どんなに目を大きく見開いても、どんなに目を細めて凝視しようとも、そこに何も見えやしなかった。

「はて!?確かに投光はオープンショーと言ったはずだ」

いったいどこをオープンしているというのだと、私はあきれ返りながら無駄な時間をズルズルとすごしていた。


大の大人なら
「こういう事を言ってはならぬ」というものがある。
「あの街は異常やで」
と、中学生の頃から伝え聞いていた。

日雇い労働の街、大阪市西成区。全国でも日雇い労働者が集中し、路上生活者が多い。生活保護、覚せい剤、暴動、暴力団・・・。はっきり申し上げると、治安は良くない。

晃生のある布施の二つ隣の鶴橋なら、駅の中からでも牛肉とタレの焦げた匂いが鼻腔をくすぐり、良い香りが立っている。しかしここだけは違う。最寄りの駅を降りた瞬間、鼻を刺す空気が漂う。大便と小便が混ざり合った臭気が襲ってくるのである。

こういう事は口にしてはいけなく、眉をひそめるぐらいで、見て見ぬふりをし、腫れ物を触るようにして、何も語らぬよう大人は、社会はしてきたのかもしれない。これが関西の棲み分けというものなのであろう。

去年、ミナミへ遊びに行った時、少し時間があったので西成の新地を軽く回った。昔ながらの遊郭があるところで、
「可愛い子がおらんかな~」
とほんの軽い気持ちで赴いた。駅を降りると、立ち小便ならぬ歩き小便をしながら、出来上がったフラフラの浮浪者が向かってくるではないか(笑)。飛田へ向かうアーケードのところで、怪しげな露天があり、そこに妙な物を売っていた。
「おっちゃん、この錠剤なんや?」
と私は聞く。
「兄ちゃん、ミンザイやで、ミンザイ」
と、そのおっちゃんは答えたのであった。
「ミンザイ!?もしかして…。さすがに堂々とは売れんやろ」と思いつつ、帰りの道中で調べてみたら、睡眠薬とのことであった(笑)。よくこんな物をと、寒気が止まらなかった。

色街を軽く一回りし、えらくべっぴんさんな子が揃った通りの、誘惑に負けそうになりながらも、さすがにべらぼうに高い料金の遊女との自由恋愛を楽しむ甲斐性など、今でも持ち合わせてはいない。酒焼けしたガラガラ声のおばちゃんの呼び込みと、怪しげな照明はどこまでも淫靡であった。

駅に戻ろうとしたら、その露天は、当然ながらやっている。裸でむき出したパッケージの無いDVDなど、買い手がいるのかどうか不思議であった。

駅へ向かうと、路上で老人二人がケンカをしていた。周りの浮浪者が止めに入っていたが、エキサイトして二人を止められない様子であった。ヤジ馬になって私も見ていたものの、馬乗りになって繰り出されるパンチの数々が、老人らしく弱々しく、小学生以下の子供のケンカ並みに見え、怪我するどころか、思わずじゃれ合っているのかとさえ思え、不謹慎にも吹き出しそうになったのであった。
浮浪者のポケットから落ちたと思われる、新品のガラケーが、爺さん達の身なりに合っていなく、どうもそれが盗品のような気がし、何故か妙にその街に溶け込んでいた。


―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


久しぶり会う友人と、昼食と夕食をゆっくり食べようという話になった。
「ストリップ行ってる?」
と聞かれ
「去年の夏以来、行ってへんな」
と答えた。
「少し前、めっちゃ行ってなかった?」
「今は色々と事情があんねやわ」
と言っておいた。

昼食終え、夕食までは5時間以上と相当時間がある。
「風俗行く?それでも相当時間あまりそうやな」
と言い出してきた。
「俺は、腹いっぱいなったら、性欲が弱くなる」
と私は言った。

「晃生か東洋は?そんなに金かからんやろ」
「金はそんなかからん。両方楽しいところは間違いないんやけど・・・」
「オッパイぐらい触りたいやろ」
「晃生も東洋もオッパイは触られへんで」

