四人香盤でトリ前が目当て、私は三回目夜間割引の3000円を支払い、いつものようにアジャストで入場したつもりであったが、トリの踊り子が逆回りの回転盆でポーズを切っていた。進行の押しや巻きは、浅草や東洋を除くと撮影時間に大きく左右される。巻くことはままあることといえど、ここまで巻くものかと閉館が噂される劇場のロビーで、私は少しの間待機していた。曲が変わりオープンショーで入場しパチンコフィナーレを待つ。するとあろうことか

「本日はここで終了となります。申し訳ございません」

と投光がアナウンスしたのであった。そして四人の踊り子が登場し、十人弱いた客席に向かって何回も詫びていた。

目当てだったステージを観られず、ポラも撮れず、オープンショーを観られないまま終演した。好物の差し入れだけを私は渡す。前々回観た、中島美嘉の曲でどこか儚く、盆ではエロティクな表情のベッドショーが好きであった。前回預けていたポラを貰い、2分程話したのだろうか。

「時間空いたから、今から東洋行って来るわ」

と私が言うと

「また東洋の話を聞かせて」

と物哀しそうに答えていた。これが彼女と会った最後となる。ステージは観ていない。いくら斜陽産業とはいえ、ストリップのこういう別れは本当に辛い。

帰り際、受付の“お父さん”に

「こんなんで潰れんといてや」

と言うと

「頑張ります」

と返事をくれた。


急いで東洋ショーへ向かう。三階まで駆け足で登ると大好きなチャコの子が出迎えてくれたが、あまり記憶に残っていない。客は20時をすぎようとしているのにごった返していた。この時、二番目に出ていた吉沢伊織を私は初めて観ることとなる。「オーシャン」という演目で、青いドレスでバレエのように舞い、

フープを使ったポーズの数々に目を奪われた。そしてベッドでは

「なんと何度も目が合う踊り子なんだ」と感心したのであった。一つの劇場の灯火が消えかかろうとしているなか、私の鬱々とした気分が、吉沢さんのステージ観て幾分心持ち楽になったかもしれなかった。


先日ツイッターで議論が交わされた「カブリ空席問題」や「匂いのする食事」に関しては、皆一致する意見である。酒の飲めない私には、飲んでいる客の匂いなど一瞬で判別出来る。敏感な女性なら、尚更気にされるだろう。特に踊り子は場内の状況、客がよく見えている。ステージ中、どこに座っていようと、少しでも目を閉じていれば、

「寝ていたね」

と言われた耳の痛い経験は誰もがあるものだ。ツイッターをやっている人間なら、これらの話題に上がったモラルに反することをおそらく無いこととは思うが、気付かず劇場ですごしている人達をどう対処していくかが問題となる。

仕事帰りで劇場へ向かう時、一番綺麗なワイシャツを選び、朝剃った髭を車内でもう一度剃る。そしてポラに並んでいる時にフリスクを一粒口に含む。まるでデートにでも臨むかのような意気込みで私は並びに参加する。それでも私でさえ気付かなかったワイシャツに付いたボールペンのシミを北川れんちゃんには指摘され、匠悠那ちゃんには服の汚れを気付かれたのであるから、いかなる時でも踊り子は客を観ていると思っていてもよい。少しぐらいは小奇麗な格好でステージは観たいとも思う。


この日しか会えない。仕事帰りに2巡観る。本来なら開演から観たいところであるが、時間的に許されない。今週2個出しであるから、軽く挨拶出来るではないか。122日目。平日の東洋ショーへ仕事帰りに私は向かった。



201512頭 東洋ショー

(香盤)

1. ショウコ (ロック)

2. 伊吹千夏 (東洋) 周年♪

3. 吉沢伊織 (川崎) 東洋ラスト

4. 葉山瞳 (ロック)

5. 周防ゆきこ (東洋)

