売上の低迷により社長がえらくご立腹の様で、今度の管理職会議では私を名指しで指名するから、当たり障りの無いプレゼンを考えよと、進行役の本部長から社内メールを頂いた。いくら下位の成績とはいえ、用意が出来るという点においてこれは楽であった。

 

冒頭、社長のいつもと同じことしか話せぬ講和を、メモを取る振りをして右から左へと聞き流していたが、2分を過ぎたあたりから徐々にヒートアップし、角のある言葉で叱責し始める。ツマラナイ話もやがて30分を超えた。確か社長の持ち時間は20分であったのであるが、いつまで経っても止める気配が無い。後の議題も多く控えていることも、彼には関係無かった。

 

不意に社長が私に向かって

「〇〇君、商売の基本って何?」

まるで大学の試験のような、漠然とした広い問いに対し、全く用意していなかったが

「利益の追求です」

と、何年か前に社長が言っていたことを私は答えた。無難な答えであったはずであったが、

「ドアホ!感謝の心なんやわ。京セラの稲盛先生の本、読んでる?」

「はい、読んでおります。勉強不足でした」

一向に怒りは収まらない――。

周りの連中は

「あぁ、そうだったのか。それが答えだったのか」

とまるで御言か金言のように、皆メモを取っていた。

 

2時間の会議のはずが、やがて3時間を超え、居残りの勉強会とやらに強制参加させられるという事態に、確か人事が労務管理とやらを一生懸命説明したはずであったが、何ら意味をなさず、いつものように不毛な会議であることに変わりはなかった。

 

過度のストレスを感じたら、ストリップか新地と決め込み、私はここ数年、生への倦怠を回避してきた。日常で疲労を感じたら非日常で解消せねばならぬ。蝕み傷を負えば、それを癒さなければならず、乾いた心に潤いを与えなければならない。非日常を味わい、それらを満たすには劇場しか私の居場所はあるまい。仕事を忘れるためにはストリップと、観始めた頃と変わらない。踊り子がいなくなり、しばらくしてふと断片的に思い出すのは、ステージのワンシーンとなっていくものだ。さゆみ引退寂しさを紛らすためなら、大阪の劇場でも良いのであるが、心は大和の開館記念へと決まっていた。それも少しぐらい潤うだけではだめだ。水浸しになるぐらいでないと大阪へは帰れない。「二の線はいらない、一の線から追いかける」というスタンスに、私は嘘を付けるはずがなかった。通常シフトを繋げただけの2連休は、タイトで密な仕事な上、会議後の残務と休み明けの膨大な仕事量が目に見えているが、ここでの妥協は一切出来なかった。

 

定刻である午前5時にいつものように鳴る、スマホの不快な電子音とともに目覚めた。

「やってしまった」

ほうほうの体で家に帰り、晩飯を取りながらカプセルの予約を取ろうとしていたところで、気絶するように眠りに落ちていたのであった。今年初めてプロテインを飲まずして、脱兎の如く駅に向かったものの、僅かの差で始発の新快速を逃してしまった。18きっぷの脆弱さを露呈してしまったが、2回目には間に合うから良いと思わざるしかなかった。財布の中には1万円しか入っていなかったが、一泊二日で劇場行くにはそれで十分であった。

 

「大丈夫です。昨日はパンプレで、トリプルになり押しました。今日もダブルスタンプですから、昨日のように混みます」

「ダブルスタンプというのは、そんなに混むのですか?給料前ですけど?」

「混みますね。着く頃には、きっとさゆみちゃんのステージ前ぐらいですよ」

「いやぁ。始発を逃してしまったので、間に合うかどうかも微妙です」

前日から入念な支度をするのが旅の心得としていたが、私は油断していたのかもしれない。

 