どこまでストリップを知っているのか、薄いストリップの知識しか持たぬ人など、そんなものなのかもしれない。
「ほんだら、西成行く?素人やから確かおっぱい触り放題やで」
と私は言った。素人館ならこの場合における処々の問題もクリアできそうだ。これなら私も許されよう。
夕食は十三で焼肉を食べようと言うことになっていたから、西成区にある劇場はむしろ好都合であった。

車で向かうとナビに劇場が出たから早い。車は近くのスーパー玉出に置いた。2008年か2009年だったか、一度行った以来だから実に6年以上空いている。その時もこの友人と行ったが、内容は思い出せない。唯一思い出せるのが、素人遊びにこの友人に誘われたことぐらいで

「良かった」

と顔を赤くして友人が戻って来たぐらいである。内容を聞くとかなり請求されたようで

「ゴム付き.手コ.キなんざぁ、カワイイ子で3000円、おばちゃんで2000円が相場やで」

と私が言いそうになるのを、とても満足気な彼を見て思い留めたことぐらいである。

近くのアーケードを通ると、今度はおっさん同士がケンカしていた。大人のケンカなんてそう見る機会がない。昨年の西成で見た以来であった。
劇場は古びた住宅街の中にひっそりとある。その隣の大衆演劇は、20年ぐらいたち、赤玉が出ている頃に、私も行くのかもしれないと思いつつ劇場を目指した。

オレンジ色の壁で無言の受付。中の顔は見えない。
「携帯の割引画面使えますか?」
と言うと
「大丈夫です」
と答えたので、私達は4000円を支払った。

「劇場の構造はこんな形だったかな」と思いつつ、2階へ上がり場内に入ると、日曜なのに私達を入れて4人であった。汚い破れたソファーは当時のままのものだと思わせるには十分であった。ステージとは真逆に向いた両翼の後部座席が異様に映った。そこで客と踊り子と思しき若い子が抱き合っている。盆の上では素人が入り口に背を向けて、何故かずっと柔軟体操をしていた。

異様に映っていた、両翼の後部座席では、客と素人が遊んでいた。片側では重なり合い、もう片側では、暗くてはっきりとは見えない。なんか素人の腕が高速で前後していたような(笑)。しかしこれは個室ではない。まぁ、しきりのないピン.サロと言ったところか。これぐらいのお遊びぐらいはあってもいいだろう。

何分たってもショーが始まらない。たまらず二人でロビーへ出て、
「全然始まらへんなー」
と言っていたら、従業員が
「もう始まってますよ」
と言ってきた。後でわかったことは、私達が調度入場した時、チケットを使った客とイチャイチャタイムだったようだ。それが終わると素人のショー。紐パンで少し下の毛が見えていた。これを多く語るものではない。ダンスは素人。チームショーはお遊戯。話しながら笑いながらやっていた。批判するつもりはない。絶対にプロには勝てるものではない。間違いなく30秒で飽きる。

黒服にチケットを買うように勧められた。私は謎の200円紙幣5枚を、場内後部で目を光らせた黒服から買った。200円札5枚は、“オープンショーぽい”セクシーショーの後、新人さんに全部上げた。

後ろで行われている、甘い誘いがきっとあるにちがいないと(笑)。

すると一瞬抱きついて、終わった。
「こんなにくれるの?懲りずに来てね」
と言われた。

「来るかどうかは客が決めるんや」

と言うのを止め

「楽しかったからまた暇な時があればね」

と私は答えた。あらら、オ.ッパイすら触らしてくれないのね(笑)。

それにしても、私達の目的であったオッパイを触ることは、無かった(笑)。ここは触ることが出来ないようだ。6年前もそうだったのかな(笑)。

十三で焼肉を食べながら、友人が
「どう楽しかった?」
と聞いてきたので
「楽しいわけないやん。でもストリップってこんなんじゃないで」
と、カルビを頬張りながら、強く言っておいた。

「こんな素人のステージが俺の最後になるのか」

と思っていたら馬鹿らしく思えてきた。

「もういいだろう」と。

3結には木城レナが東洋にて休業、4頭にはHIKARUのまさご座ラストの迫っていた、3頭のある日曜日の観劇のことであった。