酒乱の私の親父の暴君ぶりが、幼少の頃からの私の記憶にこびり付いている。「酒の力が」だの「酔っているから」だの、その言い訳は数知れず、親父の悪行は目を覆いたくなるほどであった。身内の恥を事細かに晒すつもりはないものの、
「父のようになりたい」
とは、今に至るまで思ったことは一度としてない。学生時代の、体育会の変なノリによる、急性アル中で倒れた友人もかつて2人見ており、酔客に対し人並み以上に私は嫌悪を抱く。
4st開始時、6人だったか、私の後方に外人客は座った。ビール片手にトップから始まるそれぞれのステージを楽しんでいた。彼らは一様に煩かったものの、日本の一見の酔っ払い客集団同様、少々の騒がしさにこれくらいに目くじら立てるのもおかしな話であると思っていた。というよりむしろ、出来れば関わりたくないというのが私の本音であったか。酒の力も後押しし、騒ぎたくなるのも異国の地ということもあり、まぁわからぬものではない。ましてやストリップだ。
そして4番目の鮎原かおりさんの花電車が始まるや、日本で初めて垣間見るそのオメ芸、いや秘芸に拍手喝采、大いに喜んでいた。タバコ飛ばしでは、かおりさんは彼ら方へ向けて飛ばし、オロC空けでは、そのリーダー格と思しき人物を指名していた。客の扱いも心得ていたものだ。
「キャップ、オープン、マウス、パクッ。OK?」
となんともわかりやすい英語でリーダーに説明する。用意されたオロナミンCは2本。1本目はカブリに座っていた日本人の若者が見本を見せた。
いつものように
「シェイクー」
と振りながら、その若者は一滴も溢れ返すことなく、キャップが開くや口でキャッチして成功していた。その次は待っていましたとばかりにリーダーの番である。これでもかというぐらい、冷えていない炭酸のオロCをかおりさんは振る。
「スリー、ツー、ワン」
キャップが開くや、吹き返すリーダー。それに大受ける5人の外人。
「これぞ客を乗せない、日本のストリップ。日本の花電車。エロ芸は万国共通だな」
そう思わせるに十分で、そうだ、これがリアルな花電車の反応だ。私もヨーコさんの花電車を観た時は、仲間とバカ騒ぎしたものだと、むしろ微笑ましくかつての自分を思い返した。
“This is Japanese Strip”
その6人組は、かおりさんの花電車に一様に満足した様子で、すぐに帰って行ったのだから、彼らにも日本の良い土産話ができたにちがいなかった。
一息つき、これでゆっくりと観られると思うや、またしても外人客が入って来た。しかもスパニッシュ系の外人客が、あろうことか私の左隣に4人座ったものだから困った。
当然のように騒がしい。しかも先ほどにも増してなかなかの騒ぎっぷりであった。
どう見ても私よりも大きく、そして筋肉質な男達に、しかも酒が入っている連中に観劇マナーを諭すなど、好んでする者はいなかろう。日本人の細い若者集団なら、さして怖がることはないものの、まして日本語通じぬ外人、リピーターになる筈もない。常連達が訝しげに接することを拒む中、これが私の与えられた使命かのように思えた。そうだ私は、ストリップを知らぬ者に広めないといけない筈なのであった。
「ビークワイエット。」
郷に入ては郷に従えで、やはり場内のルールは守らせないといけない。私が真っ先に言おうとした英語で、まず浮かんだのがこの言葉であった。こう言おうと思うも、これが一瞬命令文であるように私は思い出し、この言葉を発すると、火に油を注ぐことにならぬか心配になり、思い直した。そして口元に人差し指を立て、Mrビーン似の一番煩かったリーダー格にジェスチャーした。するとビーンは
「ソーリー、OK」
と言ってくれ、わかってくれているようでもあった。しかしすぐに煩くなってくるのは、その国民性か(笑)その度に私は、ビーンの口元に、私の人差し指を当て
「シー」
とジェスチャーをし、静かに観るよう促した。
「オォ、マイフレンド」
とわかりやすい、明るい反応だ。陰気な日本人客が多い中、外人客の方が話せばわかるようにも思えた。
あいらさんの演目が終えた頃、何やら1000円札を持ち、私に問いかける。どうやら、あいらさんにチップを渡したいというジェスチャーであることがわかった。
「あなた達にもあいらちゃんのステージの良さがわかるのか」
と私も嬉しくなり
「OK。ピクチャータイム、フィニッシュド、オープンショースタート、ダンサー、1000円、プレゼント」