早朝より会社の連中からのLINEのメッセージが大量に来ていたものの、恋愛や仕事の駆け引きなど一切出来ぬ私は、「既読して無視」と決め込んでいた。

「本当に用事があるのなら、電話をかけて来い」

そう思っていると、本当にかかってきた。

「今日はお休み頂いておりまして、今電車に乗っておりますから、9時間後、あらためてお電話差し上げます」

9時間後?」

「えぇ。普通列車に乗っていますから、9時間後」

何もかも逃避し、車窓からゆっくりとした景色を眺め、文庫本を読むには贅沢で調度良い長さであった。

 

 

20173結 大和ミュージック ~開館記念興行~

(香盤)

  1. 相田樹音 (フリー)

  2. 平野ももか (道頓堀)

  3. 神崎雪乃 (晃生)

  4. 望月きらら (晃生)

  5. 春野いちじく (TS)

  6. 石原さゆみ (道頓堀)

     

 

藤沢に着いた頃には、

「今、一回目が終わりました。昨日よりは早いみたいです」

と関東の友人から聞き、仕方あるまいと駅で髭を剃り向かう。ここはテケツで目当ての踊り子を聞かれるようだ。あまり馴染めないシステムであったが

「全員です」

と答えておいた。

 

16時に入場したら、雪乃姐のオープンショーであった。歯肉を私に見せ、いつものようにニヤっと笑っていた。

「先週以来ですね」

と私も笑いながら応じた。

 

さゆみちゃんの新作は、サラリーマンのスーツ姿。コミカルな動きから、曲が変わると、なんとエプロン姿のパン屋さんの店員へと変化していく。

まるで今の私の心情に対し

「脱サラして好きな仕事やりなよ」

と、心にグサリと刺さり、見透かされ、まるでそう言われているようでもあり、

「いやいや。別に今の仕事が嫌いではないんだ。ただ、サラリーマンなんてものは、納得出来ない、理不尽なことが多すぎるんだよ」

ここまで強い情動が生まれ、心が乱される踊り子のステージも少ない。やがてのめり込むようにそのベッドショーにのめり込んでいった。

 

もう一つの演目はグリーンのビキニ姿。投げられたビーチボールが、いつの間にやらさゆみちゃんに焦がれ、見とれていたのかキャッチ出来なかった。夏の日のワンシーンを思わせるステージ。こちらも惚れ惚れするベッドショーであった。

 

ポラの時

「お腹空いてない?」

と聞かれたが、長い合ポラの時間を利用して、友人達と済ましたところで、2カ月ぶりの大量の糖質とビールに、頭の回転は冴えわたり、好きな踊り子ばかりの香盤に、いつになく高揚していた。

「調度食べて来たところだよ」

と私は答えた。

 

以前東洋ショーで

「顔赤いよ。お酒飲んでる」

と笑っていたが、さゆみちゃんのオープンショーの後、2時間半の中休憩を取り、ジムへ行きトレーニングしてから、日焼けマシンで焼いて東洋に戻って来たらそう言われた(笑)。まぁ、ステージ観ていたら顔が赤くなってのかもしれない。ちなみに大阪の劇場では一切飲まない。

 

しばらくして場内から売店を覗くと、なんとさゆみちゃんがカウンターに立っていた。そういうことだったのかと思ったが、さすがに入りにくかろう。「次の機会にでも」と思ったが、もうそれも無い。東洋のチャコや晃生のふくろうも、なかなか常連にならないと行きにくいのと同じであろう。

 

久しぶりの大和は結構な賑わいで、4回目は酔いが回った一見さんが少々騒いでいたりもした。女装したタンバさん達がその一見にマナーを諭すという場面に遭遇する。アドバイスが良かったのか、その後一見さんも納得の様子で楽しく観劇されていた。あまり熱心に通う客でも滅多に見る事のないその光景ではあったが、大和の場内においてはある意味馴染んでいるようにも思える。劇場内はまさに非日常だ。女性客を増やすことが、業界全体の総意だと思っているが、彼女らがこの光景を見た時、きっとプラスの作用が働くに違いないはずであった。

 

 

観劇日:3/23(木)