玄関先で女の子から飲み物の三択を迫られる。

それがどんなものかはわかっていた。

「何があるん?」

とあえて私は聞いた。

「お茶とコーヒーと炭酸」

とその子は答える。

「冷えてる?炭酸ってどんなん?」

「冷えてんで。オロCのパチモンみたいなやつ」

前回コーヒーを貰った時は、甘味料と保存の薬品臭が酷く、それは飲めたものでは無かったので、もう同じ物は貰わぬと予め決めていたのであった。

「ほんだら、お茶頂戴」

と受け取り、手を振って別れた。またしても名前聞くのを忘れた。いや、もう二度と会うことは無い。きっと彼女も忘れて欲しいにちがいなかった。一時の桃源郷で一期一会の世界。俗界から遠く離れたところであり、ここはそういうところなのだ。

 

「金は汚く稼いで、綺麗に使う」と言えど、ニ段階昇進したところで、僅かに増えた手当ての代償は、自由な時間を確実に少なくさせた。過労死ラインギリギリまでの奉仕労働は、無駄にある体力だけが唯一の救いなだけであって、こう毎月のようにさせられてはたまったものではない。取引先の名刺と書類への判子を押す回数が増えたことを除くと、その責任を転嫁させられることぐらいしか仕事量として増えたにすぎず、一人で生きていくには、明るい肩書など一切いらないものなのであった。

「どうして夏季賞与が下がるんだ」

職位だけは立派なものとなったのであるが、このやり場の無い怒りは、全身に回ったコルチゾールに末端まで蝕み続けられた。これを吐き出すため、そして枯れ果てぬ体力を使わんがため、私は再び物色し始める。

 

この新地において、この聞いたことのないメーカーの通称“かんなみ茶”を持っているだけで、恐ろしい程の効力を発揮する。一度これを手に持つと、関西一ヒキの強いおばちゃんの呼び込みが皆無となる。この不思議な飲み物を私はチビチビとやりながら、一周五分とかからぬ路地裏を肩で風を切って闊歩していく。他所からヒヤカシに来た者は、この強引な客引きに耐えられなく直ぐに逃げ出して行くだろう。何週かしているうちに、痺れを切らしたのか今が旬の松居一代に似たおばちゃんが話しかけてくる。

「兄ちゃん、遊んで来たんかいな?」

「そうやで」

やはりこのお茶を持っているとヒキは弱い。接客用語と関西弁敬語があるとするならば、それらを完璧に使いこなす私でさえ、その両者ともこの地では必要とすることなく、近所のおばちゃんと話す感覚でここは良いのであった。

「もう1回遊ぼう思うてなー」

この言葉を待っていたかのように、“いつものヒキ”がより強くなっていくのであった。

「ええ子やで。入っていき」

手に持っていた煙草を口に咥え、両手で私の肩を引き寄せる。

「いやぁ。ええ子か悪い子かはわからんやん」

私は当然渋るのであった。加えて

「おばちゃん5分オマケしてや。上がるから」

「そんなん出来ひんわ」

ここで値引き交渉などしてはいけない。時間延長を持ち掛けているのだ。実質は同じなのであるが、言葉の響きが違うであろう。

「たぶん大丈夫やねんけど、2回目やから頼むわ。上がるから」

「兄ちゃん、そんな遊び方、粋やないんやわ」

5分だけ」

「粋やない。そんなん、女の子に任せといたらええねん」

と、いつものように強いおばちゃんのヒキに負けるのであった。時短されているであろう5分前アラームでさえも、実際は事を終えていたのであるから延長交渉は必要としなかった。いやもしかしたら、気を利かしたおばちゃんがオマケしてくれていたのかもしれない。またしても名前を聞くことを忘れた女給から、今度はパチモンのオロCを貰いその日を終えたのであった。

 

「兄ちゃん、粋だねぇ」

隣に座っていた知らない下町のオッチャンに話し掛けられる。踊り子にオープンショーで遊ばれていると、下町のオッチャンが声を掛けてきた。大阪人特有の誰にでも入り込んでいく土壌は、晃生では殊更輪を掛けて他人に干渉してくる。圏外から来た人間には疎ましく思えるかもしれないが、それはもう自然なものであった。

4回目に写真を撮ったら、受付返却になりますからねぇ。いつも撮らないんですわ」

ルーティンは3回観たら帰るのが常なのであるが、今週4回目を観ることが3回出来た。従業員の受付返却などどう考えても味気ないではないか――。

「いやぁ。踊り子がパンストで出てくると、挟みたくなるんですわ」

と私は答えた。

「目が合ってね、オープンしてくれてね、そこにパンストがあるとね、なんか踊り子さんもええ感じに遊んでくれやないですか」

と笑った。新地では無粋な客であったとしても、劇場でのこのオッちゃんにだけは、少しぐらい粋に私の姿が映っていて、少しは綺麗に金を使えているのかもしれなかった。

 