と、大きな身振り手振りでビーンに説明をし、なんとかわかってもらえているようであった。大学2年まで、およそ英語を教育されてきたとは思えない、なんとも恥ずかしい私の英語パフォーマンスの程度を露見したが、しかし多くの日本人がこのレベルだ。多少の受験英語は読めると強がっておこうか(笑)
「ビーン、俺が手本を見せるから、後に続いてくれ」
ととっさに私も英語に出来ないから、日本語でそう言いながら、
「オープンショーで客全員に回ってくるから、俺の後に続け」
と動きで示した。デジタイムの間、ビーンとずっと話した。一週間仕事で横浜にいるのだということがなんとなくわかり、日本語は
「スコシダケ。ア、リトル」
だそうだ。
「ナンカイモクルノ?」
と聞いてくるものだから
「去年80回ぐらい行ったよ」
という英語がパッと思いつかず
「ラストイヤー、ア、リトル」
と言っておいた。
あいらさんのピクチャータイムが終わり、オープンショーが始まった。こちらにやってきたあいらちゃんに、私は震える手で、彼女のパンストに1000円札を挟む。続くビーンも、挟もうとするがモタモタしていた。
「ビーン、ミュージック、フィニッシュド。ハリー」
すると曲が終わった。場内が沸いたが、もう一回オープン曲を流してくれるアシストもあり、良い空気が場内に漂った。投光さんも良い演出もするものだ。見直した。
暗転中ビーンに耳元で
「ビーン、トゥデイ、ラストダンサー」
と私は言った。
「OK」
トリの虹歩さんのステージが始まる。一曲目まではさっきまでと同様、口笛やらで異国の乗りを思わせるような盛り上げであったが、いつしか4人組も見入っていった。
ステージが終わるや、一応に満足したようで、先ほどまであれだけ騒がしく、直に私に話しかけてきていたビーンが、黙り込んでいて、白いハンカチで目を押さえ、泣いていた。
「オオ、マジカヨ」
と私は思うや、後ろにいた連れの外国人もビーンよりも大きな声を出して号泣していた。
引退楽日以外の通常興行で、客が涙を見せたのは、私が観たことのあるもので、篠崎ひめさんの「ラブレター」という演目だけであり、私が観たのはその時以来であった。
「おぉ、ビーンも虹歩の美しさがわかるのか」
と私も嬉しく思えた。音と照明、裸体と汗がシンクロされ、非日常のその異空間に、大きな感動を覚えたにちがいなかった。
「おぉ、ビューティフル・・・」
とそう漏らした。
「ディスダンサー、ザットダンサー、イズ、ナンバーワン、ナンバーツージャパニーズストリップダンサー」
と私が言うと
「オーイエス、オーイエス」
と、至極納得した様子であった。
「ビーンも虹歩さんのベッドショーの素晴らしさがわかるのか。美しいものは美しい。しかし、このレベルはなかなか日本にはいないので、たまたま観た日本のストリップが、あいらちゃんと虹さんというのは、凄い偶然なんだぜ」
そう言おうも、私には英語が全く出てこない(笑)
虹歩さんのピクチャータイムを見ていたビーンが
「ハナシカタ、ヤサシイネ」
と私に語りかける。そう言われればそうだなと思えた。そこも人気の秘訣。大きな魅力であろう。
「ジャパニーズ、ナデシコ。ヒップ、ビューティフル」
そうだ。体のラインも美しい。4回目オーラス、仕上がり時間を考えると虹さんのピクチャーを撮れない私は、ずっとビーンと話していた。ピクチャータイムも終わり、私の3回目の預かりデジを虹歩さんが席まで持って来てくれた。
「これ、ぴょんのね~」
と虹歩さんが言うと、握手しながら
「ありがとう。虹ちゃんのステージ観て、感動して外人2人泣いたよ~」
と私が言うと
「センキュー、センキュー」
と笑顔で言って握手していた。最後のオープンショーもいままで以上に盛り上がり、大和ならではのトリの虹歩さんの最後の挨拶も聞け、
そうだこれこそ
“This is Japanese Strip”
だと、いつになく満足した。受付でママさんに深々と挨拶をし、私は階段を足早に降りた。
2013年8中 大和ミュージック
(香盤)
1. 潤奈 (フリー)
2. 香坂玲来 (道頓堀)
3. 星川音々 (東洋)
4. 鮎原かおり (フリー) 周年♪
5. 目黒あいら (晃生)
6. 虹歩 (カジノ)
3演目:目黒あいら
2演目:香坂玲来/星川音々/鮎原かおり
1演目:潤奈/虹歩
観劇日:8/14(水) 2st星川音々さんから終演まで (15:10~23:20)