと無言なのは共通している。マチャミとメェは、前日来た客の話をしているも私には関係なかった。
「ドライバーとの車内の会話は一切禁止」というのはよく守られていた(笑)
店に着き、マチャミとメェ2人を降ろす。私は駅近に路駐し急いで店に向かう。J店に着くや日村がいた。挨拶を交わし、
「次、浪速区まで行って。ミキって子。住所言うからメモれる?」
「初日で仕事の説明をするという話だったと思うのですが?」
「時間がないんです。まず向かって下さい。」
私は言われるがままにメモを取った。
20分後到着。10分ぐらいしたら来た。私服センスも良く、カワイイ。そして初めて挨拶してくれた(笑)しかし当然、会話は無い。その点は良く教育されていた。車内にはLINEの着信音だけが響き渡った。ミキだけはこの日一番愛想が良かった、挨拶しただけなんだけど(笑)
J店に到着。車を置き、日村のところへ。
「しばらく車内で待機しといて~」
「仕事の説明はないのでしょうか?」
「今忙しいから。」
と言われるがまま、私は車内で待機。30分程した頃、電話が鳴る。
「今、どこ?」
「店の近くにいます。」
「じゃあ、店来て。」
とりあえず、急いで店に行く。店の前で5分程待機。すると日村が出て来て
「この2人、送って。今から住所言います。」
と言い、私はメモを取った。
23時も過ぎ、終電はあるのに何故送るのかと思ったが、家が駅から遠いのかなとも思った。
「急いで下さい。阪神高速使って下さい。」
「わかりました。」
30分後、指定された場所付近まで着いた。私はどうして2人を同じ場所に送るのかわからなかった。
「道を聞く以外会話を禁止。」
のというルールがあったから、
「このあたりですか?」
と私は聞いた。
「わからない。」
と2人揃って言う。
「家の近くやのにわからないのですか?」
と私は聞いた。
「あんまり来たことがないから。」
と言う。私は友人の家にでも泊めてもらっているのかと思って付近を走ると、同名の店があった。つまり店舗間のキャバ嬢の移動であった(笑)そういう風に説明すれば、わかりやすいのにこれぐらいも教えてもらえないようであった。
そこから待機、移動、待機、移動が何回も続き往復した。梅田店、京橋店、心斎橋店と深夜ひたすら走り回った。
全てフィクションです。