 

20177中 晃生ショー

(香盤)

  1. 虹歩(カジノ)

  2. 神崎雪乃(晃生) 

  3. 平野ももか(道頓堀)

  4. 来夢(晃生)

  5. 青山はるか(晃生)

 

4演目:青山はるか

3演目:虹歩/神崎雪乃/平野ももか/来夢

一度だけ虹歩さんと雪乃さんのチームショー(雪虹)が観られました。

 

虹歩さん

レインボーカラーの衣装で、洋楽で踊りまくる演目。ピンクの道化師で、扉に入り戻って来ると次々に変化していく演目。もう一つは浴衣を着て、恋人とデートをする夏らしい演目。最後はハッピーエンドへ。

虹歩さんは晃生の開館記念は毎年のように出ていますね。晃生で会う度に観たことのない演目を2つ観られます。

先週、腰を痛めたそうで、まだ全快でない様子。ブリッジは封印していましたが魅せるベッドショーは健在。早く良くなって欲しいですね。

 

神崎雪乃さん

洋楽で踊りまくる2作品と、淡い浴衣姿でしっとりと舞う演目の3個出し。どの演目も初めて観る作品でした。どれが周年作か聞くのを忘れた(笑)。虹歩さんとのチームショーは、踊り巧者なお二人だけに見どころ満載でした。デニムの衣装は雪乃さんに合わせたものでしょうか。投光に入っていた格子戸さんの掛け合いも楽しかったですね。何周年なのだろう(笑)。

 

平野ももかさん

白のミニドレスから、フワリと白のワンピースでゆっくりとしたダンス。女性ヴォーカルのバラードで、白い下着からのベッドショー。ア.ナ雪のメロディから青いマントから激しいステップ。回転しながら、黄色のドレスに早着替え。オレンジのワンピースになり、ベッドへ。あともう一つはデビュー作でしょうか。こちらは終始ゆったりとしたステージでした。

若くて白く綺麗な体。ポラは大人気でしたね。

 

来夢さん

周年作とデビュー作、2作目の3演目。

周年作は髪をツインテールに束ね、花が沢山付いた白いミニのウエディンドレス。ベッドではオナベッド。意欲的でオンリーワンな作品。

「この演目は来夢ちゃんが創ったの?」

「衣装と曲は自分で選んだ。振り付けは先生にしてもらった」

とのこと。衣装と曲は自らの意志。踊りは自信があったとしても、ストリップ用のステージがあるのだから、プロの先生に付けて貰う方が良いのかもしれない。

好きな曲が流れ、好きな衣装を着て、綺麗な照明を当てられる。魅力のある世界であるけれども、客受けにはハードルが高い厳しい世界。

それにしれも来夢ちゃんのポラとオープンショーは楽しいね。

 

青山はるかさん

5月に出した新作を含む4演目。

ツイッターで早々に4個出し宣言をされていましたから、4回観るべく計画を立てていたものの、4回観られたのは1日だけとなってしまった。

「旧作1演目なら、1巡観て帰る」と、どう考えても愛の無い言葉を今まで私は発していたけれど、その心配はもういらないみたい(笑)。実際は2回はいるのであろうが、劇場が違えば良いのだけれど、同じ劇場なら複数観たいと客側は思っている。はるちゃんには、勝手に恩を感じているので、それを私は返さないといけない。真剣に観るというぐらいしか、私には出来ないのであるが。

4回目のオープンショーはバックダンサーとしてももかちゃんと来夢ちゃんが踊っていて、どちらに目をやって良いか悩ましい状況でした。それぞれ「めろりーぬ」、「れもりーぬ」とのこと。仲が良いですね。

 

一年を占う開館記念。それを彩る豪華メンバーに、階段には全国の劇場から胡蝶蘭が所狭しと並んでありました。晃生の場内は寒すぎたり、暑すぎたりするのだけれど、適温という言葉があるならば、少し暑いぐらいが夏場は体調を崩さない。汗をかくぐらいで調度良いのだ。赤い照明は間近で観ると欲情を掻き立てるものなのであるが、下手側から観ると、左眼に強い照明と右眼に濃い影のコントラストをはっきりと映し出して、汗を帯びた裸体をより美しいものとさせるのは、晃生ならではのものだろう。

 

休みの日はたまたま平日だけだったけれど、なかなかの混み具合で、踊り子さんも楽しそうでありました。

 

 

観劇日:7/12(水)、14(金)、19(水)