2演目:吉沢伊織

1演目:ショウコ/伊吹千夏/葉山瞳/周防ゆきこ

とりあえずゆっくりと2枚撮る。煩い古参とは違い、ラッキーなことにサポートの従業員は新人君ではないか(笑)。

「久しぶり~」

と吉沢さんは言うものだから

「お久しぶりです。良い演目でした。でも覚えてないでしょ。たぶん3年ぶりです」

と私は挨拶を交わした。

「なんか覚えてるんだよ~」

と満面の笑みで言う。そんなに見つめられると男は誰だって落ちるにちがいない(笑)。

ラストだから、荷物にならない程度の簡単なプレゼントを渡す。捨てられても全く構わない。

「何これ。嫌だ。まだ2日目だよ。待ってる」

12頭の関西は、3館とも熱いんだ」と私は言えなかった。


私は過去、吉沢伊織さんを観たのは6週である。前回東洋で会ったのが3年前の201210結。直近では2年前の20134月の浅草以来である。今で言うと“リア友”よりもストリップで知り合った人の方が、明らかに圧倒的多く、至る所から彼女の魅力を聞いていた。所属が川崎ゆえ、ホームが関東になるのであるから、これはもう巡り合わせが悪いとしか言いようが無かった。所属が関西であったならば、間違いなくヘビーに追いかけていたにちがいなかったであろう。


い間お疲れ様でした。
前回挨拶をしてお別れしようかと思っていたのですが
「まだ2日目だよ」と言われたので、やはり来ました(笑)。
Angel」は素敵な演目ですね。今までで一番好きな出し物になりました。
もがきながら、天使が飛び立って行くようなイメージだと勝手に理解しておきます。
自分のことを
「なんか覚えている」
と言われたのには驚きました。東洋では3年ぶり。今まで観た中では「オーシャン」という出し物が印象に残っています。それから2年前の4月の浅草で会っています。きっとこの時にベッドで沢山目が合ったから、自分のことを覚えているのだと思っておきます(笑)。
ラストまでもう少しです。応援しています。
幸せになって下さいね。



4回目3番、吉沢伊織の渾身のステージを終える。気持ちが入るというのはこのことなのかとさえ思えた。かつて友人に

「同じ出し物でも毎回違うじゃん」

と言われ

「出し物が同じなら同じです。それはあなたが恋をして盲目になっているからです」

と言いそうになるのを思い留め

「そうですね」

と私は無機質に答えたものの、それがいまいちピンと来なかった。しかしラストの演目だけはまるで違ったように、この時の私は感じたのであった。

「おぉ、あの時言っていたのはまさにこのことだったのか」

とあらためて思った。


楽日ぐらいはトリになるかと思っていた。これは誰でも予想はつくだろう。10年の踊り子人生集大成。関西ラストステージ。最も美しい時に人気絶頂のままの引退。ラストロードを経て、ある意味理想的な引退ともいえる。しかし東洋は香盤順の変更をしなかった。

ここでトリプルのオープンショーで終わってしまったのならば、興行でいう“変な感じ”のまま、否わかりやすく言うと、“腑に落ちない”関西ラストになるのには間違いなかった。この日の盛り上がりは、トリではなく、どう考えても三番目の吉沢伊織であったからだ。しかしながら今までの例から東洋ならそれもありあえる。吉沢さんの最後のポラは伸びに伸び、時刻は22時を回っていた。ポラも終わった。トリプルのオープンショーが始まる。“いつもの”3人でやるオープンショーである。

“いつもの”トリプルのオープンショーが終えると、吉沢さんのオープン曲が流れ、客が沸いた。そして出演した踊り子が花束を持って登場したのであった。

これには吉沢さんも驚いたようで投光さんから最後のメッセージを求められた。

「何も聞いていなかったので、言葉を用意していないよ。最後に東洋に乗れて嬉しかったです。大阪が大好き。大阪の皆大好き。最後の20日間は全力で踊ります」

と、はっきりとした言葉で締めくくった。そして曲が流れる。

いおりんラストのオープンショーは、チップ、祝儀がこれでもかというぐらい舞う。

「そうだ。俺はこんな浮世離れをした、こういうストリップが、オープンショーが好きなのだ」

曲が終わり、いおりんの掛け声の後、低く野太い観客の絶叫が響いた。

「いえいいえい」


出来上がった写真をチャコ嬢から貰う。
「これからも同じ空の下がんばろう」
と書かれてあった。
劇場を出るとあれ程降っていた雨も幾分和らいでいた。寒空の下、傘を持っていない私には、熱くなった体に調度良いぐらいであった。

観劇日:12/2(水)/12/10(木)